東北奇譚巡り
祟り狐を祀る街、ひがしね ①

山形県村山地方、さくらんぼの産地として知られる東根市の六田地区に「狐の祟りを畏れて建立された神社」が存在することをご存知だろうか。お社の名は与次郎稲荷神社。このなんとも奇妙な名前を有した稲荷さまの、まことに不思議な由来を以下に紹介してみよう。

与次郎稲荷神社の参道の看板
参道には「パワースポット」の文字を掲げた
個性的な看板が立っている。
杉木立に囲まれた境内
杉木立に囲まれた境内は、
季節によってその表情を多彩に変える。

なんとも壮絶なこの怪異譚、実は俗に〈飛脚狐〉と呼ばれる物語で、鳥取の桂蔵坊狐や奈良の源五郎狐など全国各地に類話が伝わっている。とはいえ「じゃあ珍しくない話なんだな」と結論づけるのは早計だ。

これらの多くは江戸中期以降に作られたとされている。つまり与次郎狐こそ飛脚狐の祖である可能性が高いのだ。では、元祖たる与次郎の正体は本当に狐だったのか。なにゆえ斯様に怪しい逸話が広まったのか。その真相を探るうち、意外な事実がいろいろと見えてきた。 

「最上三鳥居」に数えられる境内にある石鳥居
境内の石鳥居は室町以前のものといわれ
「最上三鳥居」のひとつに数えられている。

山形県東根市を示す東北の地図

プロフィール
黒木 あるじ(怪談作家・小説家)

1976年、青森県生まれ。東北芸術工科大学卒。 2009年に第7回ビーケーワン怪談大賞で佳作、第1回『幽』怪談実話コンテストで「ブンまわし賞」を受賞。2010年『怪談実話 震(ふるえ)』(竹書房)でデビュー。現在まで単著共著あわせて70冊以上を刊行。 著作に『山形怪談』(竹書房会談文庫)、『無惨百物語』シリーズ(KADOKAWA)、『掃除屋(クリーナー)プロレス始末伝』(集英社)など。『春のたましい 神祓いの記』(光文社)で細谷正允賞を受賞。