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第12話:ほんとうの勇気

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教員として過ごした三十五年間を経てなお、子ども達や先生方、保護者の皆さんに伝えておきたいことが少なくありません。その思いで自費出版した「お天道様は見ています〜校長先生のおはなし〜」の続編やこぼれ話をお伝えいたします。お子さんと一緒に読んでみたり、かつての自分を思い出したりしながらお付き合いください。
まいにちみちこ編集室
https://my-michi.com/column/76954238/15596

今日のお話は、校長先生が小学校6年生の時のお話です。

冬を迎えた11月の末、学級はざわついていました。原因は私でした。
以前、この学校に勤めていた先生方の計らいで、内陸の学校と県南の学校、そして海に近い私の学校の3校で年に一回、一泊二日で児童会交流をしていたのです。代表は5年生から2名、6年生からは4学級から1名ずつで合計6名でした。
児童会活動を学び合うことが目的ですが、雪が積もり始めた内陸の校庭で雪遊びをしたり、カマクラで過ごしたり、郷土料理を食べたり、次の日は雪が積もらない私たちの学校では体験できないスキー教室で半日楽しんだりするものでした。

その1名の学級代表をめぐって、フジコと私が立候補したのです。他の5名は既に決まっていたのですが、私たちはお互い一歩も引かず、フジコ側には女子全員が付き、私は男子から応援され、学級は真っ二つに割れていました。
児童会交流会ですから、代表は児童会役員か、学級委員が望ましいとされていました。フジコは児童会の書記でした。私はこの交流会のために2学期から学級委員になっていました。実は、前年の冬、おじさんに誘われて生まれて初めてスキーを経験し、その楽しさが忘れられずに5年生の時から代表を狙っていたのでした。

フジコか私か、決まらないまま12月に入りました。終業式の午後に出発ですから、もう時間がありません。担任のマツダ先生もほとほと困ってしまいました。
人数が上回る男子は多数決できめよう、と言いました。女子は「ズルイ」と言って反対です。既に決まっていた6年の学級代表は男2、女1でしたから、フジコになれば男2、女2でちょうどいい、と主張する女子の意見には男子が猛反対しました。困った先生は、
「二人に作文を書いてもらって、それを学年の先生方で審査して決めよう」
と、提案しました。しかし、勉強がよくできるフジコは作文も得意で、どう見ても私に勝ち目はなかったので、私が駄々をこねました。もう、学級は男女に分かれていがみ合いが続き、勉強どころではなくなっていました。

 

どうしても代表になりたい私は、おばあさんに相談し、何かいい方法を教えてもらおうと思いました。

 

「・・・・ぼくは、去年はじめてスキーをして、それが楽しかったから、来年は絶対代表になろうって一年間思い続けていたんだ。フジコは、せいぜい6年生になってからだろう、だからぼくの方がずっと長く、ずっと強く代表になりたいと思ってたんだ・・・」
おばあさんは、フンフンとうなずきながら聞いていました。私は、
「・・・・それに、だれもやりたくないって決まらなかった学級委員にも、ぼくは勇気をもって立候補した。みんなのためにね、・・・・だから、僕が代表になっていいはず。・・・ねえ、どうすればいい?・・・」

 

おばあさんは、少し考えてゆっくりと話し始めました。
「そうか、勇気をもって学級委員に立候補し、みんなのために務めているんだね・・・それは、えらいことだね。・・・でも、みんなのために児童会書記をしているフジコちゃんもそれは同じだね・・・それにそれは、ほんとうの勇気ではないね・・・」
「えっ、なんで?だれもやりたがらなくて、ぼくだっていやだったけれど、みんなのためにって思って・・・」
おばあさんは落ち着いて
「またスキーをして楽しみたいからじゃなかったのかい・・・・」
「・・・・・・・・・」
おばあさんに心の内をすっかり読まれてしまって何も言えなくなりました。

おばあさんは続けました。
「あのねえ、ほんとうの勇気というなら、それは辞退する勇気だね」
「ジタイって、何それ?」
「自分はがまんして、フジコちゃんに代表を譲るってことだよ」
「いやだぁ、そんなこと。それじゃ、なんで相談したのかわからないじゃないか、ゼッタイ、ゼッタイにいやだよ!」
「そうか、辞退する勇気をもって代表をフジコちゃんに譲ることが、フジコちゃんのためにもみんなのためにも、お前のためにもいいことだと思うよ・・・」

おばあさんの言うことはよく分かりませんでした。相談しなければよかったと思いました。でもその晩、布団の中で考えました。おばあさんには何度も助けられたし、これまで間違ったことを言うことはなかった。そんなおばあさんの〝辞退する勇気〟という言葉が気になって仕方がありませんでした。

翌日も朝から代表をめぐって騒がしい教室でした。教壇の横にある教師用の机で頭をガリガリ掻いて困っているマツダ先生のところに行きました。
「ぼくの方がフジコより代表にふさわしいから、絶対にあきらめないから」
そう言ったはずでした。しかし、なぜか
「ぼくは、勇気をもって代表をフジコに譲ります」
と、口が勝手にしゃべってしまったのです。えっ、なんでこんな言葉が出てしまうんだ?と自分でも不思議でした。
「本当か?本当にいいのか?・・・・」
先生は、何度も確認しました。ぼくは首を横に振って(今のは本心じゃない)と訂正しようとしたのですが、今度は勝手に首が縦に何度も動き、言葉は出なかったのです。先生は、
「ありがとう、ありがとう。よく言ってくれた。ほんとうの勇気だよ、ありがとう。今晩、家庭訪問してお父さんとお母さんお礼を言うから」
もう取り返しがつきませんでした。

