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第18話:むしのしらせ

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教員として過ごした三十五年間を経てなお、子ども達や先生方、保護者の皆さんに伝えておきたいことが少なくありません。その思いで自費出版した「お天道様は見ています〜校長先生のおはなし〜」の続編やこぼれ話をお伝えいたします。お子さんと一緒に読んでみたり、かつての自分を思い出したりしながらお付き合いください。
まいにちみちこ編集室
https://my-michi.com/column/76954238/22229

これは、私が小学校の低学年のころ、もうだいぶ前に亡くなったおばあさんから聞いたお話です。

 

私もみなさんと同じように小学生の頃は、怖い話が大好きでした。私に怖い話を聞かせてくれるのは、いつもおばあさんでした。私はおばあさんの膝を枕にして、横になって聞いたものでした。怖い話がクライマックスになると、飛び起きておばあさんに抱きつきました。
その中に戦争があったころの話がありました。

私のお父さんにはお兄さんがいました。生きていれば、私のおじさんです。おじさんは、太平洋戦争で兵隊の一人として南の島に行き、そこで戦死したのです。

そのころ、おばあさんはお母さんでした。おじいさんはお父さんで、お国のためにと、夜も昼も製鉄所で働いていました。家には結婚した娘が、生まれて間もない赤ちゃんを連れて戻っていました。娘の旦那さんも兵隊として戦争に行ってしまったからです。

 

むし暑い初夏の夜でした。
布団の上に、重い物を感じて目が覚めました。暗がりの中で、何か黒いものが宙に浮かんでいます。よくよく目を凝らすと、それは小さな黒いお地蔵さんのようでした。じっとこちらを見ていました。強い霊感を感じたので、「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・・安らかにお眠りください・・・・」とお経を繰り返し唱えました。黒いお地蔵さんは、しばらく布団の上にたたずんでいましたが、やがてスーッとふすまを通り抜け、娘と赤ちゃんが寝ている部屋に移りました。

突然、怯えたような娘の声が上がりました。
「母ちゃん!なにか、黒いものが現れて、布団の上に浮いている。なんだろう、こわい、母ちゃん、こわい!」

娘に聞き返しました。
「その黒いものは、お地蔵さんのように見えないか」
「そう、小さなお地蔵さんのように見える、こわいよ!母ちゃん」

娘を落ち着かせるように、
「怖がらなくともいいから、手を合わせて南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と何度も唱えなさい」
そう言うと、繰り返し唱える娘の声がしばらく続きました。

それから後、だいぶたってから戦地にいた長男の死を知らせる戦死公報が家に届きました。
ああ、あの晩のお地蔵さんは、長男の死を知らせる「むしのしらせ」に違いない、というお話でした。

 

さらに、何十年もたってからのことです。
その時の娘、つまり私のおばさんは盛岡に住んでいました。私も盛岡の学校に勤めていた時期があり、おばさんの家に下宿していました。

ある時、ふとおばあさんの話を思い出し、おばさんに話しました。
すると、おばさんは顔色を変えて、
「本当かい、本当に、おばあさんがその話をしたのかい」
と私に何度も確認したあと、深くため息をついて、
「今、聞いて驚いた。あの晩のことはよく覚えている。でも、今さっきまでそれは夢だと思っていた。おまえにあの晩のことを話したというのなら、あの夜の出来事は夢ではなく、現実だったんだ・・・・・」
そういうと、おばさんは仏壇の前にすすみ、正座して静かに手を合わせたのでした。

それからです。
世の中には、不思議な出来事が起こることやご先祖様が今の自分達を守ってくれていること、そして霊は確かに存在する、ということを信じるようになったのは。

 この記事を書いた「マイみちスト」
(こんのひとし)
大学を卒業後、一般企業に三年間勤務し、その後1年間大学専攻科で特別支援教育を学ぶ。昭和57年から盛岡市、宮古市、釜石市の小学校に勤務。平成23年 釜石市立小学校長として勤務時に東日本大震災被災。平成27年度小学校長で退職。平成28年度は大阪府の小学校で校長を務める。

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皆さまよりお寄せいただいた感想はこちら (2)
  1. マッキー さん

    久しぶりのおばあさんの登場ですね。嬉しいです。
    戦地に赴いた長男さんが、自分を心配してくれている家族になんとかして自分の最期の時を知らせたかったんですね。
    そしてそれは、遠くにいる長男さんの体の痛みや心の痛みを感じ取れる家族だから、「むしのしらせ」として感じ取れたんだと思います。
    きっと送り手と受け手の想いがつながっているからこそ、こんな不思議なことが起こるんですね。

  2. いきいき さん

    夏に相応しい話題ですね。この季節、亡くなった多くの方が霊になって自分の大切な人のところに帰って来られるんですね。生きている者は、多くのご先祖さまに守られているんだと亡き母から聞かされていました。合掌。

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