このレポートは、「日本の廃道」2005年9月号、10月号、11月号に掲載した「特濃!廃道あるき」をリライトしたものです。
当記事は廃線探索をテーマにしており、不用意に真似をした場合、あなたの生命に危険が及ぶ可能性があります。当記事を参考にあなたが廃道へ赴き、いかなる損害を受けた場合も、作者(マイみちスト)およびみちこ編集室・道の駅連絡会は責を負いません。

所在地 岩手県八幡平市(市道 藤七温泉線)
探索日 平成17(2005)年7月24日

W地点 ”温泉廃道”
2005年7月24日13:18

麓の柏台(旧屋敷台)の街から、東北最高所にある藤七温泉を目指した、高低差約900m全長14kmにも及ぶ遠大なジープ道(旧県道大更停車場八幡平鹿湯線・現市道藤七温泉線)の旅も、いよいよ終わりが近い。現在地は、地形図上には名前のない温泉記号が描かれている藤七沢の谷底で、海抜は1240mだ。藤七温泉まで残り1.1km前後とみられる。

そこには、温泉があった。正確には源泉と言うべきか。温泉施設として開発されていない、自然に湧き出し、そのまま藤七沢の流れに出ている源泉だ。周囲の白茶けた景観から硫黄の露頭があることは一目瞭然であり、藤七沢の水の色も明らかに白濁している。このような視覚的な要素だけでなく、嗅覚に訴えてくる硫化水素臭(いわゆる温泉臭)と、肌に感じる明らかな高温は、地熱を帯びた噴気の存在をも物語っていた。

だが、真の驚きは、この道にこそあった。

私が直前まで踏んでいたのは、長く苦労を共にしてきたジープ道に他ならない。その原因はすぐに分かったが、ここだけ路上の藪が薄く、まるで現役の道のように敷かれた砂利が露出していた。

その砂利の路肩に高さ2mほどの石垣が積まれていて、川と道を分けていた。写真の石垣だ。

この石垣に驚くべきものを見た。

なんと、石垣の下から、気泡混じりの水ではなく熱湯が、コポコポと湧き出していた

もちろん、温泉である。ここには源泉があると書いたが、なんとそれは私がいた道の石垣の下から湧き出していたのである。

湧き出してきた部分に指先をつけてみると、50~60℃はあろうかという熱湯で、水で薄めればちょうどいい湯加減になりそうだった。

源泉はこの写真の○印の位置に湧いている。すぐ脇の同じ高さを水温である藤七沢が流れている。作業は大変そうだが、上手く川底の石を動かして源泉と川水の入る湯舟を作れれば露天風呂ができる。(なお、現地は国立公園内の第二種特別地域に指定されており、地形の改変に制限がある。使用後に原状回復すれば違法では無いと思うが注意して欲しい。)

廃道の近くに温泉があるどころではなく、廃道そのものから温泉が湧いているというのは、これまで沢山の廃道を見てきたが、もちろん初めての経験だった。

これは地表を削って道路や石垣を作ったことで温泉を掘り当てたのか、もともと湧き出していたところに石垣を乗せて道路を作ったのか。記録がなく由来は分からないが、とにかく昔の人はすごいところに道を作った。

そして、道から湧き出しているのはお湯だけではなかった!

シューーーーー!

シューーーーー!!

シューーーーー!!!

石垣の隙間に噴気孔が!!

熱気を上げるこの噴気孔はもちろん生きており、周囲に硫黄の結晶を析出させている。これは自然硫黄の針状結晶だ。熱源である地下にはなお大量の硫黄鉱石が埋蔵されているのだろう。それを採取していたのが、東洋一の硫黄鉱山と謳われた松尾鉱山だった。

ただ、ここは実は危険かも知れない。露天風呂遊びもやめた方が無難かも。さっきから強い硫化水素臭を感じると書いたが、これは有毒なガスだ。大量に吸い込むと昏倒し最悪死亡する可能性もある。現にこの写真にも、蜂の死骸が写っている。硫黄が綺麗だからと、噴気孔に頭を突っ込むなど言語道断である。そもそも顔が熱くてそんなことはできないだろうが…。ここは谷底で風もあまり吹いていないので、あまり長居すべきではないかもしれない。

先ほど、この場所の路面だけ草が生えていないと書いたが、その原因も地熱であった。噴気孔の周りだけでなく、その周囲の地面にも明らかに熱源となっている部分があり、砂利が露出している周囲は、特に熱かった。石垣の石も熱を帯びているものがあり、そのせいか、ここはヘビがとても多かった。写真にもヘビと、その抜け殻が写っている。

以上、自然の営みと、道路という人為が交錯して誕生した、世にも珍しき

“熱源廃道”

の実況でありました。

2023年も“熱源廃道”は健在!

2023年10月13日に、私は18年ぶりに現地を再訪した。道の険しさは、藪の濃さという面から明らかにより過酷なものとなっていたが、紅葉と晴天に恵まれた“熱源廃道”は感激的に美しかった。

一般的に源泉というのはデリケートなもので、20年近く放置されていればすっかり死滅していても不思議ではなかったが、ここは熱量自体がよほど豊富なのか、18年前と全く同じ石垣の下から同じくらいの量の熱湯がコポコポと湧き出していた。指先の入浴、きーもちよかったよーー。

そして石垣の隙間の噴気孔も健在! 噴気孔の数が増えており、より活動が活発になっている気配があった。匂いも相変わらずだから要注意だ。しかし、ここの石垣は途中まで崩れているのに、良く保っていると思う。

噴気孔の硫黄結晶も健在。ここは石垣の隙間だから、石垣を解体すれば本来の地面に開いた噴気孔が現れるんだろうか。地球の息吹を感じる。

石垣の上の砂利の路面が露出している範囲も以前と変わらない。ここは全体に地熱を帯びていて、植物の侵入を阻んでいる。ござを敷いて寝っ転がって地熱浴をしたら気持ちよさそうだけど、重ね重ね硫化水素中毒には気をつけて。長居するなら、酸素計必携だ。(私はうっかり車に置いてきてしまったので、今回も長居はしなかった)

この旧県道は、道としては死んでいるけど、地球の息吹的にはすごい生きている! 笑

次回、雲上の楽園へ向けて、最後の苦闘を演ずる!