日刊ウェブマガジン「まいにち・みちこ」│東北「道の駅」公式マガジン「おでかけ・みちこ」

まいにち・みちこ【東北 道の駅 日刊マガジン】

教員として過ごした三十五年間を経てなお、子ども達や先生方、保護者の皆さんに伝えておきたいことが少なくありません。その思いで自費出版した「お天道様は見ています〜校長先生のおはなし〜」の続編やこぼれ話をお伝えいたします。お子さんと一緒に読んでみたり、かつての自分を思い出したりしながらお付き合いください。

第19話:くつかくし

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まいにちみちこ編集室
https://my-michi.com/column/76954238/23161

その朝は1時間目のベルが鳴っても、4年2組の教室に担任のマツダ先生は来ませんでした。自分達だけで進める朝の会は、先生がいないことをいいことに、ふざけ放題で、司会者は「静かにしてください」を連発していました。

 

先生が来ない時には、学級リーダーのサキが自習の指示を出すのですが、なぜかサキもいませんでした。しばらくしてマツダ先生とサキがいっしょに教室に入ってきました。教室に入るなり先生は開口一番

「みんなサキの上履きをしらないかな。朝学校に来たら、サキの上履きがなくなっていたということなんだ。今まで探してたけれど、見つからないんだ。だれか、いたずらしてるんだったら、後でいいいからわたしに話してくれ」

と言いました。

 

サキは、いつもは気の強い学級リーダーでした。しかし、その朝はしょんぼりと困ったような顔をしていました。サキの足元を見ると、校名の入った大きすぎるスリッパをはいていました。

その日は、休み時間と放課後、みんなで校内を探しましたが、ついにサキの上履きは見つかりませんでした。口の悪いわたしたちは、陰で

「サキはいつも、みんなにきつく言うから、誰かにいたずらされたんだ」

などと勝手なことを言いました。

 

翌日、サキは真新しい上履きをはいていました。この日もみんなで探したのですが、やはり見つかりませんでした。マツダ先生は、同じように言いました。

「サキの上履きをかくしてしまった人がここにいるなら、正直に言ってくれ。誰でも子どもの頃は間違いをする。わたしもそうだった。だから、責めたりしないから。大事なことは、正直に話すことだよ」

 

さらにその翌日も、サキの上履きは出てきませんでした。先生は言いました。

「サキの上履きはもう出てこないかもしれない。この学級にいたずらをした子はいないと思う。いや、そう思いたい。でも、上履きが見えないのは事実なんだ。このことを一人一人が心の中で考えてくれ、とても大事なことだから」

 

しかし、あろうことかその日の体育の前に、今度はサキの体操着が見えなくなったのです。同じように、みんなで探そうとしました。そうしたら、学級で一番背丈の低いトモ子の服袋の中から出てきたのです。みんな驚きましたが、一番驚いたのはトモ子自身でした。トモ子は泣きながら、すぐにマツダ先生に言いました。

「わたしはかくしたりしていない。なぜか、わたしの服袋にサッちゃんの上着が入っていたの。わたしは何もしてません」

マツダ先生はすかさず言いました。

「わかる、わかる、トモ子は人のものをかくす子じゃない。トモ子はそんなことをする子じゃないから・・・」

学級のみんなも同じ思いでした。体だけでなく学級で一番、気持ちも小さいトモ子がサキの体操着をかくすなんてこと、できるはずがありません。

 

上履きに続いてサキの体操着がかくされたことで、黙っていられないのはサキのお母さんでした。サキのお母さんはすぐに学校に来て、マツダ先生に詰め寄りました。

「どうして娘のものだけが無くなったり、かくされたりするのですか?娘のものだけが狙われる、ってことがあるんですか」

「いえ、そんなことはありません。学級内で起こっていることなので、わたしの責任です。今後、このようなことがないように気を付けますから‥・」

「トモ子という子の服袋に入っていたということじゃないですか。上履きをかくしたのもその子じゃないのですか」

「いえ、トモ子は人のものをかくしたりするような子ではありません」

「それなら、その子の袋に娘の体操着が入ってたという事実は何なんですか。その子じゃなければ一体、誰なんですか。そんな悪いいたずらをする子を早く探してもらわないと、娘を安心して学校にやることはできません」

「いえ、学校は犯人探しをするところじゃないんですよ。子どもは心の面でも発達途上なんで、このような間違いをすることがあるんです。どうか、わたしに任せてくれませんか」

「いえ、何もしない先生は信用できません。明日、わたしも登校して学級の様子を見ることにします」

マツダ先生は一方的に押しまくられました。

 

翌日、サキのお母さんは学級全体を監視するかのように、一日中教室の後ろにいました。マツダ先生以上に、嫌な思いをしたのはトモ子でした。ただでも小さなトモ子はさらに体を小さくし、サキのお母さんの視界から逃げるようにして過ごしていました。

 

