サイトアイコン 【東北「道の駅」公式マガジン】おでかけ・みちこWeb

宇津峠 幻の初代車道【本編第12回】

このレポートは、「日本の廃道」2010年2月号および4月号に掲載した「特濃!廃道あるき vol.26」をリライトしたものです。
当記事は廃線探索をテーマにしており、不用意に真似をした場合、あなたの生命に危険が及ぶ可能性があります。当記事を参考にあなたが廃道へ赴き、いかなる損害を受けた場合も、作者(マイみちスト)およびみちこ編集室・道の駅連絡会は責を負いません。

所在地 山形県飯豊町〜小国町
探索日 平成21(2009)年5月11日(探索2日目)

7:51
昨日の路盤に到達!

この後の探索から逆算すると、ここで辿り着いたのは、この地図の場所だった。

昨日は、図中の「第三谷」の横断中に真っ暗になってしまい、そのまま対岸で道を見失ったため、緊急下山と相成った。

今いる場所は、その第三谷の150mほど峠寄りの「三島道」路上である。下の林道から谷と斜面を適当に登り詰めて、20分ほどで辿り着いた。

昨日一度歩いた景色であるはずだが、見覚えがない気がする。「見覚えがない!」と言い切れるほど確かでないのは、昨日ここを歩いたときは、もう平常じゃなかったからだ。あのとき既に周りが薄暗くなっていて、景色を観察する余裕はほとんどなかったし、そもそも、ここは目立つような風景じゃない。ただの通り道だ。

少し休息してから、8:00に、第三谷の方向へ歩行を開始した。それからすぐに道は森から外れて、灌木帯へ突き出た。周囲の景色が顕わになって、――理解した。

この景色、見覚えがある。

眼下の谷は、昨日の終末の地、雪渓を抱くあの恐ろしい第三谷の威容で間違いがない。目の前の灌木帯を込みで見覚えがあった。そして、谷向こうに露出している茶白色の崖。昨晩はあそこまで辿り着いて、しかしその時には、

既に道を見失っていたのだった。

この先、いきなり正念場だぞ!

灌木帯を全身運動でしなやかに突破して、雪渓化した大量の残雪が巨大な天然雪洞を構成している第三谷の前半部分を、昨日と同じように恐る恐る横断した。

雪渓は、険しい谷の起伏を緩やかな曲面で埋め尽くしていて、表面的には平穏なものと見えるかも知れないが、少なくともこの融解末期の時期の雪渓は、不用意に近づくことが許されない危険の塊だ。これにまつわる、いろいろな“死”の話を聞いたことがある。

最初の谷を渡った先には、この狭い平場がある。そしてここにも昨日立った覚えがある。ここまでの道はやはり間違っていなかったと確信する。

問題はこの先、もう一度谷を渡るところだ。その先では一度も路盤を見つけられないまま、緊急下山する羽目になった。

ここだ。

昨日は、ここで、やられたんだ。三島道と交差するすぐ下で二股になっている第三谷の後半部分。

こうして明るい時間に見るとよく分かるが、前半の谷よりも遙かに傾斜の強い谷だ。特に対岸は、とりつく島がないほど険しく見える。よくもあの暗闇の中で、滑り落ちずによじ登れたものである。薄暗すぎると景色の遠近感とか高度感が薄れるのは良くあることだが、そのせいかも。危険を把握せずに歩いていたなんて、まあただのラッキーパンチだよな。怖い怖い。今さら肝を冷やす。

そしてもう一度、冷やさねばならない。今度は正しく危険を把握した状態で。

見上げる景色。谷の上部は、崩れやすく削れやすい、泥岩のスラブっぽく見える。滑らかだが急な斜面で、今は水が流れていないが、流れれば大きな滝になろう。 

こちらは眼下の景色。昨日は闇に閉ざされてほとんど見えなかった谷底には小さな滝が連なっていた。下端は巨大な天然雪洞に呑まれており、竜の顎を思わせる不穏な光景だ。

昨日、うっかり緊急下山ルートにこの谷を選ばなかったのは大正解だった。近づいていたら、今ごろは雪洞の下で冷たくなっていたかもしれぬ。

8:18
やはり道を見失う!

こわいッ!

昨日よりもなんか怖い! 昨夜は右も左も分からぬまま、進むしかないという心境に突き動かされるように、目の前に垂らされた釣り針のような灌木たちに全体重を預け、ぶら下がるようにしてよじ登っていた。確かに生きた灌木は強く、引っこ抜けることはまずないが、下が見えている状況で同じことをするのは、怖い。

だが、ここ以外に進めそうな場所がないのも事実だ。スラブと滝に支配された谷を渡れる地点は、ここしかない。

そして、またも道をロストしている。

その先は、これまた鮮明に見覚えのある危険な岩場だった。正しいルートは、上か、下か。昨日はそれさえ分からず、両方探そうとして疲労を濃くしたが、今なら分かる。最後に見た路盤は間違いなくここよりも低い。探すなら下方一択だ。ただしここは足場が悪すぎて探しに行くのは難しい。 

昨日はここで断念したのだ。

この密林、急斜面、見覚えというか、感覚で覚えている。なにせまだあれから12時間も経っていない。

この密林の急斜面でルートロス。明るい今でも困った状況。しかし昨日とは違う。明らかに正しいルートの高さよりも上へ来ていると分かっているから。崩壊地を越えるために登らざるを得なかった分を、ここで下って戻したい。

昨日、緊急下山するときにも、この辺りから下っているのだが、今日はもう一度、より慎重に、見逃しをしないようゆっくり、下ってみる。

3メートル…

 4メートル…

  5メートル……

道があった!

10mは下らないうちに、とても呆気なく、足元の山腹を横切る巨大な平場があった。こんなの見逃しようがあるか? 闇の中でも気付けそうなほど鮮明だったが、昨日はこれに全く気付かず、そのまま横断して下山していたのだ。

今さらながら、夜闇の恐ろしさを思い知る。

しかしともかく、昨日あの状況からこの道を見つけて、無事に下山できた保証はない。今日で良かったのかも知れない。ともかく、リベンジの功は成した!

昨日辿り着けなかった残りの区間を、今日は踏破する!

モバイルバージョンを終了