本稿は、平成25(2013)年6月に「日本の廃道」誌上で公開したレポートのリライトです。 当記事は廃線探索をテーマにしており、不用意に真似をした場合、あなたの生命に危険が及ぶ可能性があります。当記事を参考にあなたが廃道へ赴き、いかなる損害を受けた場合も、作者(マイみちスト)およびみちこ編集室・道の駅連絡会は責を負いません。

所在地 秋田県北秋田市
探索日 平成24(2012)年12月10日

 ■ 11:19 終点擬定エリア 

 大量の廃レールが遺棄された滝を越えると、すぐに軌道跡は細長い広場に入った。既に距離の面から終点が疑われるエリアへ入っていることを踏まえれば、この細長い広場は、終点の施設であることが強く疑われた。終点の施設とは具体的に、運び出す木材を一時貯留し、またトロッコへ積み込むための土場、作業員が住み込みで詰めていた飯場、原木を木材へ加工する製品加工場などが、終点にしばしば併設される施設だった。また、車輌を留置しておくために複線が設けられているのも常であった。
 残念ながら、この広場にレールや枕木など、林鉄の直接の遺構は見られなかった。かわりに、見覚えのない鉄管が1本だけ転がっていた。

 これがその鉄管で、直径40cmくらいある太いものだった。長さは3mほど。
 こいつの正体は何だろうか。はっきりとした答えは出ていないが、ここにあった施設の残骸だろう。ここには広場以外にも造成された地形が残っていた。それと関係があると思う。説明しよう。

 私がいま立っている場所は、堤である。左に見えるのが軌道跡(広場)で、先ほどの広場を見下ろした写真もここから撮影したものだ。そして堤の右側には水が溜まっていた。明らかに造成による人工的な溜め池である。人知れず眠っていた巨大な土木構造物の出現に私は興奮した。一体これは何だったのか。
 このような山中で、農業用溜め池ということはないだろう。また、飲用水のダムでもないはずだ。清らかな水ならいくらでも土沢から得られたはず。

 堤にはコンクリートで作られたU字溝があり、水位が上がると自動的に排水するようになっていたようだ。まるで小さなスベリ台のようである。
 確証は持てないが、この溜め池は小規模水力発電を行なうためのダムだったと思う。かつて外部からの電力供給を得がたい山中の孤立した事業所で、小水力発電による自家発電が行われることは珍しくなかったようだ。ここにもそうした施設が存在していて、その名残が先ほど見た鉄管だったのではないか。これまでの林鉄の探索でも小水力発電施設の残骸を目にしたことが数回ある。もっとも、それらは自然の滝を利用したもので、このような規模の大きな溜め池を利用したものは初めて見た。これは予想外の発見であった。

 残念ながら、軌道跡は最後の最後までブル道から逃れる事は出来ないようだ。広場が終わった後も道は延びていたが、そこにも深い轍が刻まれていた。とりあえず、軌道跡はまだ続いていると判断し、前進を継続する。

 広場から100mばかり進むと、細い窪地と交差した。これはおそらく水路の跡だ。土沢から溜め池へ水を引く導水路だったのだろう。

 水路と交差した直後、土沢が二股に分かれている場所へ出た。どちらが本流か判断が難しい、同じくらいの水量の沢だった。ブル道はここで無造作に徒渉して対岸へ向かっていたが、軌道跡はそちらへは行かず、左へ逸れていた。なぜそのようなことが判断できたか。それはここに決定的な軌道跡の痕跡を見つけたおかげだ。

 左へ逸れた軌道跡。このまま左の沢を遡って行くのかと思いきや、1本の大木の根元の「赤矢印」の地点に……

終端のレールが、敷かれたまま残っていた!

 ここまでほとんど見られなかった敷かれた状態のレールが、ブル道を外れたことで、完全な形で姿を現わした。そして、2本のレールは明瞭な道の終わりと同時に途切れており―

ここが軌道の終点だと物語っていた!

 ■ 11:26 終点到着!

 特にレールの終端と分かるような加工や車止めの施設は見られず、唐突な終端だったが、今回の探索で初めて左右両方のレールが露出している状況に巡り会った。レールの端部は左右綺麗に揃っていて、その先へ延びていた形跡はない。

 歩行開始からおおよそ2時間10分掛けて土沢を約3km遡行し、想定していたエリア内に終点を発見した。だが念のため、到着後15分くらい周囲を散策し、これ以上上流に軌道跡がないことを確かめた。この写真はレール終端の30mほど上流で、小さな滝になっていた。この先は両岸とも急斜面で、路盤は存在し得なかった。同様にブル道の先も確かめたが、急勾配で山腹を上っていくようになり、軌道跡ではあり得なかった。

 ■ 11:45 帰投開始

 レールの残る終点を確認後、その100m手前にあった広場へ戻って長めの休憩をした。そうしているうちに北の方に青空が見え始めた。終点を確認したので、これより帰路に就く。

次回は復路。
往路で気になっていた場所の再調査で、今回最大の発見が……!