このレポートは、「日本の廃道」2005年9月号、10月号、11月号に掲載した「特濃!廃道あるき」をリライトしたものです。
当記事は廃線探索をテーマにしており、不用意に真似をした場合、あなたの生命に危険が及ぶ可能性があります。当記事を参考にあなたが廃道へ赴き、いかなる損害を受けた場合も、作者(マイみちスト)およびみちこ編集室・道の駅連絡会は責を負いません。
所在地 岩手県八幡平市(市道 藤七温泉線)
探索日 平成17(2005)年7月24日
E地点 歩行開始!
2005年7月24日9:21
旧藤七車道(旧県道大更停車場八幡平鹿湯)こと、八幡平市洞藤七温泉線の探索は、ここからが本番だ。海抜約900mの白沢分岐地点を境に、突如路面は大荒廃! これより先は乗用車の乗り入れは不可能と判断した。
ここからは当初の計画通り、二手に分かれて行動する。私とくじ氏が廃道アタックチームだ。このまま前進して旧藤七車道のゴール、藤七温泉(海抜1340m付近)を目指す。ふみやん氏はUターンし、車でゴールへ先回りして貰う。この先の推定歩行距離は約7kmあるので、集合は4時間後の13時以降と申し合わせた。それまで別行動だ。無事の再会を約束し……
歩行開始!
歩行開始直後に、凄まじい登り坂が始まった。これまでの区間にも急坂はあったが、そこだけはタイヤの空転を防ぐように舗装されていた。だがここにはそれがない。それでも路面にブルドーザの轍が付いており、最近も路面整備が試みられたようであるが、未舗装のこの急坂と道幅の狭さは、真っ当なドライバーの「入るとヤバイかもセンサー」を動かすには十分だろう。
そして案の定、少し進むと路面の砂利が流水に削られて、タイヤが埋まるほどの凸凹を見せ始めた。これぞいわゆる「ジープ道」の典型的な風景だ! 現在は一般的に「ジープ」ではなくクロカン車と呼ばれる悪路走破性を売りにした乗用車だけが走破出来そうな、廃道一歩手前ともいえる厳しい車道だ。
こんな荒れた状態の車が、八幡平山頂直下の藤七温泉まで続いているのだろうか。少なくとも、アスピーテラインの開通以前は続いていたらしい。熱い!
F地点 笹ブッシュ道
9:24
急坂はそう長く続かなかった。だが、それが終わると今度は道の両側が猛烈な密度の笹のブッシュになった。これより、路外の視界はゼロとなり、路上もカーブの先は全く見えない状況に。凶暴クマとの出会い頭の不幸な事故が起らぬように、2人は勉めて会話を途絶えさせないように歩いた。
この状況でも路面には辛うじて轍があり、道の中央を歩けば藪を漕がずに済んだ。今はそれで済んでいるが、もしも路上をこの笹が覆い尽くすような展開が来たら………地獄……。
G地点 夜沼川の横断
9:32
しばらく進むと、茂みの向こうから川のせせらぎが聞こえてきた。さらに行くと視界が開け、小さな清流が現れた。
これは夜沼川である。アスピーテラインの傍にある夜沼から流れ出した沢がここで旧道を跨いでいる。跨ぐと言えば橋があるのが普通だが、「ジープ道」にそれは贅沢な要求だ。橋はない。
子供のころに憧れた川口弘探検隊が行く道が、ここにあった。番組では、現地ガイドが運転するジープが何度もこんな小川を乗り越えて探検の舞台を駆けたものだ。
周囲を観察するが、橋があった形跡はなく、もとから川を直接横断して先へ進む道だったようだ。一応県道だった時代もあるのに、なんとも剛毅。クロカン乗りなら歓喜だろう。
橋を架ける代わりに、浅い川底にコンクリートや石を並べて路体とした徒渉地点を「洗い越し」と呼ぶのだが、現在のここは「洗い越し」未満の単なる徒渉路である。車輪を支える河底の構造物がない道は「洗い越し」とは呼べない。最も原始的な姿の徒渉路に挑む。
しかし川べりに寄って見ると、水が流れている幅は数メートルに過ぎないが、意外に水量豊富で、しかも飛石の配置が良くないために、足を濡らさずに対岸へ行くことは難しかった。諦めて靴に多少の水が入ることを受け入れて徒渉した。
廃道で先へ進むためにやむを得ず足を濡らすことは、探索者の覚悟を示すことだ。私は勝手にそう解釈している。
我々の覚悟は今、示された。
夜沼川という試しを越えて、ますます「ジープ道」の秘奥な世界へ足を踏み入れていく。徒渉を終えると間もなく深いブッシュにせせらぎは遠のいて、代わりに夏の音が全方位より押し寄せてきた。
次回、忘れられた車道の証しを発見する?! |