日刊ウェブマガジン「まいにち・みちこ」│東北「道の駅」公式マガジン「おでかけ・みちこ」

まいにち・みちこ【東北 道の駅 日刊マガジン】

教員として過ごした三十五年間を経てなお、子ども達や先生方、保護者の皆さんに伝えておきたいことが少なくありません。その思いで自費出版した「お天道様は見ています〜校長先生のおはなし〜」の続編やこぼれ話をお伝えいたします。お子さんと一緒に読んでみたり、かつての自分を思い出したりしながらお付き合いください。

第16話:師魂(しこん)

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まいにちみちこ編集室
https://my-michi.com/column/76954238/21856

東日本大震災津波において、自らの命を顧みずに他の命を救った方々のことを忘れてはならないと思います。消防署員や消防団の人、警察官、民生委員などの方々、そして、幼児や児童、生徒のかけがえのない命を守るという使命を自らの命が尽きるまでまっとうした教職員。命の尊さを永遠に教え続けてくださる方々に思いを馳せ、私たちは自他ともどもの「命の灯」を大切に燈し続けなければならないと思います。

 

今日は、同じように、子どもの命を自らの命をかけて救った教員の話をお伝えします。東北の教員はぜひ知っておいてほしい事実です。その人とは、岩手県大槌町出身の小国テル子訓導(おぐに てるこ くんどう)です。訓導とは、今は使われない職名ですが、戦前の教育制度において、師範学校を卒業し、教員になるための学業を修め、教員免許状を所持した教員を指す職名でした。

 

太平洋戦争開戦から約半年後の昭和17年7月29日。小国訓導は下閉伊郡豊間根村の荒川国民学校の1・2年生45名を水泳学習のため、学校からほど近い河川に引率しました。水遊びにはやる児童の一人が、流れてきた木片を取ろうとして川に入り、溺れかけました。気がついた小国訓導は、その子の名前を叫びながら着衣のまま水中に身を投じました。小国訓導は、もがく子どもに行き着き、しっかりと抱きかかえました。溺れかけた子どもは無我夢中で小国訓導にしがみつきました。その瞬間深みにはまってしまいました。水中で着衣のまま、しかも子どもを抱きかかえた小国訓導は身体の自由を失い、自身も溺れかけました。やっとのことで岸にたどり着き、子どもを押し出すと直後、小国訓導は力尽き、再び深みに落ちて殉職したのです。子ども達の引率は、小国訓導一人であり、複数の引率者がいれば、と悔やまれた事故でした。

 

その時、小国訓導は妙齢21歳でした。教員を志望して岩手女子師範学校に入学し、晴れて念願の教職に就いたものの、憧れの教職生活は僅か4か月にも満たないものでした。

 

殉職後、小國訓導の純粋なる教育者精神が明らかになりました。

教職に就くにあたり、自らに課した9つの「修身訓」をノートに記しておりました。筆頭には「知識の外に修養」とあります。子どもの前に立つならば、教授の任にとどまることなく、自ら人格の陶冶に励み、心身ともに高まりを求めていきたいという誓いでしょう。また、受け持つ学級について、「実践躬行(きゅうこう)範を以って子どもを導いていきたい」と記し、その思いを具現化しようとする心構えも見られます。

さらに、友人、同級生らが語る小国訓導は、幼少の頃から常に自分より他人を思い、世に施しを成し、質素にして何事にも精励する高潔な精神の持ち主であったと話しています。

 

小国訓導の児童愛に満ちた行為を後世に伝える頌徳碑は、大槌小学校校庭を見下ろす小高い丘にありました。東日本大震災津波のあの日、その大槌小学校には、河川からあふれた津波と海からの津波が家屋などとともに押し寄せ、校庭で渦を巻きました。夜半には、流されてきたLPガスのボンベが爆発し、火の海になったということです。その惨事を小国訓導は、どういう思いで見ていたのでしょうか。現在、その大槌小学校は改修され、大槌町役場となっています。

 

間もなく訪れる7月29日は、小国テル子訓導75回目の命日です。毎年、命日の近くになると、現在の山田町立荒川小学校では、かつてここにいた小国先生の行為と命の大切さ、そして水の事故を防ぐための意味合いも含めて、校長先生から児童にお話をしています。また、教職員は顕彰碑を清め、分骨され公葬地にあるお墓に花を手向けて小国テル子先生の遺徳を偲んでいます。

 この記事を書いた「マイみちスト」
(こんのひとし)
大学を卒業後、一般企業に三年間勤務し、その後1年間大学専攻科で特別支援教育を学ぶ。昭和57年から盛岡市、宮古市、釜石市の小学校に勤務。平成23年 釜石市立小学校長として勤務時に東日本大震災被災。平成27年度小学校長で退職。平成28年度は大阪府の小学校で校長を務める。

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皆さまよりお寄せいただいた感想はこちら (2)
  1. マッキー さん

    自分の命をかけて溺れかけた子供を救った小国テル子先生の話をはじめて知りました。
    まだ先生になったばかりの21歳の若さだったとは!日頃から他人を思い、子供たちのお手本になるようにと日々精進されていた立派な先生だったのですね。
    しかし、45人もの児童の水泳学習なのに、たった一人の教師で引率していたとは驚きました!!
    若いテル子先生には念願の教師になって、これからやりたいこと、夢や希望もいっぱいあっただろうにと思うと無念でなりません。このイラストの笑顔に救われます。
    暑い夏本番です。水難事故でこれ以上尊い命が奪われません様にと願わずにはいられません。

  2. まんぼう さん

    宮城県白石市にも、小野さつき訓導の話があります。
    その碑の前を通るたびに命について考えます。

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