このレポートは、「日本の廃道」2005年9月号、10月号、11月号に掲載した「特濃!廃道あるき」をリライトしたものです。
当記事は廃線探索をテーマにしており、不用意に真似をした場合、あなたの生命に危険が及ぶ可能性があります。当記事を参考にあなたが廃道へ赴き、いかなる損害を受けた場合も、作者(マイみちスト)およびみちこ編集室・道の駅連絡会は責を負いません。

所在地 岩手県八幡平市(市道 藤七温泉線)
探索日 平成17(2005)年7月24日

X地点 最後の激藪
2005年7月24日13:33

廃道の下から湧出している、まさにオブローダーのためにあるような名もなき源泉で、しばし両手に癒しを与えた我々は、精神力の回復を果たし(この日は気温が高く、サウナのようでもあった)、いよいよこの道のラスト500mへ突入する。

引き続き道は背丈よりも高い藪に塞がれていて、進むのは容易ではなかった。だが、そんな藪の向こうの藤七沢対岸に、白いガードレールを伴う道路の姿が見えだした。その正体は、藤七温泉と松川温泉を結ぶ県道318号線。アスピーテラインに続く第二の観光道路の晴れ姿だった。

今すぐ藪を逃れ、探索を切り上げる選択肢が与えられたが、そんな中途半端をするためにここまで耐え続けたわけではない。行き交う車の音を間近に聞きながら、足元の廃道を辿りきることにする。

密生した笹藪が、我々の達成に最後の抵抗をしている。高度が森林限界に近づいたか、樹木はほとんど立ち枯れて、白骨の姿を晒している。そんな樹木の相と、いつもよりも近くに感じる青い空。とびきりの高山に辿り着いたことが実感される。

ところで、路傍にある立ち枯れた木の1本に、興味深いものを見つけた。

立ち枯れた木の幹に取り付けられた、二つの碍子。碍子は陶製の絶縁体で、電線と電柱を絶縁するために取り付けられる。つまり、この天然の樹木は、かつて電柱として、この場所で使われていたことが確定する発見だ。

立ち木をそのまま電柱として使うという原始的な行為が、工業生産による電柱を外から運び込むことが難しい山奥では、かつてはしばしば行われていたようだ。私がこれをよく目にするのは、森林鉄道跡である。

ここには藤七温泉へ通じる道だけでなく、同所を点す送電線も敷かれていたことがあるのだろう。

Y地点 源泉ポンプ場
13:40

パッと、ひらけた。

荒涼感!

なにやらひどく荒涼とした、運動場ほどの広さの空き地に出た。そして、再びの硫化水素臭。

広場には小さな池と、それより小さな水溜まりがあり、水溜まりの脇には、赤茶けたパイプと換気塔を組み合わせた“何か”が建っていた。

……グツグツ

ポコポコ……

……グツグツ

ポコポコ……

そのパイプとバルブの“お化け”は、地面の下でお湯が沸くような不穏な音とともに大量の地熱を排出していた。もしいまの気温が低ければ、もうもうたる蒸気を伴っていたはず。

ここもまた野に湧く源泉で、赤茶けたポンプお化けが汲み上げたお湯は、どこかにある平和な湯舟に運ばれている気配。

道は死んでいるが、地球は生きている。それを実感する2度目のシーンだった。

おおっ!

広場からは、山小屋風の大きな建物の屋根が見えた! 汲み上げられた湯の行き先か?! そしてそこは、我々のゴールかも!

次回、最終回。