このレポートは、「日本の廃道」2010年5月号に掲載された「特濃廃道歩き 第27回 浪江森林鉄道 真草沢線」を加筆修正したものです。当記事は廃道探索をテーマにしており、不用意に真似をした場合、あなたの生命に危険が及ぶ可能性があります。当記事を参考にあなたが廃道へ赴き、いかなる損害を受けた場合も、作者(マイみちスト)およびみちこ編集室・道の駅連絡会は責を負いません。

林鉄界の秘宝! 幻の「三段インクライン」を解明せよ!

 このレポートは、「日本の廃道」2010年5月号に掲載された「特濃廃道歩き 第27回 浪江森林鉄道 真草沢線」を加筆修正したものです。当記事は廃道探索をテーマにしており、不用意に真似をした場合、あなたの生命に危険が及ぶ可能性があります。当記事を参考にあなたが廃道へ赴き、いかなる損害を受けた場合も、作者(マイみちスト)およびみちこ編集室・道の駅連絡会は責を負いません。

 

◆ 9:13 再々度の真草沢底

 

 

 

 隧道を抜けてさらに200mほど進むと、ついに真草沢の谷底が目線の高さに上がってきた。谷底はゴーロ状になっていて、苔生した岩石の隙間を透き通った水が少量流れていた。路盤は沢を渡るつもりらしく、低い築堤となってゴーロの中に入っていく。築堤上には細い雑木が育っていた。

築堤は最後、「突堤」のようになって、終わっていた。

 

そう、終わっていた。

 

築堤の突端に立つと――

 

 

壁のような山が、あった。

 

 

 「合流点」から遡り続けた真草沢は、流長約1.2km、落差約150mで、稜線を衝く巨大なゴーロに突き当たった。

そこは谷の奥とは思えないほど広大で、築堤の行き止まりに立つ眺めは、円形闘技場(コロッセオ)の闘舞台からの仰瞰を連想した。敵前逃亡を許さない、ギザギザの稜線が頭上を囲んでいる。ゴーロを埋め尽くした無数の苔生す岩石は、私の苦闘(ファイト)に期待する残虐な観客の姿に重なった。

 

そんな“客席”に、奇妙な隙間が存在していることを、私は見逃さなかった。

 

 

 インクラインだッッ!! 

 

 

 それは本当にたまらない風景だった。

 

1本目のインクラインから隧道を挟みつつ、おおよそ300mの水平な行程で、「中部軌道」は真草沢のゴーロに終わりを迎えた。そのバトンを引き継ぐのは、2本目のインクラインだった。

インクラインは下から上まで一望できた。1本目よりも間違いなく大きいと思った。てっぺんは青空に張り付き、霞んでいた。

 

 

 軌道は石垣の築堤で終わっていたが、末端は橋台だった。真草沢を渡る低い木橋が架かっていたのだろうが、それはインクラインの始まりでもあった。真っ直ぐ対岸の斜面に取り付いた路盤は、傾斜路となって、直線のまま……

 

天を打つ!

 

 これから約束されている苦闘の事も一時は忘れ、私はインクラインというものが根源的に持つ、力強さを絵に描いた魅力に打たれていた。全てが理想的な、“絵になるインクライン”だと思った!

 

きっと時期も最高だったのだ。林床が見通せる時期だからこその、究極の眺めだったろう。

 

あはは。これを上るとか、あはあはは……。

 

死ぬかもしれん。次回。