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日本各地に残る数多くの城。 いま、全国の城をめぐる旅がブームをよんでいる。 有名な大名の居城はもちろん、知る人ぞ知る小さなお城や居館まで、城址に残る「壺な見どころ」を読み解いていこう。

第1回 今も完全にお堀が残る城【青森県弘前市・弘前城[1]】

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まいにちみちこ編集室
https://my-michi.com/column/63129854/21782

「富士」を仰ぐ、北奥の名城

 

日本各地には「富士」の名をいただく名山がそびえている。
それは「郷土富士」と呼ばれ、その地域に住む人たちの自慢、誇り、心のよりどころになっている。
各地に残るお城もまた、郷土富士と同じくらい、地元の人々に愛されていることは、言うまでもない。
城としては「日本一の桜の名所」と言われる弘前城。その西方にそびえる秀峰が岩木山だ。
「津軽富士」と呼ばれる美しい山容と、「御山」と尊称される信仰の山岳として、ずっと昔から、八甲田山とともに青森県民に愛されてきた。

かつて、姫路城や松江城・松本城と同じように、弘前城本丸にも五重の天守が建てられていた。岩木山を背景にそびえ建つ姿は、さぞかし雄大なものであったろう。
弘前城の天守は慶長16年(1611)に築かれたという。城郭建築史研究の第一人者・平井聖氏は「当時の築城技術に地域差はなかった」と評され、「おそらく同時代の松江城天守(国宝)と似た形であろう」と想定されている<『日本城郭大系2 青森・岩手・秋田』(1980年7月 新人物往来社)より>。

しかし、この五重天守は短命だった。完成から16年後の寛永4(1627)年9月5日、天守に雷が落ち炎上したのだ。
当時、弘前城は「高岡城」と呼ばれていたが、火災の翌年8月20日、ときの城主・津軽信枚は復興の象徴として、城と城下町の発展を祈念し「弘前城」と改称したというが、五重天守はその後、再建されることはなかった。

現在の天守は2代目。石垣解体修理を前に内堀が見学者に開放された(撮影 平成27年5月)

 

弘前城見学は一日がかり

 

弘前城の「天守閣」については、今度あらためて話そう。
今日の「壺なみどころ」は、城の周囲に三重に巡らされたお堀の話である。

この堀端の道をくまなく歩こうとすれば、少なくとも半日以上は必要だ。堀の総延長(距離数)を数えたことはないが、総面積約14万坪(約462,000㎡)という城の広さを考えると、それくらいはかかるだろう。

私の案内で、実際に城址を歩いてみた人は「それもそのはず」と誰もが納得してくれた。なぜなら、弘前城は保存状態がとても良く、堀は江戸時代の姿をほぼ完全にとどめているからだ。

もちろん、城下町までしっかり見て歩けば、それは1日がかりだ。

日本中を見渡しても、こういう城は、そうあるものではない。石垣・土塁・堀の遺構がほぼ完全に残り、天守(御三階櫓)、三重隅櫓3、二階門形式の城門5、番所1の建築遺構を有する弘前城は「日本で一番、保存状態の良い近世城郭」と言っても過言ではない。 

新緑に包まれる二ノ郭の中堀と、築城当時から残る辰巳櫓(たつみやぐら)
桜の開花を待つ二ノ郭南面の中堀。死角を無くし、射撃を有効にするための「折」が付けられる

 

この城は「平山城」

 

弘前城は一見、平たん地に堀を掘り、その土を盛り上げて城を築いた「平城(ひらじろ)」と言われることが多い。
だがそれは間違いであり、城の一部分を平地側から見ているに過ぎない。

地形をよくみれば、台地上に築かれた城を意味する「平山城(ひらやまじろ)」であることが分かる。
城は岩木川に臨む崖の上に築かれており、その台地は南から北に向けて緩やかな傾斜をみせている。
その比高差約20メートル、城下町をつくるときも周辺部の小丘陵を切り下げて平たん地を造り出しているようだ。

 

城を巡る三重の堀

 

城の周囲には「三重の堀」(内堀・中堀・外堀・蓮池濠・西濠など)が巡らされているが、すべてがつながり、水が循環しているわけではない。城下町に面する平たん地側と、天然の要害を形成する台地側とでは水源が違うことが分かっている。

三ノ郭南門は追手門(おうてもん)と呼ばれる城の正門。それゆえ堀の幅も広々としている

 

このような地勢が生み出した弘前城の堀は、実に見応えがある。

弘前城の堀は、直線的な内堀・中堀・外堀から成る平坦地側と、自然地形を生かした蓮池(はすいけ)・西濠(にしぼり)を中心とした台地側とでは、まるで印象が違う。

本丸西側の濠(ほり)は蓮池(はすいけ)と呼ばれる。ここに面して五重の天守が建っていた
本丸北側の堀は石垣を巡らした立派な構造。石垣も築城当初に築かれた

 

