ありがたい事に、今年も山形の実家からさくらんぼが送られてきた。
郷里・長井市のあやめ祭りと前後する季節、いつもたくさんの野菜や、季節の銘菓「あやめ団子」そしてこのサクランボが、冷蔵の宅配便で送られてくる。
それは大学を卒業し、郷里に帰らず東京で就職し、こちらで結婚し家庭を持ってもずっと変わらず、毎年20年以上も続けてくれる、ありがたい季節の便りだ。
こんなものも送ってやりたい、これは孫に食べさせてやりたいと、あれこれ見繕って箱詰し、送るのも楽しみだと親は言うが、共に80歳を超した両親には負担が大きいだろう。
だから、ありがたいけどもういいから、自分達で買うからと言うのだが、聞いてくれない。
体が続く限り送るからと電話口で弾んだ声で言われると、それ以上反論できないのだ。
父母よ、けして無理しないで、いつまでも元気でいてください。

さくらんぼは夏の始まりを告げる味だ。
子供の頃よく遊んだ神社の、一の鳥居から二の鳥居までの参道の両脇は近くに住む人たちの畑で、そこにさくらんぼの木も植えられていた。
神社周辺から隣の菩提寺の古い墓地、そしてすぐ近くのあやめ公園が主な遊び場だった私たちは、陣取りやかくれんぼの遊びの最中、喉が渇くと、付近に大人がいないのを見計らって男の子たちが木に上り、真赤に熟れた実をもいで食べ、ちょこちょこと樹下の女の子たちに分けてくれた。
夏の初めの日差しにあたり、木の上で真赤に熟れたさくらんぼは八百屋で売られているものよりずっと甘く、そして陽の光を吸収して温かかった。
家で食べる、きりりと冷えた実とはまた別の美味しさがあったと思う。
だが、やっている事は明らかに悪い。
すぐに見つかり、怒鳴られ、顔と名前がわかった子の家に苦情が来た。
当たり前だ。
常に一緒に遊んでいたグループはあっという間に全員ばれ、ぞろぞろと親同伴で謝りに行く羽目になった。
手には、季節の郷土のお菓子、あやめ団子を手に。

今はいいおっさん、おばさんであり、のぼったりしたらデリケートなさくらんぼの木は折れてしまう。
あのころ声を限りに叫びながら近所を駆けずり回って遊んでいた仲間も、既に50を越し、その子たちが成人する年齢だ。
今もさくらんぼの木は神社の手前で真赤な実をつけているだろうか。

今回はパックや箱の中で押されてちょっとつぶれてしまったり、熟しすぎてしまったサクランボを使ったフルーツソースと、水気を切った濃厚ヨーグルトのデザート。
ヨーグルトの酸味が苦手という方も美味しく食べられます。

 

【レシピ】水切りヨーグルト・クワルクのさくらんぼソース


【材料】
さくらんぼ…片手に軽く一杯くらい
プレーンヨーグルト…ハーフサイズのもの1パック
砂糖…大匙1
甘口の白ワイン…少し。レモン汁少々に替えても
好みで蜂蜜少々


(1)ざるに不織布のクッキングシート(リードなど)を敷き、ヨーグルトをその上にあける。下にボウル等をセットして上をラップなどで軽く覆い、数時間~一晩冷蔵庫に入れ水切りする。水切り時間は出来るだけ長くした方が濃厚になって美味しい。

(2)さくらんぼは軸をとり、小さめのナイフで半分に切り、ナイフの先やフォークで種をほじりだす。

(3)砂糖と白ワインひと垂らしくらいを加え混ぜ、ヨーグルトと同様に冷蔵庫で寝かせる。寝かせているうちに果汁が滲出し美味しそうな艶が出てくる。

お子様用には白ワインの代わりにレモン汁少々を垂らして混ぜる。その場合くれぐれも、入れ過ぎて酸っぱくは過ぎないように。

(4)十分に水分が切れ、柔らかいチーズケーキ状になったヨーグルトを器に盛り、さくらんぼをたっぷり載せしみ出したソースもかける。
甘いものが好きな方は蜂蜜をかけても美味しい。

ヨーグルトを水切りしたものはドイツではクワルク、チェコではスメタナと呼ばれるポピュラーな食べ物。デザートだけでなくサワークリーム同様にお料理にも使います。
新鮮なさくらんぼは洗ってそのまま食べるのが一番美味ですが、熟れすぎてしまったものやちょっと押されて潰れてしまったものは、少し手を加えて活用してみました。
とはいえ明らかに傷んでしまったものやカビたものは危ないので食べないようしましょう。