日刊ウェブマガジン「まいにち・みちこ」│東北「道の駅」公式マガジン「おでかけ・みちこ」

まいにち・みちこ【東北 道の駅 日刊マガジン】

教員として過ごした三十五年間を経てなお、子ども達や先生方、保護者の皆さんに伝えておきたいことが少なくありません。その思いで自費出版した「お天道様は見ています〜校長先生のおはなし〜」の続編やこぼれ話をお伝えいたします。お子さんと一緒に読んでみたり、かつての自分を思い出したりしながらお付き合いください。

第24話:おばあちゃんは天才や!

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まいにちみちこ編集室
https://my-michi.com/column/76954238/24571

地元の小学校長を退職した後、1年間だけ大阪で校長を務めました。

そこは、大阪北部の町でした。京都や奈良の県境まで電車か車で20分足らずです。しかし、大阪の中心部までも電車で40分ほどでした。郊外の町だけあって、自然豊かで山あり、川あり、野原あり、そう学校の前には田んぼがありました。古都奈良に近く落ち着いたたたずまい、京都弁の混じった柔らかい大阪弁、そして人情の町大阪を体現している地域の人々でした。短い期間ではありましたが、忘れられないいい思い出がたくさんできました。

そんな中から、学校での出来事を一つお話しします。

 

大阪に赴任して間もない土曜日でした。私は一日も早く、学校に慣れようと、休日でしたが、出勤して学校の資料に目を通していました。また、年度初めは特に忙しい学校事務のユウコ先生が職員室内で忙しそうに仕事をしていました。

お昼近くになった頃、校門から職員室につながるインターホンが鳴りました。ユウコ先生が応対してくれました。声の主は6年生の男の子でした。私は校長室に戻りました。

しばらくしてノックがあり、ドアを開けると、ユウコ先生と6年生の男の子、そして、べそをかいている女の子がいました。聞くと、公園で自転車に乗って遊んでいた女の子が転んでケガをしたので、彼が学校に連れてきたということでした。ユウコ先生は、ケガは擦り傷程度だから大丈夫と、土を水道で洗い流し、これから家まで送っていくというのです。

6年生の男の子はショウという名前だと分かり、

「ショウくん、えらいね。ケガしていた子のお世話をしてあげたんだね」

とほめました。ユウコ先生も

「そうなんよなぁ、ショウくんはやさしい子やから、ほおっておれんかったんよなぁ」と言うと、ショウくんは照れ笑いを浮かべていました。

ユウコ先生は女の子の手を引き、ショウくんは女の子の自転車を引いて近くの家まで送っていきました。

 

6月に入ると遠足の季節です。私は、6年生2クラスを担任の先生方と一緒に引率することになりました。引率と言っても、校長の役目は一番後ろからついていき、集団から遅れる子供たちに声をかけて急がせる役目でした。

奈良まで行く電車の乗換駅で早速、乗り遅れそうな女の子がいました。列車を待っている間、ミホちゃんはしゃがんだまま、線路をまたぐ階段をずっと見ていました。その先には、年老いた掃除のおばさんが階段を丁寧に掃いたり、手すりを一生懸命拭いたりしていました。電車が来たことも知らずにジーッと見つめたままなので、私はあわてて、

「ほら、ドアが閉まっちゃうよ。はやく乗って、乗って」

と電車に押し込みました。

そこから奈良駅まで15分、ミホちゃんのお話を聞くことができました。

「どうして、掃除のおばさんを見てたの?」

「あんなぁ、校長先生……うちのおばあちゃんを思い出したんよ。……おばあちゃんはな、校長先生よりもずっと歳とってん……そんでな、病院の掃除を毎日しとんねん。お父さんとお母さんはな、おばあちゃんはもう歳なんやから、仕事やめときっ、ていうんやけどな……おばあちゃんはな、こりゃ仕事やないねん、わしの生きとる証や、言うねん。おばあちゃんがトイレ掃除した後にな、患者さんが、とてもきれいで使いやすい、ありがとう、って言うんやて。病気やケガで痛いところを抱えている患者さんが、ちょっとでも気持ちええなぁ、と思ってくれるからわしは生きとる価値がある、そう言うねん。……駅で掃除してた人と同じようにおばあちゃんも働いているんやな、って思ってたんよ」

「ミホちゃんのおばあちゃんは、偉い人だね」

「うん、ほんまそう思うたわ」

 

奈良公園につきました。私ははじめて若草山に登り、奈良や大阪の市街地を見渡せる絶景に感動しました。午後は、興福寺の見学です。子どもたちは、千手観音像などの宝物(ほうもつ)を予め学習しており、興味深く見て回っていました。しかし、国内だけでなく海外からの観光客で寺院内は予想以上の大混雑でした。