つまり城の南面、弘前市役所や弘前市立観光館に面する三ノ郭(さんのくるわ)追手門の堀は、いつも満々と水をたたえ、その幅も広く、整然とした印象を受ける。

青森県立弘前中央高校や弘前文化センターに面する三ノ郭東門のあたりもそうだし、「亀甲門」と呼ばれる四ノ郭北門付近でも同じ印象を受けることだろう。

本丸でも、城の正面に当たる所の石垣は高く、堀も幅が広く整然としている。徳川家が広めた「江戸時代の城造り」の、お手本のようなものだ。

その反面、青森県立弘前工業高校の敷地に接する城の西面を訪ねると、坂道はかなり急こう配だし、城の造りもだいぶ複雑になる。今に残る弘前城のおもしろさを見たいなら、本丸の背後に回り込むことをぜひ勧めたい。

蓮池の西側を巡る外堀の遺構。観光客で足をはこぶ人は、さすがに少ないが、見逃せない所だ

 

城の台地側を守る蓮池と西濠の間には、土塁と狭い曲輪(くるわ)があり、本丸の背後を守っていた。
西濠は、かつて岩木川の本流が流れていたところで、今は桜の名所となり、ボート遊びなども楽しめる。
延宝2(1674)年の河川改修により外堀に変化したのである。

二つの堀を隔てている狭い曲輪は堀中道(ほりなかみち)のようなものだが、今では道幅が広げられ、春には「桜のトンネル」として賑わうようになった。

城に詳しい人を案内すると、「まるで姫路城の勢隠曲輪(せがくしくるわ)を見ているようだ」と驚く。

満々と水をたたえた西濠(にしぼり)。かつて岩木川本流が流れていた
手前の水路が城の二階堰川、その向こうが西濠だ。中間の道が堀中道で、今は「桜のトンネル」

 

堀の水はどこからくるのか

 

西濠とはまた別に、二階堰川と呼ばれる清冽な水路が城の南から北へ流れ込み、四ノ郭の所で東に流れを変えて城址を横断、城下町を還流し土淵川に流れ込む。

自然河川を水源とする台地側の水濠に対し、平たん地側の堀は地下水脈を水源としているようだ。その発生源は城の南側に広がる丘陵地帯にあるとみる。

以前、城南の市街地で地下工事を行ったところ、誤ってその水脈に触れたらしく、急に外堀の水が濁りだす現象が起きたそうだ。

弘前城が載る台地は洪積台地だから、その話には納得がいく。

緩やかに城址を流れゆく二階堰川。その水路は変化に富んでいる

 

平たん地側の堀は直線的でとても美しいが、見どころはそれだけではない。追手門が建つ所を最高点に、最低面となる四ノ郭南東部までの比高差約20メートルを階段的に整地し、地形の傾斜に対応して5段階から成る段差が設けられている。

次の写真を見るとわかるように、上段の堀の水を下段の堀に落とすために通水用の樋を地中に埋め、順次堀の水を下げて行くのだ。つまり平たん地側の堀は段差により5ブロックに分けられていて、塵芥などが下段の堀に流れ込まないように配慮されている。これは長大な外堀を守るための、個別防御方法なのである。

追手門前から東に続く一番上の外堀。直角に曲がる所に段差がある
三ノ郭東面の外堀と段差。上段から勢いよく、堀の水が下段に落ちていく

 

このように、弘前城の堀には、平たん地側と台地側、二つの顔がある。城を守る堀がほぼ完存し、今でも当時の水利と水環境が分かる弘前城の価値はとても高い。

さて、今日のお話は、みなさんの壺にはまっただろうか。

ご意見をお待ちしています。

 

国立公文書館デジタルアーカイブでは、弘前城を描いた「津軽弘前城之絵図」(諸国城郭絵図/正保城絵図)を高精細画像で閲覧することができます。

ぜひアクセスして、三重の堀の様子や城下の水環境を見てください。

URL: https://www.digital.archives.go.jp/das/image-l/M1000000000000000287

 この記事を書いた「マイみちスト」
岩手県盛岡市在住の城郭史調査員(日本城郭史学会盛岡支部長)。小学生からの歴史好き、城の調査は中学生のときから続けている。地元の印刷会社を定年退職後、フリーランスの編集者・ライターとして働くかたわら、城歩きガイドと講演、歴史資料の調査や城郭関連の取材・執筆に取り組んでいる。「趣味はなんですか」と聞かれると、戦国武将・新選組などと答えているが、健康のためにも「なにかやらなければ」と真剣に考えている。

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Comment (1)
  1. アバター アードベック さん

    大変魅力的な企画が始まりましたね。この詳しさはマニアックともいえる領域です。これから先、「まいにち・みちこ」で展開される東北の城めぐり、楽しみです。

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