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政宗裁き異聞 ②

東北奇譚巡り
政宗裁き異聞 ②

戦国時代前期の、福島県は伊達地方の話だったのが、江戸時代の仙台へと舞台が変わり、凄惨なエロティシズムが加わっている。『燈前新話』という書名には、中国の『剪灯新話』からの影響が感じられるが、この物語も、そこに収録されている「牡丹燈記」と、美しき亡者との情交という点で共通するものがある。

現代の南アジアから中東にかけての社会には、ふしだらな行いにより家名を汚したとされる女性を、家の男たちが殺害する「名誉殺人」という悪しき風習があるが、江戸時代の日本にも、同じような発想があったということがわかる。

それにしても、いくら現代とは価値観の違う江戸時代の話だとはいえ、男が女に迫られて斬り殺すというのはあまりに不自然だ。私はこう考えるのである。

この物語の元になった事件が実際にあったとして、本当は女が男に迫って殺されたのではなく、山中で女を手篭めにしようとして拒まれた男が、逆上して斬殺したのではないか。それなら娘の父親が犯人を許すのは不自然だが、名誉殺人の風習がある社会では、現代でも、性暴力の被害者が姦通罪で死刑になることすらあるのだ。

昭和の終わりから平成にかけ、何人もの女児を殺害して死刑になった男は、夢に被害者たちが出てきて「やさしくしてくれてありがとう」と礼を言っている、と供述したという。現代の性犯罪者にもしばしば見られる「被害者も望んでいた」という認知の歪みと、この若侍の行動は、共通のものとしか思えないのである。 

伊達政宗公騎馬像
[山本周五郎『樅ノ木は残った』新潮文庫刊]
江戸時代前期に仙台藩で起きた
お家騒動を題材にした長編歴史小説。

プロフィール
鷲羽 大介

わしゅう・だいすけ。岩手県釜石市出身、宮城県在住。171センチ84キロ。組み手は右。得意技は大外刈り、背負い投げ、三角絞め。「せんだい文学塾」代表。著書に『暗獄怪談』シリーズ、『不条理奇談』などがある。

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