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第21話:消えた集金袋 ~くつかくし その後~

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教員として過ごした三十五年間を経てなお、子ども達や先生方、保護者の皆さんに伝えておきたいことが少なくありません。その思いで自費出版した「お天道様は見ています〜校長先生のおはなし〜」の続編やこぼれ話をお伝えいたします。お子さんと一緒に読んでみたり、かつての自分を思い出したりしながらお付き合いください。
まいにちみちこ編集室
https://my-michi.com/column/76954238/23453

(このお話は、第19話「くつかくし」の続編です)

 

私たちは中学3年生になりました。ヤクモ中学校3年4組には、今でもリーダーとして活躍しているサキや背丈がぐんと伸びたトモ子など6、7名のマツダ学級のクラスメートがおりました。

 

いよいよ高校受験モードに入ろうとする11月のことでした。

クラスメートは、それぞれ希望する高校に入学するため、家でも学校でも受験勉強に没頭していました。息抜きはお弁当の時間と休み時間です。お弁当を食べ終えたクラスメートは全員、昼休みのベルと同時に教室を飛び出し、バレーボールやバスケットボールに興じて頭と体をリフレッシュさせるのでした。

アツシは遅れていた集金袋を職員室の担任に届けてから外に出ようと、カバンから集金袋を取り出し、机の上に置いていました。休み時間のベルが鳴る少し前に、トイレに行きました。トイレから教室に戻ろうとした時、ベルが鳴りました。教室からはクラスメートが飛び出して行きました。

教室は、あっという間に空っぽになっていました。アツシも集金袋を届けて、すぐに校庭に出ようと急ぎました。

しかし、4000円の入った集金袋がないのです。

(あれっ、確かに机の上においたはずなのに……)

床にも落ちていません、机の中、カバンの中にもありません。アツシは、青くなって職員室に行き、担任の先生に集金袋がなくなっていたことを話しました。

アツシは担任と昼休み中、教室や廊下、トイレまでも探しましたが集金袋は見つかりませんでした。

 

アツシがトイレに行ったほんの2、3分の出来事でした。休み時間になる前は、みんなは教室でお弁当を食べ終え、ワイワイと雑談していました。ベルが鳴ったと同時に全員が教室に出だのですから、それは本当に短い時間の出来事だったのです。

5時間目は急遽、集金袋探しの時間となりました。学級全員で教室内、廊下など教室周辺をくまなく探しました。しかし、出て来ません。各自が自分のカバンなどの持ち物を確認しました。やはり、ありません。

教室でなくなったので、教室内のどこかにあるはずですが、担任は生徒一人ひとりの持ち物を点検するようなことはしませんでした。6時間目は、広い教室に3年生4クラス全員が集められました。3年生だけが2年前に新築された新校舎で学習しています。授業や昼食時間に1、2年生が新校舎に来ることは考えられないのです。

 

床に座った180名の3年生を前に担任が話し始めました。

「今日、昼休みが始まる直前、3年4組の教室から4000円が入っていた集金袋がなくなった。5時間目、3年4組全員で教室や廊下、新校舎内を探したのだけれど集金袋は見つかっていない。昼食中のことだから旧校舎にいる1、2年生は関係していないだろう。4000円は大金だ、このまま放っておくわけにはいかない………だれか、4000円入りの集金袋を知らないか………だれか、4000円入りの集金袋を見なかったか………だれか、4000円入りの集金袋を間違って手にしなかったか……」

私は小学校4年生の時のマツダ先生を思い出しました。マツダ先生と同じように中学校の担任も言いました。それ以上のことは言いませんでした。いや、それ以上のことは何も言えなかったのかもしれません。

 

長い沈黙が続きました。もう15分は経過しています。再び担任が話し始めました。

「……6時間目の授業があるから、これで終わりにするけど、もし間違って自分の持ち物の中に集金袋が入っていたら、そっと申し出てくれないか3年生の先生ならだれでもいい……責めたり、公表したりしないから……」

マツダ先生と全く同じだなぁ……と思いながら聞いていると、サキがスッと手を挙げたのです。

先生方は驚いたようでした。担任は思わず、

「サキ……おまえ」

と声が出てしまいました。サキは、立ち上がりました。

「いえ、私が集金袋をとったのではありません。私にも少し話しをさせてほしいんです……」

担任は、サキの申し出を受け入れました。

「ありがとうございます。みんな聞いてください。先生方は、学年全体に呼びかけるような問いかけしかしません。それは私たち一人ひとりのことを尊重しているからだと思います。でも、みんなも思ってるでしょうが、どう考えてもこの3学年のだれかがアツシくんの集金袋を持っているに違いありません。……実は、私は小学校4年生の時に、いたずらされたように見せかけて自分の靴や絵具箱を自分自身で隠したことがあるんです。それだけでなく、トモ子の体操着まで」

