このレポートは、「日本の廃道」2010年5月号に掲載された「特濃廃道歩き 第27回 浪江森林鉄道 真草沢線」を加筆修正したものです。当記事は廃道探索をテーマにしており、不用意に真似をした場合、あなたの生命に危険が及ぶ可能性があります。当記事を参考にあなたが廃道へ赴き、いかなる損害を受けた場合も、作者(マイみちスト)およびみちこ編集室・道の駅連絡会は責を負いません。

林鉄界の秘宝! 幻の「三段インクライン」を解明せよ!

 このレポートは、「日本の廃道」2010年5月号に掲載された「特濃廃道歩き 第27回 浪江森林鉄道 真草沢線」を加筆修正したものです。当記事は廃道探索をテーマにしており、不用意に真似をした場合、あなたの生命に危険が及ぶ可能性があります。当記事を参考にあなたが廃道へ赴き、いかなる損害を受けた場合も、作者(マイみちスト)およびみちこ編集室・道の駅連絡会は責を負いません。

 

◆ 8:52 第一インクライン 登攀開始!

 

 

読者諸兄にお聞きしたい。

 

インクライン跡を歩行した経験はあるか?

 

おそらくほとんどの方が、ノーとお答えになるだろう。悪いことは言いません。どうか今後とも、インクライン跡の歩行なんて愚行とは、距離を置かれることを強くオススメしたい。こいつは間違いなく、身体に良くない。

 

 インクラインは、斜面に敷かれたレール上にある車両を、接続したケーブルで巻き上げ、あるいは巻き下げる輸送機関である。いわゆる「ケーブルカー」といわれる種類の鉄道の貨物版であるが、当然、急勾配である。それも、並大抵ではない。通常我々が「線路」とか「道路」として認識するものとは、次元が違う急勾配である。

 

 そんなところを、ケーブルによる牽引なしの生身の人がよじ登ろうとすると、どうなるのか、いまからご覧頂こう……。

 

 

 これが、インクライン跡だ!

 

 道というよりは、スキー場にある細いゲレンデみたいな感じだが、ここにかつてはレールが敷かれていて、インクラインが稼働していた。とにかく急だ。「急坂」より「急斜面」という表現の方が適切だろう。

しかも、先へ登るほど急勾配になる。この写真に見える範囲で終わりではなく、まだ奥まで続いている。この先、もっと急になる。

 

 

 

 8:56(登攀開始から4分後)

 

 横から見ると、こんなだぞ……。

屏風みたいな大岩の脇の斜面を、周りに興味がないといわんばかりに淡々と、まっすぐ、上っている。

目測だが、おおよそ40度の斜度があった。

 

 一般に旅客を扱うケーブルカーより産業用のインクラインは急勾配だ。ちなみに、現存するケーブルカーで日本一の急勾配とされる神奈川県の宮ヶ瀬ダムにあるものは、35度の傾斜を有している。

 

 

 8:58(登攀開始から6分後)

 

まだまだ続くインクライン。未だ終わりを見せない天衝く直登の坂道は、人間工学と精神衛生を完全に無視していた。鋼鉄の車体とケーブルをきしませながら運行したマシーンの動線は、歩行されるべき構造にはなっていない。きしみをあげる、私の大事な足の筋肉。その故障が先か、人体によるインクラインの完抜が先か、こうなりゃ我慢比べである! 顔面に雨垂れのような汗が吹き出しながら、私はムキになって登り続けた。

 

 

9:00(登攀開始から8分後)

 

はぁはぁはぁやっと

はぁはぁはぁ上端らしき空が

はぁはぁはぁ坂の上に

はぁはぁはぁ見えた

はぁはぁはぁマジきちぃー

 

 

 現時点までの肉体酷使の成果を振り返ったのが、次の写真だ。(高所恐怖症の人は、少しだけ閲覧注意)

 

 

 上る一方で気付かなかったが、既に私は怖気がするほどの高度を獲得していた。滑り落ちやしないかと、急に怖くなってきた。もし滑落したら、大量の落葉のせいでどこまでも加速し、もう底まで止まらなくなりそう……。立ち木や大岩に途中で激突して粉々になる未来が見える。

 

一連のインクライン跡の道幅は、5~6mといったところで、単線にしては広い気もするから、複線だったのかもしれない。

 

 

9:02(登攀開始から10分後)

 

 見えているゴールが、なかなか近づかない! このインクラインひとつで、谷底から一気に尾根の上まで登るつもりらしい…。まさに、鉄道としての常識破りインクラインの破壊力をまざまざと見せつけられている。くそぅ……、俺の身体にもケーブルを繋ぎやがれ…。

 

 

9:04(登攀開始から12分後)

 

おっしゃ!

登頂成功!!!

 

だが、忘れてはいけない。

 

この路線の名物が、

「三段インクライン」

だということを……。