1 岩泉小本から田野畑へ ~三陸の崖をアップダウンしながらweb会議に参加~

このエリアは既に宮古から岩泉小本まで歩いていた続きで、岩泉小本から御殿崎、鵜の巣断崖、島越を経て田野畑までの約20キロだが、マップにも「ここより難路」と記されているエリアが続くハードなルートだ。

確かに急峻な崖のアップダウンがこれでもかというほど続くが、この日は9:30から「みちのくトレイルクラブ (MTC)」のWeb全体会議が予定されていた。この会議に歩きながら参加するつもりだったので、崖を下って次の崖の上に出るまで電波状況の悪くなるエリアが頻繁にあってうまくつながるか心配だった。たまたま崖を登って御殿崎の園地に出た辺りでうまく繋がり、zoom会議に耳だけ参加することができた。その後一部音声が途切れた箇所はあったものの、ほぼ鵜の巣断崖付近まで繋がっていた。
かえってひたすら黙々と崖の上り下りをしているよりも気が紛れてよかったのだが、ふと我に返って「多分この三陸の崖をヒーヒーいって上り下りしながら会議に参加しているヤツは他にはいないだろうな~」と思ったらおかしくなってきて、思わず笑いがこみ上げてきた。

この日は、鵜の巣断崖から北の断崖上にある切牛エリアを抜け、ドラマ「あまちゃん」でも震災長後の衝撃の光景として描かれていた島越を経て、震災の壊滅的な打撃から再建された田野畑のホテルで泊まった。

三陸鉄道・島越駅

2 田野畑から手掘りトンネルへ(北上) ~あれ?! あれは誰だ? 手堀トンネルで岩手めんこいテレビ撮影クルーに遭遇!!~

田野畑村から国民宿舎くろさき荘へ至る北山崎一帯は、言わずと知れた目の覚めるような断崖絶壁が連なる「海のアルプス」と呼ばれるエリアで、(公財)日本交通公社の全国観光資源評価「自然資源・海岸の部」で最高ランク特A級に格付けされている場所だ。「みちのく潮風トレイル」を歩き始めるとき、最もハードで重畳たる断崖の連なる美しい海岸線の姿を見せてくれるこのエリアは最後の段階で歩くと最初から決めていたとおり、福島県の松川浦自然環境公園にゴールする前にこの回のなかで歩くことになった。

机浜番屋群

震災後再建された机浜番屋群から北の断崖をよじ登り、マップにも滑落注意のマークのついている急峻な岩場を下って行った先に、ひっそりとした小さな浜がある。ここから北山漁港に向かって、海に張り出したほぼ垂直の崖に有名な手掘りのトンネルが二つ続いている。このトンネルもトレイルを代表するポイントの一つで楽しみにしていたところだ。トンネル入り口は浜からすぐの所に掘られており、海が荒れていると波に洗われて通行不能となる。この日は風は強かったが幸いなことに天気はよく通行可能だ。照明は全くないので手持ちのヘッドランプを装着していざ出発。と思いきや、なんとスイッチを入れても照度が極端に低くて殆ど先が見えない!前夜田野畑でチェックし忘れていてバッテリーがほとんど残っていなかったのだ。いつもならやむなく代わりにスマホのライトで行くところだが、たまたま家を出てくる直前に、ドイツ製のウルトラライトでかつ照度の強力な小型ライトを購入したばかりで、それを試しに持ってきていたので事なきを得て、快適な(?)暗闇トンネルwalkとなった。

急な岩場を下って行くと
最初の手掘りトンネルが

それにしても一つ目のトンネルだけでもかなりの長さがあり普通に歩いて通れる高さもある。どれだけの年月をかけたのか見当もつかないが、これだけのトンネルを手で掘り抜いたという人間の計り知れない力というものに対する畏敬の念をひしひしと感じながら進んだ。
一つ目のトンネルを無事くぐり抜けるとまた小さな浜に出る。大きな岩がごろごろした浜で、その岩を苦労しながら越えていくとその向こうに二つ目のトンネルが見える。ふと見ると、なんと向こうのトンネルの入り口付近に複数の人影が見える。今までルート上で人に会うことがほとんどなかったのに、今回はいろいろなところでハイカーとすれ違っている。それにしてもこんな辺境の手掘りトンネルでハイカーに会えるなんてと思いながらたどりつくと、どうやら5人くらいはいるし、どうもハイカーではない人もいるようだ。不思議に思って下から見上げて聞いてみた第一声は「何ですか?」。すると「岩手めんこいテレビの撮影なんです。」との答え。マスクをかけていたので最初はよく分からなかったが、その人の顔をふと見上げてまたしてもびっくり。なんと、これから向かおうとしている北山崎ビジターセンターの楠田さんだったのだ。楠田さんは「NPO法人 体験村・たのはたネットワーク」の理事長だ。
そこでの撮影クルーとのやりとり。「どこから来られたんですか?」「釜石から来ました。」「えっ! ずっと釜石から歩いて来られたんですか?」「そうです」「足腰とか大丈夫ですか?」「ボロボロです。分かってはいたんですが、ハードでした。」(一同笑い)などとやりとりの間もテレビカメラがこちらに向いてまわっている。これからビジターセンター方面に向かうと言うと「僕はいませんがよろしく」と楠田さん。「そりゃそうだ、ここにいるからね~」でまた一同大笑い。
ぼくも驚いたが、楠田さんも岩手めんこいテレビの撮影スタッフも、こんなスイートスポットでやらせではない本当のハイカーに遭遇してしまったあまりの偶然にびっくりだった。
残念ながらぼくはまだその番組はほんの一部しかみていない。

2つ目の手掘りトンネル
撮影クルーを見送る
こんな所もよじ登る