その週の土曜日でした。

午前授業が終わって、いったん帰宅した後にわたしは宿題のプリントを忘れたことに気がつき、学校に向かいました。校門をくぐった時、誰もいない昇降口からサキが一人で出てくるのが見えました。

(なんで今頃、学校にいるんだろう、やはり何か忘れ物をしたのかな)

と思いました。よく見ると手には赤い絵の具箱をもっています。

(ははぁ、サキは絵の具箱をわすれたんだな)

しかし、サキは絵の具箱を持ったまま校舎の裏の方に向かったのです。何となくおかしいなと思い、わたしはそっとサキの後を追いました。

サキは、校舎の裏にある焼却炉の前で周りをうかがうと、火がついていない焼却炉に自分の赤い絵の具箱を放り込んだのです。

その直後、どこからかマツダ先生が現れて、サキの肩をたたきました。サキのびっくりしたような様子は、遠くにいたわたしにもはっきりとわかりました。わたしは見つからないようにその場を立ち去り、教室にある宿題のプリントをもって、足早に家に戻ったのでした。

 

週明けの月曜日でした。

朝の会でマツダ先生が口を開きました。

「先週はみんなでいろいろと心配したけど、サキの上履きは間違って他の学年の子が履いていたんだ。土曜日に無事、サキの家に届けたからもう大丈夫だ。体操着も、誰かが間違ってトモ子の袋に入れちゃったんだな、きっと。本当に悪さをしようとすれば、どっかに捨てちゃうもんな。多分、誰かが間違ってトモ子の袋に入れたんだろうなぁ。そういう訳で、すべて解決だ。もう、物が無くなることはないからな。サキのお母さんも安心したようだ。よかった、よかった。やっぱ、この学級には悪いいたずらをする子なんで誰一人いないよ。みんないい子だからな、ハハハハハ・・・・・」

すべての件は落着したと話したのでした。

 

マツダ学級のクラスメートは、中学生になっても仲良しでした。

ある時、当時のことを懐かしく話していると、サキはポツリと言いました。

「・・・あの頃、お母さんが厳しくてね。勉強のことでも、ピアノのことでも、何かとうるさく言うものだから、ちょっとお母さんの関心をほかに向けてほしかったのよ・・・・トモ子に悪いことしちゃったぁ・・・・・」

 この記事を書いた「マイみちスト」
(こんのひとし)
大学を卒業後、一般企業に三年間勤務し、その後1年間大学専攻科で特別支援教育を学ぶ。昭和57年から盛岡市、宮古市、釜石市の小学校に勤務。平成23年 釜石市立小学校長として勤務時に東日本大震災被災。平成27年度小学校長で退職。平成28年度は大阪府の小学校で校長を務める。

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皆さまよりお寄せいただいた感想はこちら (2)
  1. アバター マッキー さん

    まさかのサキの自作自演でしたか?!お母さんが厳しくて息の詰まる毎日だったかもしれません。そこから逃げ出したかったという気持ちもわかります。でも私が一番悲しかったのは、体操着をトモ子の服袋に隠して罪をかぶせたということです。サキは、みんなもトモ子はそんなことが出来るはずがないとわかっていたからいいと思ったかもしれません。でも、そんなことをされたら、気が小さいトモ子がどんな気持ちになるか考えたでしょうか?
    あとになって、サキが軽く「あの時、トモ子に悪いことしちゃったぁ」と仲間に言いましたが、当時トモ子にだけはちゃんと謝ったでしょうか?
    サキは学級のリーダーだそうですが、本当のリーダーは、ちゃんと人の気持ちがわかる人のことを言います。
    何の罪もないトモ子の気持ちを傷つけてしまったという失敗を糧に、サキが一周りも二周りも人間として大きく成長してくれていることを願います。

  2. アバター いきいき さん

    この「くつかくし」を読む度に思い出される自分の小学校の時の出来事。確か小学3年か4年の時、2年間同じ担任だったN先生のクラスでのことを思い出します。山の学校に通っていた私たちのクラスはわずか22人。クラス替えもなしに幼稚園からずっと一緒に過ごしてきた仲間たち。図工の時間に絵の具の水を誰かが廊下にこぼしました。N先生は、最初は誰がこぼしたんや?こぼした子は拭いて来なさい。と軽く話していましたが、誰も名乗り出ません。だんだん先生の機嫌が悪くなり、誰がこぼしたのか犯人を捜す。と言いました。その時の怖い気持ち、嫌な気持ちは今でも忘れられません。
    あの時、先生が、よーしみんな雑巾を持ってみんなで拭き掃除しよう❣️と言ってたら、犯人にされた男の子か、ぼくと違う、ぼくじゃないと泣かずにすんだのにと、N先生の指導?の仕方を今でも疑問に思ってしまいます。「くつかくし」、読む度にマツダ先生の子供の心を傷付けずに、教え諭される姿勢に感動します。

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