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浪江森林鉄道 真草沢(まくさざわ)線【第14回】

 このレポートは、「日本の廃道」2010年5月号に掲載された「特濃廃道歩き 第27回 浪江森林鉄道 真草沢線」を加筆修正したものです。当記事は廃道探索をテーマにしており、不用意に真似をした場合、あなたの生命に危険が及ぶ可能性があります。当記事を参考にあなたが廃道へ赴き、いかなる損害を受けた場合も、作者(マイみちスト)およびみちこ編集室・道の駅連絡会は責を負いません。

◆ 9:26 第二インクライン下端 

 

 

 

さあ、

やってやる!

 

 インクラインの下端に立って見上げる斜面は、覆い被さってくるような圧迫感があった。前のインクラインと比較しても、こっちの方が最初から急勾配だと思う。まるで、空に向かって突き上げるような坂道だ……!

 

飛び石伝いに跳ね渡った真草沢と、“中部軌道”の終点だった築堤を振り返る。真草沢は、必死に汗を流して振りほどいたと思ってもすぐに追いすがってくる、質の悪いストーカーみたいな沢だ。

 

だが、このインクラインで、関係はきっかり解消させてもらうぜ。お前のいない明るい山の上に、俺は行く!

 

 

突入開始! 

 

だが、最初の数歩で、早くも足に違和感が……! 前回のインクラインを乗り切ったことによる無理な疲労が、両足に刻み込まれていやがる。機械の力で上るべき設計の坂道を、肉体の力だけで上ろうとすることの無理は、インクライン探索ならではのものだと思う。

見た目の印象通り、勾配は序盤から極めてきつい。しかも、周囲が岩場ばかりであるせいか、路盤上には落葉だけでなく、大量の瓦礫も堆積していて、これが恐ろしく歩きづらかったのだ。

せっかく足を大きく上んだ刻む一歩も、踏み込むそばから、ガラガラと崩れてしまう。そうすると、滑落しないようバランスを整えるので精一杯だ。結局、ただ地団駄を踏んだみたで前に進んでいない一歩を、何度も何度も味わわされた。落葉の下にどんな岩があるかが見えないので、回避のしようもない。ただ、何度も足を上げて、抗うしかなかった。

 

 序盤から、恐ろしく汗の吹く展開だった。

 

 

 いったいこのインクラインは、どこまでが人工的で、どこから天与の地形だったのだろう。経年のせいか、路盤と地形との同化が進んでおり、区別が付きづらい。

垂直にそそり立つ二つの岩盤の合間を、ほぼ一定の勾配と幅員を維持して通じる路盤であるが、これが全て人工的な掘り下げだとしたら、とんでもないことだった。さすがにそれはないだろう。元もとあったガレ場を、掘ったり均したりして建造したのだと思うが、それでも大工事に違いはあるまい。

大工事の作りだしたもの、全てが、いまや木こりさえ入らない谷の奥で忘れ去られていた。

 

 

 前のインクラインは途中で勾配が急になったが、今度のは最初から急であるせいか、変化しないようだった。実測ではない、写真からの測定だが、勾配は30~35°程度だろうか。

 しかし、中盤まで進んでも、やはり今度の方がより一層、苦役の度合いが深かった。

 

 

 「第一」も「第二」も、路盤が大量の落葉に覆い隠されているのは同じだったが、その下にある路盤の状態は、違っていた。「第一」はよく締まった土をベースにしていて、適度に混入した瓦礫がグリップを高めていたが、「第二」はまず砂礫質がベースである時点で滑りやすく、しかもその表面には浮いた瓦礫が大量に堆積していたのである。

 結局のところ、ここは「道」ではなく、単なるガレ場の直登と大差なかった。上部からの落石や、自身の滑落にも注意しなければならなかった。それでも直登は次第に無理となり、狭いインクライン路盤の中で、小さくジグザグを切って辛抱強く高度を稼ぐこともした。脚力だけで、ここは乗り越えられない。

 

 10分後――

 

 

終点……!

 

 足が棒きれ同然になった私は、根性で尾根に迫った。絵に描いたような、見た目にも分かり易い尾根へ突き上げ、これで2本目のインクラインも終わってくれるだろう……。なにせ、これより上に地面はないのだから、絶対だ……。

 

 ……もう、へろへろだ……

 

 ひとやすみしたい……。

 

 

 一度でも苦行のインクラ登攀を、連続二度やらされたのは、これが初めてだったです…。

 しかし、最大の探索目標をどうにか征服し、探索もいよいよ終盤戦を窺わせる山上へ。このどこかにある「終点」を極めることが、最終ミッションだ。

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