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第4話:魚の幸せ

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教員として過ごした三十五年間を経てなお、子ども達や先生方、保護者の皆さんに伝えておきたいことが少なくありません。その思いで自費出版した「お天道様は見ています〜校長先生のおはなし〜」の続編やこぼれ話をお伝えいたします。お子さんと一緒に読んでみたり、かつての自分を思い出したりしながらお付き合いください。
まいにちみちこ編集室
https://my-michi.com/column/76954238/9604

今日のお話は、校長先生が小学校二年生のころのお話です。

校長先生も子どものころは、みんなと同じように外遊びが大好きで、休みの日には朝早くから夕方暗くなる前まで、お昼も食べずに友達と遊びまわっていました。

 

ある初夏の日曜日でした。朝早くから家を出て、汗をかきながら鬼ごっこをしたり、野球をしたりして遊んでいました。五時には、愛の鐘というチャイムが鳴り響き、小学生は帰宅しなければなりません。

「ああ、毎日が日曜日ならいいのになぁ・・・」

なんて独り言をつぶやきながらシンカイ橋の上を家に向かって歩いていました。すると橋の下から、私を呼ぶ声が聞えます。立ち止まって川の方に目をやると、近所に住む中学生のススムさんでした。ススムさんは釣りをしていました。私に向かって手招きをするので、急いで橋を渡り、土手を下ってススムさんの所に行きました。

「今日はアユも日曜日なのか、この一匹しかいなかったよ」

と、バケツの中で元気に泳いでいるアユを見せてくれました。ススムさんは、ザックに入っているアルマイトの弁当箱を取り出して川の水をすくい、アユをつかんで弁当箱にひょいと放しました。その弁当箱にふたをすると私に差し出しました。

「これを父さんにもってけ。一匹ですみません、と言ってな」

 

弁当箱を受け取った私は、水がこぼれないように慎重に両手で持ち、しかし急ぎ足で家に向かいました。途中、アユは何度も弁当箱のフタを叩きました。私はそのたびにフタを開けました。ところ狭しと元気に泳ぎ回るアユを見ると、なんだかうれしくなり、早く父さんに見せたいと思いました。

 

家に着いて、父さんにアユを見せました。ニッコリした父さんに、

「ねぇ、水槽に入れてもっと大きく育てよう」

と言いました。父さんは、少し困ったような顔をしたように見えましたが、

「さぁ、明日は学校だから、すぐ風呂に行って来い。帰ってきたら夕ご飯だから、長湯はするなよ。」

と、私に湯道具を渡しました。それを持って私は共同浴場に向かいました。

 

大きな丸いちゃぶ台の周りに家族全員が座ってから夕ご飯です。いつものように大根の煮つけやら、ホウレン草のおひたしやら、おかずが大きな皿に盛られています。遊びまわってお腹がすいていた私は、「いただきます」を言うか言わないうちからご飯にかぶりつきました。

ふと、父さんに目をやると、焼いた銀色の魚を箸でつまんで、パクリと食べたところでした。その魚に見覚えがありました。ススムさんからもらったアユでした。

私は驚きと、悲しさと、怒りがごっちゃになった何とも言えない気持ちになり、涙が吹き出しました。そして、父さんに食ってかかりました。

「なんで、なんで、アユを食べたんだ!元気なアユを育てようって言ったじゃないか!アユがかわいそうだ!アユを食べるなんて、父さんのバカ!」

 アユは、七輪の上で焼かれたんだ。きっと熱くて、熱くて、体をそり返して逃げようとしたんだろう、そう思うとアユがかわいそうで、かわいそうでたまりませんでした。アユの命を奪った父さんが憎くて、私は箸を置いたまま、父さんをずっとにらんでいました。

 

暗くなった外でいつまでも泣いている私を家に入るようにと声をかけてくれたのは、おばあさんでした。

「父さんひどいよ、アユを焼いて食べるなんて・・・・父さんひどい」

そういう私に、こんな話をしてくれました。

 

「あのね、川の魚も、海の魚も生き物だから、命はいつか終わってしまう。川や海で一生を過ごすより、もっと幸せな魚の一生というのが魚の世界にはあるんだそうだよ。魚にとって最高の幸せというのは、人間に食べられるってことなんだと。魚たちは、人間に食べられて一生を終えることほど、幸せなことはないんだそうだ。それは魚だけではないのかもしれないね。私たちは、お肉も米や野菜だってみんな命があって成長したものを食べているからね。その代わり、私たち人間には守らなければならないことが三つある。魚や肉、野菜といった食べ物を絶対に粗末にしてはならないこと、魚やけもの、植物など命があるものをいただいているという感謝の気持ちを忘れないこと、そしてすべて命あるものには優しく接するってことなんだ・・・・」

 

「へぇー、魚は人間に食べられて幸せなのか・・・」

おばあさんの話に何となくすっきりした気分になったのでした。

 この記事を書いた「マイみちスト」
(こんのひとし)
大学を卒業後、一般企業に三年間勤務し、その後1年間大学専攻科で特別支援教育を学ぶ。昭和57年から盛岡市、宮古市、釜石市の小学校に勤務。平成23年 釜石市立小学校長として勤務時に東日本大震災被災。平成27年度小学校長で退職。平成28年度は大阪府の小学校で校長を務める。

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皆さまよりお寄せいただいた感想はこちら (4)
  1. マッキー さん

    先生のおばあさんに一度お目にかかりたかったなあと思う程、その言葉に愛情と説得力がある素敵なおばあさんですね。
    私たち人間は他の動物や植物の命を頂いて、それを栄養にして生かせてもらっているんですね。おばあさんの言葉で命をいただいていることを再確認させていただきました。
    感謝の気持ちを込めて「いただきます」を言いたいです。
    そまかんなさんのイラストもいつもあったかくて心が和みますね。

  2. ルイ.ニャン さん

    愛のあるおばあ様ですね❤私(母親)なら「いつまでもメソメソしないの!」とか「お父さんが困るでしよ。」とか怒ってしまいます。子供がスッキリと納得しその後にも活かせるお話ができるの素敵です。私も大きな人になりたいです。

  3. ちゃんかな さん

    ありがたいお話を教えてくださり嬉しいです。複雑な家庭に育っため、自分が親になった今、さらにパニックで、生きていくうえで、何が大事なことかが全然分からず、何も子供に伝えられずすごく困ってしまうことが多いです(T_T)。だからすごくためになります。ハッときづかされます。もっとたくさん教えてほしいです〜。とても楽しみにしています。

  4. 柴田雅裕 さん

    いいお話を聞きました。

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