このレポートは、「日本の廃道」2012年8月号および2013年5月号に掲載した「特濃!廃道あるき 駒止峠 明治車道」をリライトしたものです。
当記事は廃線探索をテーマにしており、不用意に真似をした場合、あなたの生命に危険が及ぶ可能性があります。当記事を参考にあなたが廃道へ赴き、いかなる損害を受けた場合も、作者(マイみちスト)およびみちこ編集室・道の駅連絡会は責を負いません。

所在地 福島県南会津町
探索日 平成21(2009)年6月26日

水準点記号が教えてくれた、もっと旧(ふる)い道。

駒止峠(こまどとうげ)は、福島県南会津郡南会津町にある海抜1135mの峠で、広大な会津山地に抱かれた古い峠の一つである。単独で日本列島を横断する国道289号が、昭和45年の認定以来、この峠を多数の九十九折りを有する難路で越えていたが、昭和57年に全長2010mの駒止トンネルを持つ待望の新道が開通したことで冬期間の通行が確保され、現在は奥会津地方の東西連絡路として欠かせない重要路線となっている。一方で旧国道は静かな峠道に戻り、近年は落石等で通行規制されていることも多いようだ。

最近の地形図に描かれた駒止峠の周辺を見てみよう。

図の紫色のラインが現国道で、緑のラインが旧国道である。旧道の峠の西側におびただしい数の九十九折りが見て取れると思う。大きな高低差を持った険しい峠であったことが了解されよう。

この地図に描かれている現道と旧道の分岐地点は、東側は南会津町針生で、西側は同町の東という場所だ。参考までにこの両地点間の2線の距離を比較すれば、旧道の13kmに対して現道は9kmと4分の3以下に短縮されている。さらに針生地区と新旧道それぞれの最高地点と高低差を比較すると、旧道は400mもあるのに対し、新道は200mと半減している。これが全長2kmに及ぶ駒止トンネルの整備効果であり、おかげで冬期間も除雪によって通行できる道となったのだ。

今回の舞台は、この駒止峠である。ただし、ここまでの説明に登場した旧国道と現国道ではない、もう一つの駒止峠が舞台となる。

このレポートでは、実際の現地探索の模様をお伝えする前に、「どうやって探索対象の道が見つかったか」という入口の部分から体験してもらおうと思う。

発見の鍵になったのは、この地図にも描かれている、アレだ! 

これ!

この「水準点」の記号がカギだ!

ご存知の方も多いだろうが、先に水準点について簡単に説明しておく。水準点は、水準測量という手段によって、既に厳密な標高が分かっている基準となる別の地点との高低差が測定された地点のことである。ようするに、厳密な標高が判明している地点である。緯度や経度や標高を、三角測量という手段で算出した三角点と並ぶ測量インフラの重要な要素であり、これらの「基準点」は、あらゆる土木建築物を建設する際の測量の基本となる存在である。そのため我が国では、明治10年代から国家事業として全国に水準点網と三角点網の整備を進めており、互いに補完し合っている。

そして、登山をされる方はよくご存知かと思うが、三角点は一般に周囲を見通せる山頂のような地形に設置されるのに対し、水準点は、設置当時の国道をはじめとする、主要な道路の沿道、おおよそ2km刻みに設けられている。これは、水準測量が一連の線上で変化する高低差を測る手法であるために、道路沿いの設置になったのだろう。そして今日、全国には2万2千基を越える水準点が設置されている。だからどこかで見たことがあるという人は多いと思う。

このように国家の重要なインフラの一つである水準点だが、三角点とともに初期から地形図に描かれる存在である。そしてそれは、駒止峠の周辺でも見る事が出来る。

例として、このように描かれている。これは針生集落のすぐ近くにある水準点で、水準点を示す記号の隣に「805.0」とあるのが、水準測量によって求められたこの地点の標高である。

しかしここで注目して欲しいのは、点が表示されている位置が、現在の国道からは少し外れた、別の道の脇だということだ。単純に地形図が誤りを描いているのでない限り、これは先ほどの水準点の説明の通り、水準点が設置された当時は、この“別の道”こそが主要な道路であったと、そう推測出来るのである。

……ご存知の方にとっては今さらの話だろうが、初めて知った人はちょっとゾクッとしなかった?! しないかな?笑 でも、こういう搦め手の手段によって、最近の地形図だけでも古い道の在処が浮き彫りになる場合があるという事実に、私は震える。

さて、駒止峠に表示された水準点は、一つだけではない。1基目からほぼ2km峠へ進んだ地点に、2基目の水準点が描かれているし、さらに2km先に3基目、そして4基目、5基目まで見つけることが出来るのである。

