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男鹿森林鉄道 消えた隧道 【本編第10回】

このレポートは、「日本の廃道」2008年12月号に掲載した「特濃!廃道あるき vol.18」をリライトしたものです。
当記事は廃線探索をテーマにしており、不用意に真似をした場合、あなたの生命に危険が及ぶ可能性があります。当記事を参考にあなたが廃道へ赴き、いかなる損害を受けた場合も、作者(マイみちスト)およびみちこ編集室・道の駅連絡会は責を負いません。

所在地 秋田県男鹿市
探索日 平成20(2008)年12月3日

11:50 泥人形の生還

完全に探索の賞味期限を過ぎてしまった腐りきった姿で私の前に現われ、魔窟と呼ぶに相応しい悪状を暴かれた男鹿山隧道(仮称)の探索は、洞内を片道50m、往復100mばかり歩くことで、貫通を見ることなく終わったが、この一連の洞内探索には20分以上を要した。

そしていま、土臭漂う洞内から解放される時が来た。発見時と比べれば見違えるほどに拡幅された東口の開口部を、地上を目指してよじ登る。登るにつれて、顔面に新鮮な冷たい空気と、淡い光がもたらされた。布袋様のような細田の笑顔も見えてくる。嬉しいことに、外で待っていた細田氏は、私が洞内を探索している間ずっと、出やすいように入口の土砂を寄せる作業をしてくれていた。

地上へ…!

これは細田氏が撮影してくれた、穴から這い出してくる私の姿だ。生還の喜びが、全身に溢れているのを感じないだろうか。

そして、私の全身は完全に地上のものとなった。

20数分ぶりの地上には、雨が降っていた。それも結構な本降りであった。洞内にいた私は、雨が降り出したことを知らずにいたし、雨粒には濡れることがなかったが、細田氏は全く黙って濡れていたのだ。私を呼び戻そうにも声は届かなかったかも知れないが、それさえせずに、ただ私の探索が全うされ、生還するときを、待ってくれていた。

し か し、 

こ れ は ……

ひ ど い !

ぐわーー!

全身泥人形だー!

さすがにここまでの汚れ方は、汚れを恐れないオブローダーとして、主に母親によって恐れられ、忌避されてきた我ながら、目を覆いたくなるほどの酷さだった。

いったい何をすればここまで汚れるのか、説明困難な汚れ方であった。細田氏など、とてもコンプライアンス的にここでは書けないような表現で、この汚れた姿を表現した。(なお、このときの装備品のうち、ズボンについては、洗っても洗っても土が出るため捨てる羽目になった)

地上に降り注ぐ雨は、私に対する拒否を許さないシャワーのようであったが、2人の喝采する笑い声は暫く止むことなく続き、おそらくもう二度と人が入ることはないだろう廃隧道に向けて、完成したときの「万歳」の声と対になる、最後の地上の賑わいを聞かせた。

12:05 東口からの撤収

地上へ戻ってから15分間。身体にこびり付いた泥を少し払ってみたが、まあほとんど無理だったので、早々に諦めた。あとは洞内の様子を身振り手振りで細田に説明した。そしてたくさん笑って、最後に、穴に向かって一礼をしてから、この衝撃的な現場を離れた。

まだ探索は終わっていない。

洞内からは辿り着けなかった西口の捜索が残っている。西口は、東口から山を越えた反対側にあるわけだが、一旦クルマを回収しにスタート地点へ戻ることにした。

戻り初めて50分後。溜池の畔に辿り着いた。車はもうすぐそこだ。この間、ずっと強い雨が降っていたが、心は晴れ晴れだった。達成感が凄かったー。

仕切り直して、西口の捜索開始。

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