このレポートは、「日本の廃道」2010年5月号に掲載された「特濃廃道歩き 第27回 浪江森林鉄道 真草沢線」を加筆修正したものです。当記事は廃道探索をテーマにしており、不用意に真似をした場合、あなたの生命に危険が及ぶ可能性があります。当記事を参考にあなたが廃道へ赴き、いかなる損害を受けた場合も、作者(マイみちスト)およびみちこ編集室・道の駅連絡会は責を負いません。

9年後のいま、振り返る。

 

 

実踏した軌道跡の全貌は、標高約150m附近の起点から、標高430m附近の終点擬定地点まで、合計2.3kmほどであった。全長の数字としては大きくないが、この距離でこれだけの高さを登ったことが、通常の林鉄ではあり得ない。平均勾配が10%を優に超えてしまっている。

まさに、「三段インクライン」のダイナミックな登山ぶりを全身で満喫した探索だった。帰宅後から数日間、普段の探索後には感じたことがないようなふくらはぎの痛みや違和感が消えず、機械力を頼りにしていたインクライン装置を二回も歩行でよじ登った無謀さを、後まで思い知らされた。皆さんも、インクラインには要注意である。

だが、得たものは、痛みよりも遙かに大きかった。この探索を行った平成22年当時、一路線に二箇所以上のインクラインがある路線を他に知らなかったし(その後、さらに多数のインクラインを擁する路線とも出会った)、木を運び出すために山へ深く分け入って行かねばならない「森林鉄道」が、勾配に弱いという「鉄道」の宿命的な弱点をいかに克服しようと知恵を絞ったか、その実地を体験したことで、ますます森林鉄道の魅力にハマり、探索にのめり込むきっかけともなった感がある。

 

 

探索の翌年に発生した東日本大震災に起因する原子力発電所の事故のため、当地は現在まで帰還困難区域に指定されており、残念ながら再訪は適っていないが、稜線まで突き上げる巨大なロックガーデンに、一筋の直登路が鮮烈に浮かび上がっているのを見た、あの瞬間の鮮烈な印象は忘れられない。

さて、私の感想だけではなく、最後に少し有意義な情報を追記しておこう。といっても、これは私の成果ではないが…。

 

 このあと、新情報が!

 

 

探索当時、一つの心残りがあった。それは、今回探索した浪江森林鉄道真草沢線について、建設された時期も、廃止された時期も、さらに正式な路線名でさえも、記録らしい記録が見つからず分からずじまいだったことだ。「浪江森林鉄道真草沢線」というこのレポートの表題も、実は仮称だったのである。このような情報の不足は、おそらく、この支線の廃止された時期が相当に古かったためだろうと想像していたが、想像の向こう側にある真実は、ずっと見えていなかった。

それが、巡り合わせの妙を感じるとしかいえない幸運が起きた。「まいみち」にこの連載を始めた直後、関東森林管理局(国有林の管理者、かつて福島県内の大半の林鉄を敷設運用していた前橋営林局の後身)の公式サイトに「福島の森林鉄道WEB史料室」というコンテンツの更新がスタートし、そこにずばり掲載されたのだ。部外者には容易に知ることが出来ない内部資料(林道台帳)から明かされる、真草沢線改め、「浪江林道畑川線」の記録が!

 

 

曰く、畑川線は、浪江森林鉄道(正式名、浪江林道)に数ある支線の中でも2番目に古い路線で、なんと大正14年に最初の940mが開設されている。距離的に、これは「下部軌道」の分であろう。そして、翌大正15年に早くも2190mが延伸され、総延長3130mとなった。このとき、インクライン2箇所と隧道1箇所が新設されており、今回探索した「中部・上部軌道」が一気に完成している。
なお、今回探索した実延長は約2300mであるから、数字が足りていない。おそらくこの分は、終盤の作業道に呑み込まれてしまったのだろう。私が最後の方に歩いた作業道は、元軌道跡だった可能性が大きい。先ほどの地図には破線で示した区間だ。これでも少し足りないが、誤差の範囲になるだろう。
こうして大正最後の年に誕生した壮大な3段インクラインだったが、現地でも予想したとおり、廃止は早かった。短命だった。完成からわずか6年目、昭和6年に全線が一挙に廃止され、撤去されたレールは他の路線へ移設された。
林鉄路線網の末端にあたる支線は、近隣の伐採が終われば用済みとなり、廃止となるのが普通だ。そのため、短命な路線も少なくなかったが、6年というのは、さすがに短すぎる。廃止の理由は記録されていないが、2箇所のインクラインを中継する運材は、作業的に煩雑で、運材コストが悪化し、中止されたのだとしか思えない。
昭和に入ると、索道という、もっと手軽に高低差を克服できる運材方法が発展し、各地のインクラインも役目を終えるケースが多かった。畑川線が索道に変更されたかは不明だが、滅多に見られない三段インクラインは、苦労したほど実入りが大きくない、気の毒な失敗作だった可能性もあるようだ。

そうだとしても、ロマンがあるな! 好き!

【完結】