東北太平洋沿岸に走る全長1,025kmの長距離自然歩道、みちのく潮風トレイル。町を歩いて峠を越え、谷を下って海に出る。バックパックひとつとたくさんの人に支えられて歩いた2020年秋の二ヶ月を、残した写真と、一緒に歩いた地図をお供に連れて、一歩一歩思い出しながら書いていく。

おやすみの日のいいこと

 この2日間はずっとくろさき荘にいた。けれど、どうやって過ごしたのかよく覚えていない。滞在していた中で一番雨が激しい日だったこともあり、一日部屋にこもっていたのだと思う。そんな日でも唯一覚えているのが、というか、写真を見て思い出したのだけれど、お昼ごはんの時間である。そろそろ何か食べないとなー、でも、歩いてないから別にいいか、とお昼を抜こうとしていたちょうどその時、こんこん、とドアがノックされた。どうしたのだろうと開けると、Sさんが立っていて、インスタントラーメンとかになっちゃいますけど、お昼ごはんいりますか?と聞いてくれた。全然問題ないです!とお願いすると、じゃあちょっと待っててくださいねと言って階段を下りて行った。もともと私の予約した宿泊プランには昼ご飯は入っていないのだ。お昼が何とかなったということ以上に、そんな私にまで気を向けてくださったことが嬉しかった。数分後、わざわざどんぶりに麺を移して持ってきてくれた昼ごはんには、ラーメンだけじゃなく、てりやきバーガー、ジュース、ヤクルトとゼリー、スナック菓子と駄菓子のようなものまでついていて、気持ちのフルコースのようで思わず笑顔になってしまう。ありがとうございましたと言って部屋で麺をすする時間。予期せぬ善意がたまらなく嬉しくて、でもその瞬間の嬉しさが通り過ぎて行ってしまうことがなんだか寂しい、ああいう時間はすごく尊いものだと思う。

持ってきてもらったお昼ごはん

 次の日もすごい雨だった。歩き旅で身に着いた早起きの習慣から六時半頃に目が覚める。窓の外を見ると、網戸に水滴がついて視界全体がぼやけていた。朝だというのに暗くて、しばらくは電気をつけて過ごしたほどだ。この日も特に何も覚えてはいない。カメラロールにはスマホゲームのスクリーンショットがたくさんあったから、大方ゲームでもして過ごしたのだろう。壁を一枚隔てて、ぼやけた雨音が部屋に充満する。そろそろ歩けないことがもどかしくなってきていて、雨だからと歩かない自分に罪悪感すら抱いてきていた頃だった。しかし、安全第一。この日もお昼ごはんをもらった。

雨の日