家に帰ってからすべてを話し、先生がくることを伝えました。
しかし、夜8時を過ぎてきたのは先生ではなく、フジコのお母さんでした。
フジコのお母さんは、玄関先で夜遅くお邪魔したことを詫びてから、まず私に向かって
「本当にいいの?ありがとうね。フジコ以上に私がありがとうって気持ちを伝えたくてね」
と、話してから、膝をついて話を聞くお母さんに話し始めました。

「先生から連絡があって、お宅にお邪魔するっていうから、いやそれは私の方がお礼を言いに行かなくちゃならないと思って、突然お邪魔したんです。・・・うちはご存じのとおり、主人が3年前に病気で亡くなって、それから私が働き始めて、毎日帰りが遅くてね。フジコの下に妹と弟がいるので、フジコには申し訳ないけれど、まかせて世話をさせているんです。毎日のご飯の支度だけでなく、休みの日も掃除、洗濯を手伝わせている状態で、この3年間というもの、子どもをどこにも遊びに連れて行くことはできないでいました。今回、児童会交流会があり、雪国に行っていってみたいと、フジコが言うので、費用もかからないなら行ければいいね、ぐらいに思って私も放つておいたんですけど、めったにないチャンスと、意地になってたようなんですね。でも、その代表を譲ってくれたって聞いて、本当にありがたいんです。フジコが心の底から喜んでいて、よけいにありがたいと思っているんですよ・・・・本当にありがとうございます・・・・・」
何度もお礼を言うフジコのお母さんでした。ふと、おばあさんを探すと、家の奥でニコニコしながら私を見ています。
(ああ、おばあさんの言うとおりだった。ぼくにとっては少しのがまんだったけど、辞退する勇気はほんとうの勇気なんだ、これでいいんだ、これでいいんだ・・・)
と、思ったのでした。

3学期が始まってすぐにフジコによる児童会交流会の報告会が開かれました。そこで、フジコは開口一番
「わたしに代表を譲ってくれて心からありがとうと言いたいです、ありがとう」
と、私に向かって言ったのです。
誰かが思わず拍手をしたのでしょう、それがみんなの大きな拍手になりました。とても照れくさかったことを覚えています。おばあさんの〝辞退する勇気〟で学級の一人一人がぐんと大人になり、再び学級が一つになって卒業に向かって歩み出したのでした。

 この記事を書いた「マイみちスト」
(こんのひとし)
大学を卒業後、一般企業に三年間勤務し、その後1年間大学専攻科で特別支援教育を学ぶ。昭和57年から盛岡市、宮古市、釜石市の小学校に勤務。平成23年 釜石市立小学校長として勤務時に東日本大震災被災。平成27年度小学校長で退職。平成28年度は大阪府の小学校で校長を務める。

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皆さまよりお寄せいただいた感想はこちら (3)
  1. ルイ.ニャン さん

    素敵なおばあさまですね。さりげなく正しい方向に導いてくださって結果子供の心に感謝が残る。幸せでしたね。

  2. マッキー さん

    私もですが、人は自分がよければと自分中心に考えがちです。交流会の代表をめぐる今回の騒動の話を聞いた時、おばあさんにはどうするのが一番いいかがちゃんとわかっていたのね。だから孫にちゃんと辞退する勇気が本当の勇気だと教えてくれたんだね。自分の子がかわいいばかりの今の若い親ではなかなかそうはいかないと思います(^^;) 
    豊かな人生経験を元に自分を導いてくれるおばあさんを心から信頼し、「勇気をもってフジコに譲ります!」と言えた小さい頃の校長先生、偉いですね! そしてご褒美がちゃんと待ってましたね。家でも頑張り屋さんのフジコちゃんがスキーに行けて、フジコちゃんだけでなくお母さんも本当に嬉しくて校長先生に感謝してみえました!!もし、あのまま代表争いを続けていたら、校長先生もこんな清々しくて嬉しい気持ちにはきっとならなかったでしょうね。やっぱり幸せになる生き方を教えてくださる素敵なおばあさんですね。一目お会いしたかったな~。いろいろ教えてもらいたかったな~。ということで、校長先生、これからもおばあさんが登場されるお話を楽しみに待っていま~す。

  3. おいちゃん さん

    私の息子のことを思い出しました。息子は中学・高校の時によく母親や私と意見の食い違いから口論となり、お互いが譲りませんでした。その時にはどちらも正論だと思い、それぞれの考えを主張していましたが、子どもの視点から、親の視点からの内容で、お互い反対の立場からみれば絶対に納得できないことでした。その時、決まって登場するのが祖母でした。息子も祖母に相談すると、ある程度納得して、時間が経てばいくらか親の考えを理解しているようでした。(完全にとはいきませんでしたが…) 親にはかなり反抗するけれど、祖父母には優しくしていましたし、言われたことは聞こうとしていましたので、祖母は親にしてみれば心強い味方でした。(まあ、息子には内緒でしたが、相談される前に、祖母にはこうなっている経緯を伝えることがよくありましたが…) 自分の思いや考えを通すことも大事ですが、周りの考えも聞く、そしてその上で自分のことを振り返るということは、もっと大事なことだと思います。政治家・官僚の問題、アメフト部の問題など、世間を騒がせていることがたくさんありますが、本当の勇気をもって行動してほしいものだと思っています。大人は、子どもにきちんとした姿を見せることが必要ではないでしょうか。あと何年かしたら、孫にきちんと話をしてあげることができるじぃじになりたいものだと思っています。ありがとうございました。

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