このレポートは、「日本の廃道」2005年9月号、10月号、11月号に掲載した「特濃!廃道あるき」をリライトしたものです。
当記事は廃線探索をテーマにしており、不用意に真似をした場合、あなたの生命に危険が及ぶ可能性があります。当記事を参考にあなたが廃道へ赴き、いかなる損害を受けた場合も、作者(マイみちスト)およびみちこ編集室・道の駅連絡会は責を負いません。

所在地 岩手県八幡平市(市道 藤七温泉線)
探索日 平成17(2005)年7月24日

P地点再び 北ノ又川のアーチ橋
2005年7月24日11:05

超絶山奥に孤立している割に、人の匂いが濃密だった廃小屋を後にして、再び緑の世界へ旅立とう。人間世界の離れ小島から、緑の大海原への再出航だ!

そんな覚悟を内に秘め、我らたった2人の探索隊一行は、体力に勝るくじ氏を先頭に、既に橋下よりの全体観察を終えている北ノ又川に架かる“正体不明のアーチ橋“へ初めて足を踏み入れる!

で、これが橋の袂に立つくじ氏の後ろ姿だが、わざわざそう注記しなければ橋の上にいるようには見えないだろう。そのくらい橋の上も前後の地上と同様に緑がちである。ただ、彼の左右にあるコンクリートと鋼管で作った高欄が、苔生しながら辛うじて橋の主張をしている。

我々が渡る橋の幅は、くじ氏を横にしたくらいのものでしかなく(せいぜい1間=1.8mだろう)、自動車が通るには些か狭すぎる。その点では、構造に劣る木橋だった旧県道の橋の方が、「ジープ道」であったことが分かっているのでもう少し広かったと思うが、あちらは橋脚の残骸しか現存していないので、想像に過ぎない。

また、橋の四隅にしばしば掲げられている橋名などを記した銘板の類は、親柱共々、残念ながら発見されなかった。銘板がセオリー通り一式あれば、橋名や竣工年が判明した可能性が高いのに、いずれも分からずじまいは大変残念。

水の上を橋で渡っているのに、泳ぐような手の動きで緑の木藪を掻いているのは、なんだかおかしい(笑)。

でも、こんなに樹木が根付いている橋は当然ながら頑丈であり、充腹アーチ橋という構造の強みもあって路上に変な穴があったりはしないので、渡ることの安定感は十分だ。廃橋にありがちな転落の不安はない。欄干も一応あるし。

橋は狭くて、高欄に囲まれた箱状の路上に毎年落葉が降り積もった。誰も掃除をしないから、積もり積もって肥沃な土壌を形成した。ここにはしっかり根張りをした太さ20cmを超える広葉樹やヒバの幼木が沢山育っていた。このまま成長が続けば、いずれは物語の中にしか無さそうな巨木が橋を取り込む景観となる日が………来るとしても数百年後。それを想像するのは楽しいが、我々が存命のうちではないだろう。

ぶっちゃけ、この橋は渡るよりも下から見上げている方が楽しい。橋としての形状が美しく、あるいは景観によく馴染んだ橋ほど、そういうことになりがちだ。この橋なんて、ただ渡るだけなら前後の藪と大差ないからな。それではもったいないのである。

腰よりも低い高さにある高欄の鋼管越しに、赤茶けた岩場を騒々しく流れる北ノ又川の渓流を見下ろした。橋自体そんな高くもないので、遠くまでは見通せない。これまた橋の姿を見た時のような感激の眺めではない。

ものの1分ほどで橋を渡りきり、右岸に辿り着いた。だがそこには左岸に蔓延っていたものと同種の猛烈なネマガリタケの密生藪が広がっており、私を辟易させた。

藪で視界はほとんど通らず、この写真は渡り終えて2~3歩目に振り返って撮影したのに、既に橋が全く見えないのである。思うに我々が幸運だったのは、実は美しいこの橋と最高の形で出会えたことだ。この“謎の道”をはじめから探索していたら、こうはならなかった。我々は依然として本題である旧県道(ジープ道)をそっちのけで、この橋のある道にかかりきりになっている。そしてそれはもう少しだけ続く(苦笑)。

アーチ橋のすぐ上手で、北ノ又川に支流の黒石沢が合流している。橋を渡った道は、この黒石沢を右手に見下ろしながら伸びていた。しかしこの沢は初っ端から連瀑の急湍で、それに負けない勾配で道は直登していく。橋の幅からして自動車道ではないと思っていたが、階段でもおかしくないと思えるほどの急坂の土道である。そのうえ藪が深いので、なんというか鼠返しに逆らって進むようなキツさだった。

……にしても、

なんだか沢の様子に、違和感がある。

これ、人工的な堰じゃない?

山の中にある河川工作物といえば、真っ先に砂防ダムがイメージされるが、どうもそうではない気がする。水の流れ方が、もっと手が込んでいるというか、複雑に制御しようとした形跡がある。

ここには、我々が知らない取水用の堰があったのかも…?

もしそうだとしたら、場所に不釣り合いな立派なアーチ橋や小屋と繋がってくる存在なのかも。

!!!

堰らしきもののすぐ隣、ここへ至る上り坂が行き着いたその場所に、箱状の形をした5m四方ほどの大きなコンクリート構造物が発見された。地面からの高さも2mはある。アーチ橋同様、容易に森に埋れることが許されない、大掛りな人工物だ!

その内部は、空洞&半地下構造!

これは、貯水槽か⁈

次回、後年の机上調査によって、探索当時は推測しかできなかった大掛りな遺構の正体が明らかに。