そこまで言うと、トモ子が声をあげました。

「サっちゃん、それは小学校の頃のことだから、言わないで!私なんともないから……」

「いや、でもごめんトモ子、言わせて」

トモ子は首を縦に振りました。

「私は自分の体操着をトモ子の服袋に入れて、トモ子が私の体操着を隠したように見せかけたの。一週間、先生や学級のみんなを困らせてしまったわ。でも、結局、私がやったことだということは担任のマツダ先生は分かっていた。先生は、家に来てすべて事情を話した。私は深く反省して、お母さんと一緒にトモ子の家に行って謝ったの。担任の先生は、私がしたということを一切言わず、誰かが間違ってしたことにしてくれた。……でもね……そのことは今までずっと忘れることはできないの。私がしたこととトモ子へのお詫びの気持ちは、今でも心から消えないの。……みんなに言いたいことは、今なら間に合うってこと。……集金袋がなくなってまだ2時間も経っていない。私のように一週間も黙っていたら、みんなの心に中学校時代の嫌な思い出として残ってしまう。でも今なら誰も問題にしないし、すぐに忘れてしまう……今なら間に合うから………誰かもし、失敗してしまった人がいたら、どこかにそっと置いといて、今なら取り返しがつくから……」

サキは言い終えると黙って座りました。

 

3年生全員、重い心を引きずりながらクラスごと教室に戻りました。3年4組のクラスメートも教室に入りました。入って間もなく、声が上がりました。

「なにこれ?アツシの集金袋じゃない?」

不思議なことでした。黒板の前にある教卓の上に、アツシの集金袋が乗っていたのです。その集金袋には誰も触れず、誰かが担任を呼びに走りました。担任は驚き、集金袋を手に取ると中身を確かめました。

確かに4000円入っていました。そして

「すみませんでした」

と一言書かれた小さなメモが同封されていたのでした。

 この記事を書いた「マイみちスト」
(こんのひとし)
大学を卒業後、一般企業に三年間勤務し、その後1年間大学専攻科で特別支援教育を学ぶ。昭和57年から盛岡市、宮古市、釜石市の小学校に勤務。平成23年 釜石市立小学校長として勤務時に東日本大震災被災。平成27年度小学校長で退職。平成28年度は大阪府の小学校で校長を務める。

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皆さまよりお寄せいただいた感想はこちら (2)
  1. マッキー さん

    サキは、小学校でのあのことをずっと後悔していたのですね。トモ子に罪を着せて本当に悪いことをしてしまったと!お母さんと一緒に謝りにも行っていたのですね。
    今回4000円もの大金が入った集金袋がなくなってしまって、サキは自分と同じ様に後悔の気持ちを持ち続けて苦しんで欲しくないと心から思いました。それで自分のあやまちをみんなの前で話しました。
    サキもあの時のことをちゃんと言えたことで重荷から少し解放されたと思います。そしてサキの勇気ある発言が一番届いて欲しい人にちゃんと届いてよかったです。その人も本当に救われたに違いありません。
    サキは頼れるりーダーですね。三周りも大きくなったサキの成長を見届けることが出来て本当に嬉しいです。

  2. さん

    私は台北に住んでいます。日本語の勉強をしています。「お天道様はみています」を読むのが好きです。おどおどしていますが、勇気を出して感想を書きます。
    「人非聖人、誰無過 ひと聖人にあらず、だれか過ちなからん」(人間は聖人ではない。誰か過ちを犯さない人がいるか?そんな人はいない。ひとつミスをしても挽回できる。)という諺があります。「消えた集金袋」のサキを見てこの諺を思い出しました。サキがいたずらしたことを謝りました。ただトモ子だけは知っていた。他のクラスメート誰も知らなかった。サキは立派なリーダーになりました。自分の過ちを人前で認めた。サキは相当な勇気を出しました。自己反省出来る人は将来必ず輝きを放つでしょう。集金袋を取り返せたのは素晴らしい結果です。
    誰にも自尊心がある、子供にもある。一人一人を尊重したマツダ先生は愛がいっぱいの先生です。愛の教育を受けたサキは幸運です。

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