東北太平洋沿岸に走る全長1,025kmの長距離自然歩道、みちのく潮風トレイル。町を歩いて峠を越え、谷を下って海に出る。バックパックひとつとたくさんの人に支えられて歩いた2020年秋の二ヶ月を、残した写真と、一緒に歩いた地図をお供に連れて、一歩一歩思い出しながら書いていく。

終わらない階段

 北山崎ビジターセンターを発ち、暗く細い下り坂をひたすら降り続けてかなり経つ。それなりに距離を歩いてきたはずなのに、まだ谷底に辿り着かない。じわじわといや~な気分が湧き上がってきた。ここまでの経験で、斜面は下がったら下がっただけその後登らなくては行けないということがわかってきたところだったので、この後の上りはかなりキツイだろうということが想像できてしまうのである。その後もしばらく谷を降り続けて、やっと沢の流れる谷底に到着した。来し方行く末、どちらも谷の斜面に挟まれ、深い壺の底に入ってしまったかのような不安感にはやはり慣れない。早くここから出てしまいたい、と顔を上げると、視界に広がっていたのは壁だった。正確に言うと、壁に張り付いた階段である。終わりの見えない長い階段に、ふらっと気が滅入りそうになる。けれど、進まないと一生をここで終えることになる。それは嫌だ。決心を決めていざ登りだしてみると、厳しい試練のように見えた階段も案外大したことはなく…と、なってくれるはずもなく。まず一段一段の幅が大きくて、足を次の段に運ぶだけでも一苦労だ。そんなものを繰り返していけば足が悲鳴を上げるのは当然のことで、次第に一段足を持ち上げるだけでふくらはぎがキリキリと限界を訴えはじめた。このまま続けたら何かが切れる、という身体からの警鐘に、未だ一向に終わりを見せない階段にとりあえず見切りをつけて足を止める。一息ついて、谷の方に体を向けて階段に腰かけると、背筋に寒気が走った。先程の谷筋は眼下はるか先に遠ざかっていて、少しバランスを崩せば真っ逆さまに落ちていってしまいそうだった。このルートを下りで歩かなくていい分まだよかった、と心から思ったものである。

 そんな状態なので座っていても落ち着かず、早々に上りを再開する。ひたすら上り続け、ふくらはぎだけじゃなく、太ももやトレッキングポールを持つ両手にまで疲労が広がってきたそのとき、数段上ですとんと階段の終わりが見えた。やっと終わりだ!と逸る気持ちを抑えながら階段を上って、最後の段に足をかけ、私の眼前には平らに続く希望の道が開ける…はずだった。私の正面にあったのは土の壁。そして右側を向くと、次の階段がはじまっていた。そう、そこは階段の終わりではなく、ただの曲がり角の踊り場だったのである。昔、箱の中に閉じ込められた人たちが脱出を試み、やっと出口だ‼と思ったら、箱の外にまた箱があった…という映画を観たことがあるのだけれど、この時ほど登場人物たちに共感できたことはない。

 落胆と共に歩を進めるも、その後も何回か階段解脱詐欺に引っかかった。ついに終わりだと思ったら傾斜が緩くなっただけ、今度こそ終わりだと思ったらちょっと歩いた先にまた階段が始まる…。一番の山場を越えた後も地味にアップダウンは続き、本当に心の底から、こんなところをルートに設定したのは一体どこのどいつだ、と思ってしまった。

割れた岩から海が出てきたような、きれいな瞬間も