宮沢賢治生誕130年
十和田八幡平国立公園・八幡平地域
指定70周年

なぜみんながここを推薦しないのかと投げかける「国立公園候補地に関する〔意見〕」という作品は、『春と修羅』第二集に用意されていたもので大正14年(1925)に書かれていた。歳のはなれた友人森佐一と岩手山麓で夜を明かしたあと、焼走り熔岩流を歩きながら語るような作品。

もちろん山をぜんたいです
うしろの方の火口湖 温泉 もちろんですな

熔岩流の黒い大地を舞台に、地獄を再現して天国行きのにせ免状を売りつける、少しブラックユーモアを含む賢治作品だ。「鎔岩流」では黒い大地に唯一生える苔をパンのように見ていた賢治は、このときは「まあパンをおあがりなさい」と盛岡から持ってきたパンをすすめる。

賢治が食べたパンはどんな味だったのだろう。自然のなかで湧き水と食べるパンが最高だったと森佐一は振り返っている。 

苔むす岩
「鎔岩流」で腹をすかせた賢治は、 
白い乾いた苔がパンに思えたそうだが、
この苔類だろうか。
イギリスパンのイメージカット

彼らが歩いた秋に焼走り熔岩流を訪れてみた。たまに聞こえる鳥の声、がりがりと足元のスコリアはこすれ、風は交響曲のようにごうごうと鳴る。大正14年(1925)よりは木々は少し成長しているだろう。しかし、大地は当時と変わらず黒いままだ。外側の白樺などの木々は風と雪でくねくねと踊るようにゆがんでいた。

白樺の木
周辺では賢治作品によく登場する白樺の木も枝を伸ばす。

新鮮な空気をゆっくり吸い込んでみる。自然のなかに身を置くと、体内時計が変化する感覚がある。息をすることも忘れていたかのように、呼吸を始める。からだが喜んでいるのがわかる。

宮沢賢治は今年生誕130周年を迎える。賢治と国立公園、二つのメモリアルイヤーに、十和田八幡平国立公園に足を運んでみたい。岩手山の登山も今年は解禁される予定だ。

展望台から見る岩手山
展望台からは岩手山。
賢治風に食パンとコーヒーを持参したら、
絶景カフェだった。

網張温泉でゆっくり湯につかるのも、葛根田の川原で柱状節理の岩肌を眺めるのも賢治との対話になるだろう。賢治の心象スケッチをたどりながら、岩手山の風を感じてみたい。

「イーハトーブフィールドブック」の表紙

イーハトーブフィールドブック
岩手山 宮沢賢治と出会う国立公園

発行:環境省東北地方環境事務所
宮沢賢治と国立公園を知るB5判ミニブック。7月上旬、十和田八幡平国立公園内のビジターセンター等で配布予定。