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八幡平旧藤七車道【本編⑤】

このレポートは、「日本の廃道」2005年9月号、10月号、11月号に掲載した「特濃!廃道あるき」をリライトしたものです。
当記事は廃線探索をテーマにしており、不用意に真似をした場合、あなたの生命に危険が及ぶ可能性があります。当記事を参考にあなたが廃道へ赴き、いかなる損害を受けた場合も、作者(マイみちスト)およびみちこ編集室・道の駅連絡会は責を負いません。

所在地 岩手県八幡平市(市道 藤七温泉線)
探索日 平成17(2005)年7月24日

N地点
2005年7月24日10:30

大揚沢を過ぎると、道は再び鮮明さを取り戻した。大揚沼付近から現れるようになった石畳は、引き続き断続的に姿を見せた。もしこの場所を空から見ても、広大な樹海に埋もれて道は全く見えないだろう。覆い被さるような濃い森が、我々に与えられた、見晴らしのない世界の全てであった。

道は再び下り坂となった。同時に初めて聞く大きな渓流の音が寄ってきた。地図を見れば、大揚沢の次に渡るべき沢が近づいている。今日ここで一度だけ渡る、北ノ又川の本流である。

O地点 北ノ又川
10:38

出た! 北ノ又川!

柏台から約10kmの地点であった。歩行を開始した白沢から数えるなら約4km地点。ゴールである藤七温泉まで残り3km程度まで詰めたことになる。海抜は1080m付近だ。

沢の両岸はさほど険しい地形ではないが、笹や灌木がところ構わず密生し、一度沢へ出るともう、どこから出て来たのかが分からなくなるほど。そして、こんなつまらんことを最初に述べていることから察せられると思うが……。

この川にも、橋がない。

地形図だと、道はここで北ノ又川を渡り、対岸からその支流である藤七沢沿いへ入るように描かれている。そして確かに、我々が辿る石畳の県道跡は、ここへ連れてきた。道はここで渡っていたはずだ。

馬体を思わせるような巨大で艶やかな岩が大量に散乱する渓流を、上流、下流と順に見回す。これまで渡ってきたいくつかの沢とは一線を画す水量があり、車輌がそのまま徒渉することは明らかに無理だ。橋が現存しないとしても、その痕跡すら見当らないとなると、この先へ車道が通じていたかは怪しいぞ…。

あった!

橋の痕跡、木橋の跡!

両岸をつぶさに調べ、見つけ出した。川の対岸の切岸に僅かに残る木柱の断片を。

岸に沿って丸太を数本立てることで、簡易な橋台を作った名残だろう。橋台の様子から想像するに、橋は丸太を渡しただけの極めて簡素なもので、高さもごく低かったと思う。

……ジープ道といえば……確かにこれが、ジープ道っぽい……。だが正直、落胆があった。希有なる石畳を有する県道が、北ノ又川という、おそらく道中で最大の障害物をどのように越えてくれるかということを、内心とても楽しみにしていたので。

一応小さな橋の跡は見つけたが、その捜索の過程で、我々がこれから行くべき対岸の道が、身体を押し返してくるほどの猛烈な笹藪に溺れていることを知ってしまったこともショックだった。こんな道を、終点まで、あと3kmは上らねばならないのかと思うと、気が重かった。

だから、

なんとなく、

ただなんとなく、

我々は北ノ又川の対岸へ向かうのではなく、上流へ向かって川の中を歩き出していた。それが最終目的からの遠回りになることは理解していたが、我々が辿る旧県道の200mほど上流にもう1本、この川を渡る点線の道が描かれていた。そこがどうなっているかを見に行くことにしたのだ。

地形図を信じるならば、その点線道は、一端が松尾鉱山跡へ通じており、他端はもう少し先で我々の旧県道と合流することになっている。だが当時、全く正体不明の道だった。

我々は、大岩の散らばる谷を、お互いの声も聞こえない激しい渓声の中で歩いた。私は疲労のために、落胆のために、単純に足元が悪かったために、主に俯いて歩いていた。この沢の石は、乾いているように見えても妙に滑りやすかったせいもある。

ふと視線を上げたときに、向かう先の上流が見えた。とても大きな黒っぽい影が、谷を一跨ぎにしていた。とんでもなく大きな倒木が川を跨いでいるようだ。いや、ちょっと大きすぎないか? それで私は、「オイ、なんだあれ⁈」という表情を作ってから、隣を歩くくじ氏を見た。しかし彼の様子には普段となんら変わったところがなく、正面と足元を交互に見ながら、平然と歩いていた。見えているものを、不思議がっている様子がない。一瞬だけ、「まさか橋か?」と期待した私だったが、くじ氏の平静な態度に、考えるのをやめた。

橋でねが!

私が叫んだのは、本当にここまで近づいたときだった。こんなに近づくまで気付かないなんて……。なお、くじ氏もまた、この瞬間までは倒木か何かと思っていたらしい。皆さん、これが正常性バイアスですよ。

午前1048分。

北ノ又川に架かる

“未知の橋”と遭遇した。

次回、橋の正体に迫る⁈
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