東北奇譚巡り
サエノカミと生きる村 ②
小屋焼きと鳥追い
午前8時、4カ所のワラ小屋に一斉に火がともされると、30分ほどで焼け落ちた。サエノカミの前では、自分の歳の数だけ餅を削り、無病息災、五穀豊穣を祈る男性の姿もあった。集落を歩くと門口に「蘇民将来子孫繁栄門戸也」と書かれたお札を結わえている家がある。魔除けのお札・ゴンギョウだ。
蘇民将来(そみんしょうらい)とは荒神であるスサノオノミコトを家に泊めたことで災厄から逃れたという説話上の人物である。その子孫であると書かれたお札は疫病退散の効果があるとされ、8世紀後半の長岡京遺跡(京都府)からも出土している。横岡では小正月に様々な「まじない」が複合的に行われるのだ。
午後4時から子供たちによる「鳥追い」が始まる。会館には、小中学生の男子13名が集まっていた。一番鳥は「サエノカミの唄」を太鼓に合わせて唄いながら歩く。
「サエノカミのマラは一尺八寸長まった さぎやきりきりきんのんだ 中べんごす山形 山形のがーぎゃーだ」
子供たちは最初に一番西側にある下村のサエノカミの場所へ行き、小屋の焼け跡を左回りに3度回る。その後、他の3カ所も同じように回り、会館へと戻った。そして1時間後に「二番鳥」がスタートする。今度は集落の家を1軒ずつ回るのだ。
「アーマーハーゲのボンボラボン てんきゃとの にきにき 餅くれー 餅くれー」
そんな唄を歌いながらやってくる子供たちを、家主は餅やお菓子を用意して出迎える。「お前はどこの子だ?」と聞かれると、「デンベイ」と言うように、苗字ではなく「屋号」で答えるのだ。
「二番鳥」では子供たちがサエノカミの霊力を宿して各家々を巡る。彼らは厄を払うと同時に疫病をもたらすかもしれない荒神でもあるのではないか。だからこそ各家では「蘇民将来」の札を貼り、餅をお供えして丁重に迎えるのだろう。これがさらに強力になるとナマハゲになるのかもしれない。
こうして横岡の人々は安心して新たな一年を迎えるのだ。古代から続く民間信仰が、今もこの地の暮らしに息づいている。
(横岡での取材は2000年に行った)
プロフィール
小松 和彦
秋田市在住。工芸ギャラリー・小松クラフトスペース店主。民間信仰や花柳界を中心に秋田県の郷土史を研究している。共著に『村を守る不思議な神様・永久保存版』(KADOKAWA)、『秋田県の遊廓跡を歩く追補版』(カストリ出版)など。秋田魁新報電子版で『新あきたよもやま』連載中。

