サイトアイコン 【東北「道の駅」公式マガジン】おでかけ・みちこWeb

男鹿森林鉄道 消えた隧道 【本編第4回】

このレポートは、「日本の廃道」2008年12月号に掲載した「特濃!廃道あるき vol.18」をリライトしたものです。
当記事は廃線探索をテーマにしており、不用意に真似をした場合、あなたの生命に危険が及ぶ可能性があります。当記事を参考にあなたが廃道へ赴き、いかなる損害を受けた場合も、作者(マイみちスト)およびみちこ編集室・道の駅連絡会は責を負いません。

所在地 秋田県男鹿市
探索日 平成20(2008)年12月3日

11:14 ファイナルジャッジ・ストレート

 ここまでは、さほどの緊張を強いられる場面はなかった。いま初めて、どきどきしている。隧道の現存の有無を確かめるまで、あと数十メートルであろう。
 ずっと寄り添ってきた無名の沢は、既に路盤とほぼ同じ高さにあり、行く手には地形の袋小路がある。これまで数多く見てきた、隧道前風景の典型だ。

頼むよ。
頼むから、

隧道開いていてくれ!

う…

うう…。

「細田さん…。これちょっとやばいかも。」

思わず口をついた弱気。

それも無理はなかった。

 この位置。この距離。
 もし、隧道が、あるべき位置に、健康体で、大きな口を開けていたとしたならば、すでに「黒」が見えていなければならない位置まで、私は来ている。笹藪と雑木林にやや視界を妨げられてはいるが、隙間から充分に見えだしていい。

 だが、黒の代わりに見えるのは、茶。

 廃隧道の破滅の色。

 まだ開口していないという判断をするには早いが、健康体ではないようである。もう埋れかけの小さな穴でもいいから、開口部の現存を祈りながら、接近を続ける。

 近づけば近づくほど、非情にも、茶色い斜面が大きく目立ってきた。倒木にカモフラージュされている部分も、背後は茶色一色だ。

「細田さん……、ここじゃないってことは、ないかな…。」

 そんな発言を、縋るようにしてみたけれど、返事はない。まだチャンスは有るかも知れないと自分に言い聞かせたかった。だが、どう見ても状況は最悪に近い。ここまで沿道で見てきたいかにも脆そうな砂と土の山が、隧道を大事に守り続けていてくれるなど、期待すべきではなかった…。

 男鹿唯一の廃隧道。地図で見つけたまでは満点だったけど、残ってないのかもな…。

11:16 隧道擬定地跡(東口)

 出発から1時間半。分岐地点から、支線の軌道跡をたどること約1kmで、目指す隧道擬定地点へ到着した。
 地形的に、ここがドンズマリで間違いない。平らな軌道跡が突き当たる場所も、ここだ。隧道はここにあったはずだ。
 だが、坑口があるべき場所には、代わりに、大きなスプーンで抉ったように窪んだ土砂の斜面があった。辺りはとても崩れやすい土の斜面で、それが昨夜までの雨を含んで、とても滑りやすくなっていた。

 私はまだ、諦めていない。

 窪んだ土砂の斜面をよじ登らん勢いで、滑る足に発破をかけて、どんどん奥へと踏み込んでいく。その持ち前の諦めの悪い行為が、私に小さな希望を与え始める。

 確かに眼前の土砂の山は、隧道の入口を隠してしまっている。だがそれでも、崩れて散らばっている土砂と、崩れずに残っている地山の間に小さな隙間があって、そこから洞内へ滑り込める場合がある。
 今回もそのような希望を持てる要素があった。具体的には、地山部分に垂直の崖が露出していることが、希望の要素だ。このように現れている垂直の崖の真下に、隧道内部へ通じる開口部が残っているケースが少なくない。

 一縷の望みをかけて、崩れた斜面をよじ登る。目指すは、上部の岩場だ。登っていく途中、倒木に紛れて立つ、加工の形跡のある杉材を1本だけ見つけた。これはもしや隧道の入口を崩壊から守るべく設けられていた木製の坑門工の残骸ではないか。事実、翌日の聞き取り調査では、現役当時は坑口に「木で組んだ屋根」が付けられていたという証言を得ている。

あ!

次回、葛藤の二人――。

モバイルバージョンを終了