それらの位置は、この地図で示したとおりで、旧国道とも現国道ともかけ離れた“山中”に忽然と表示されている。一応、全ての点が“道”に沿ってはいるのだが、それは破線で表現された「徒歩道」に過ぎない道だったのである。

改めて、一連の水準点(図中の①~⑤)の並び方から、赤く着色した破線の道が旧国道よりさらに古い時期の峠道だという推論が立てられたのである。

地形図をよく見ると、水準点③と④の間の小さな稜線を越える部分に、「小峠」という注記があるのだが、これは水準点④と⑤の間にある、より高い主稜線を跨ぐ部分を、かつて「大峠」と呼んでいたこととの対比ではないかという推測ができる。現在の地形図に「大峠」の表記はないけれど、この地図読みで標高1110mの場所こそが、旧々道版の駒止峠といえるのだろう。はたして、どのような風景がそこには待っているのだろう?

また、この地形図における水準点の羅列は、破線の道とともに、峠の西側には存在していない。おそらくこの部分は、地図に徒歩道としても描くことが出来ない完全な廃道状態になっていて、水準点も喪失している可能性が高いと考えたのである。

さて、もうこの段階で、私の中ではここに旧々道が存在したことは確信に近かったが、念押しとして、古い時代の地形図を入手して見てみたのである。

これは、駒止峠を描いた最古の5万分の1地形図である、大正2年測図版より抜粋した、駒止峠周辺の模様だ。

これは意外だったが、この時点で既に、(現在の)旧国道が存在していた。もちろん国道289号はまだ指定されていなくて、それは県道を示す描かれ方をしていた。一方、私が旧々道と考えた峠道については、この時点で既に破線(「小径」の記号=徒歩道)で描かれているに過ぎなかったのである。すなわち、当時既に旧道であったようだ。大正初期に既に旧道とは、

これはどうやら思いのほか古い時期に整備された道らしい!

だが大きな収穫もあった。現在の地形図では完全に抹消されている旧々道の峠の西側の道も、破線としてしっかり示されていたのだ。

そして、この一連の道の全線にわたって、水準点が描かれている!

図に青色で示したのは、探索当時の最新地形図にも描かれていた水準点で、赤のそれは、表記が消えていた水準点である。峠の西側には、道と一緒に表記が消えてしまった水準点が4つあった。

だが、不思議というか奇妙なのは、峠の西側の水準点の間隔が妙に密であることだ。通常は2km間隔であるはずだが、なぜこんなに密に描かれているのだろう。

(……嫌な予感がした……)

と、ともかく、

駒止峠に旧国道よりも古い旧々道(大正2年以前の付け替え)があったことと、その経路が判明した!

それは、旧国道の駒止峠とは別の鞍部を越える、位置的には現国道に近いルートであったようだ。

今回は、最近の地形図に描かれていた水準点の位置から、1世紀以上も昔に旧道化してしまった峠道の存在が明るみに出るという、愉快なケースだった。

実は水準点の位置は不変でなく、道路の改廃に伴って移動する事は珍しくない。だから未だに旧道どころか旧旧道に水準点が残っているのがまず珍しい。さらに、これは地形図の作図上の問題だが、廃道化によって道の表記が消えると、水準点も一緒に抹消されることが大半で、山中に水準点だけが残されている表現はまず見ない。だから今回も峠の西側の水準点は描かれていないのだろう。そもそも、明治のような古い時期から水準点が設置されていた道自体が多くはなかったから、今回のように古い道の存在が水準点から明るみになるのは、ごく稀とまではいわないが、貴重なケースなのである。

「基準点成果等閲覧サービス」を利用してみた。

『基準点成果等閲覧サービス』の画面表示例。

今回は水準点に焦点を当てたが、国土地理院が一般向けに公開している【基準点成果等閲覧サービス】はご存じだろうか。

このサイトを利用すると、駒止峠に設置された水準点の具体的個別な情報を見ることが出来る。

実際に調べてみると、大正2年の地形図に描かれていて最近の地形図から抹消されていた水準点についても、水準点自体は廃止されておらず、データ上では存在していることが分かった。

そうは言っても、旧々道沿いの水準点はいずれも、「現状情報」の蘭が「報告無し」となっていて、より詳細な情報である「点の記」も作成されていなかった。そのため設置年も不明であった。

このことは、フィールドワークのプロである国土調査員でさえ、深い森の古道に閉ざされているらしき水準点の現地確認には匙を投げたことを窺わせる状況だった。しかしそれにしても、国の基礎的な測量データとしては確かに“生きている”水準点の現状が「確認出来ていない」というのは、我らの国土の中に未知の領域が広がっているような気持ち悪さがある。

探索のきっかけは水準点。
次回も導入編の続きで、探索すべき旧々道の歴史を大いに考究してみたぞ。この峠はなかなか奥深い歴史を持っていて、ますますハマってしまうこと請け合いだ。