ふと気づくと、最後尾のグループの子供たちが何やら慌てています。どうしたのかと思って聞くと、一人はぐれてしまったというのです。それは、例のショウくんでした。予想外の混雑で予定は大幅に遅れています。このままだと、帰りの電車に間に合わないかもしれません。

担任の先生に、私がショウくんを探しに行くことを伝えて、見学ルートを引き返しました。

混雑の中、ショウくんはなかなか見つからなかったのですが、なにやら観光客の声が聞こえてきました。

「……感心な子やね」

「今どきこんな子が居(お)るんや」

もしや、と思いましたが、やはりショウくんのことでした。自分自身がグループからはぐれていることも自覚していないようです。ショウくんは、自分が調べてきたメモを見ながら、じっくりと拝み、そのあと一体一体に丁寧に合掌しながら、回っていたのです。

私は、ショウくんに急ぐようにせかしましたが、それでも仏像への合掌は最後まで続けました。

ショウくんと私は、なんとかグループに追いつき、駅に急いだのでした。

 

帰りの電車では、ショウくんからお話を聞くことができました。

「どうして、仏像に手を合わせていたの?」

「あんな……おばあちゃんがな、仏像はな、交通事故や病気などから家族を守ってくれとる。そやから仏像には、必ず手を合わせて、感謝せんといかんよ、って……」

「へえー、そうなの。本当に仏像がショウくんや家族を守ってくれてるのかな?」

「そうや。校長先生、そんなことも知らんの?」

「……あ、はい……」

「おばあちゃんの言うことは、いつも間違っとらんし、おばあちゃんの言うことをボクは信じとる。天才はどんだけいるか知らんけど、ボクはおばあちゃんが一番の天才だと思うとる」

 

おばあちゃんは天才か……確かに。私も小さい頃、おばあさんから大事なことをたくさん教えられたし、いろいろと助けてもらった。社会でよりよく生きる姿をミホちゃんに見せているおばあちゃん、目には見えないもの中にこそ大切なものがあることを教えてくれるショウくんのおばあちゃん、大阪の子供たちも大阪のおばあちゃんたちがしっかりと見守り、育てているんだなぁ、と思ったのでした。

 

大阪のおばあちゃんも、東北のおばあちゃんも、全国のおばあちゃんもみんな、おばあちゃんは天才です!

おばあちゃんは天才や
 この記事を書いた「マイみちスト」
(こんのひとし)
大学を卒業後、一般企業に三年間勤務し、その後1年間大学専攻科で特別支援教育を学ぶ。昭和57年から盛岡市、宮古市、釜石市の小学校に勤務。平成23年 釜石市立小学校長として勤務時に東日本大震災被災。平成27年度小学校長で退職。平成28年度は大阪府の小学校で校長を務める。

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皆さまよりお寄せいただいた感想はこちら (3)
  1. アバター マッキー さん

    子供たちがしゃべる大阪弁もあったこうてええですね~。
    日本全国にいらっしゃるお年寄りの方たちは、確かに長い人生経験の中から真実やよりよく生きる生き方などをたくさん見つけてこられた天才ですね。
    おばあちゃんが大好きなミホちゃんとショウくん。おばあさんのまっすぐな生き方やあったかい言葉からミホちゃんやショウくんたちもたくさんのことを学んできたのですね。そしてそれをちゃんと実践してるところが素晴らしいです!日本人の良心や感謝の気持ちが子供たちに受け継がれるって素敵なことですね。これからももっともっと先の代まで続いて行きますように~!

  2. アバター さん

    校長先生は、子どもたちの最後尾にいて迷子しないように守ります。
    ミホチャンのおばあちゃんは、「病気やケガで痛いところを抱えている患者さんがちょっとでも気持ちええなぁと思ってくれるから、私は生きとる価値がある。」と言います。
    ショウくんのおばあちゃんは、「仏像はな、交通事故や病気などから、家族を守ってくれとる。そやから仏像には、必ず手をあわせて、感謝せんといかんよ。」と言います。
    ミホチャンとショウくんは思いやりと愛に満ちあふれた子どもになりました。
    ミホチャンとショウくんがグループを外れました。でも校長先生、叱る言葉ちっとも言いません。優しく子どもたちの話を聞きました。
    佐賀のがばいばあちゃんを思い出しました。「通知表0じゃなければええ。1とか2を足していけば5になる。」といいました。大阪おばあちゃんも、佐賀おばあちゃんも、東北のおばあちゃんも、全国のおばあちゃんもみなおばちゃんは天才ですね。そして褒められた子供は、自信をもった大人になりますね。

  3. アバター 枚方のかっつん さん

    大阪でのエピソードを披露いただき、さすが紺野せんせは見方がちゃうなーと感心いたしました。どの子どもにもその子にしかない感性を持っていることを再認識させていただきました。また、大阪のお話期待してまっせ!

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