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人と獣が近かった時代へ ②

東北奇譚巡り
人と獣が近かった時代へ ②

福島市のシンボルとして挙げられる場所の一つである信夫山(しのぶやま)。信夫山には護国神社、わらじ祭りでわらじが奉納される羽黒神社等があり、古くから信仰の場として福島に生きる人々が祈りをささげてきた。この信夫山に「猫稲荷」という一風変わった名前の稲荷神社がある。ここにも人と獣の関わりを示す伝承が残っている。

かつて信夫山をゴンボ狐という化け狐が棲家にしていた。ゴンボ狐は美しい女に化け、通りがかった人が見惚れている間に持っていたごちそうを盗んでいったり、肥溜めを露天風呂に見せて、人々を落としたりと悪さを重ねていたという。そんなゴンボ狐にも弱みがあった。ゴンボ狐は魚が大の好物なのだが、魚釣りがまるっきり下手であった。

猫稲荷の入り口
猫稲荷の社

ある冬のこと、ゴンボ狐は仲間の化け狐に「どうしたら魚とれっぺが」と相談したところ、日頃からゴンボ狐に一泡吹かせてやろうと思っていた仲間の化け狐は「そんだら、うんと寒い晩、沼さ行って尾っぽ水さいっちみ、おもしぇほど魚とれんぞ」といわれ、早速ゴンボ狐は試すことにした。

すると沼の水がゴンボ狐の尻尾ごと凍り付いてしまった。慌てたゴンボ狐が尻尾を引き抜こうとしたところ、尻尾が取れてしまった。尻尾がなくなった化け狐は化けることができなくなるという。

悲しみに暮れたゴンボ狐だったが、近くの住職に「今まで人さめいわぐばっかかげできたがらよ、これがらは人の役に立て」といわれ、改心することにした。当時の福島では養蚕が盛んであった。養蚕においてはネズミが蚕の天敵となる。それからというもの、ゴンボ狐は人々の家に出るネズミを捕って回ったという。

人々はゴンボ狐のことを「まるで猫のようだ」と言い「猫稲荷」と名付けて信夫山に社を立てた。現在でも「猫稲荷」は残っており、全国から愛猫家たちが猫の健康を祈願するという猫好きの聖地となっている。

福島に訪れた際は旬のフルーツをほおばりながら、かつて人と獣が近かった時代に想いを馳せ、各地を巡ることをお勧めする。 

愛猫たちの写真が並ぶ

プロフィール
斉砂 波人(怪談・ホラー作家)

福島県生まれの怪談・ホラー作家。怪談の収集をライフワークとして活動している。単著にホラー小説KADOKAWA「堕ちた儀式の記録」、共著怪談集に竹書房「荒魂怪談」、監修怪談集に竹書房「無縁怪奇録〜いんがほどき」がある。 

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