日刊ウェブマガジン「まいにち・みちこ」│東北「道の駅」公式マガジンmichi-co

まいにち・みちこ

(すがわらまり)
盛岡市在住。聴くこと、撮ること、書くことを通して、「伝わる」ためのお手伝いを仕事にしています。

人を愛し、人に愛される。秋の岩手山神社へ。

人生は当たり前の毎日が重なる一冊の本。読んだあなたのその本に挟んでいく栞になるように、日々が少し彩るようにと思いながら書いていきます。満月と新月の頃に更新。

「とりいっこ、くぐったときさ、さぱっとしたったが?」と篠村さんが鳥居を指しながら私に尋ねた。

「うん、少しキリッとした気がします。」

「だろ。あそこの前に立つどなぁ、不思議と気持ちがさぱっとするんだ。」

淡い、濃い緑の間から穏やかな光が差し込んでいた。

鳥居をくぐると、すぐ左手には龍神様が祀られている。

心の中で挨拶を済ませ、手を合わせる。

目をゆっくりと閉じると、龍神様の背に流れている川の力強い水音が、少しボリュームを増す。真上からは木々の葉がこすれ合う緑音。

頭のすぐ上を風が撫でていく。「よしよし、よくきた」。と頭を撫でてもらっているような暖かい気持ちになる。

あれもしたい、こうなってほしい、そんな浅い願いを捨てて、ただ呼吸を深く深く、整える。

お天気はまずまずの土曜日、午前11時半。わたしは岩手山神社にいた。

赤、黄色、橙、と目の奥が喜ぶような景色をビュンビュン通り過ぎて、盛岡から一路、北へ。

小岩井農場や、確実に美味しい気配のするお蕎麦屋さんを横目に見ながら、アクセルを気持ち良く踏み込む。

前日の夕食が遅かったこともあり、朝から食べ物も飲み物も口にしていなかった。

窓を少しだけ開ける。

空っぽの胃袋が、秋の空気でいっぱいになる。

岩手山神社へ行こう、と思ったのは前日の金曜日。

わたしは、お洋服屋さんを営む友達とおしゃべりをしていた。彼女がお店を始めた頃のこと。

「あのとき、お店をやるって決めてね、お参りは岩手山神社に行ったの。それで、龍神様に手を合わせているときにね、強い強い風が急に後ろから吹いたんだ。すごくお天気のいい日だったから不思議だった。でもね、本当に、お店も『追い風』だったんだよ、それから」。

そんな風に笑顔で教えてくれた彼女のお店からは、いつ遊びに行ってもお客様との弾んだ声が聴こえる。服を、その作り手を、慈しむ彼女。女性らしい華奢な雰囲気の中に、まっすぐにキラキラ光る芯を時々感じる。

そんな彼女の声で「岩手山神社」という言葉を聴いたからか。

はたまた、そのすぐ後に別の友人から「子どもが土曜日、大切な試合なんだ」。と聴き、代わりに願掛けにいこうかな、などとぼんやり思ったからか。

土曜日の朝、カーテンを開け薄い水色の空を見上げて「うん、岩手山神社へ行ってみよう!」という気持ちになったのだ。

石畳の方へ歩みを進めると、境内のお手入れをしている男性が二人。お話を伺うと、一人は岩手山神社の総代長を務める方だった。お名前は篠村さん。この日は通り過ぎたばかりの台風で落ちた葉っぱの掃除に来ていたそうだ。

この建物はなんですか?と篠村さんの後ろにあるテラスのような場所について尋ねると、昔は宿場として使われていた場所なんだ、と教えてくれた。当時、岩手山でご来光をみるにはここを夜の12時に出発していた。それまでの時間をここで過ごしたのだそうだ。

お話を伺いながら、ここが登山へ向かう人で賑わっていた頃に思いを馳せてみる。

道中の無事を祈願し、この場所で出発の時間まで一期一会を楽しんだのだろうか。

夜12時、真っ暗な登山道へ向かうまでの束の間のひととき。

どんな人が、どんな会話をしたのだろう。

そのとき、この場所はどんな空気だったのだろう。

平成16年には石畳などを直す大きな工事をした。岩手山神社で水が汲めるようになったのはそれからだそうだ。地下からの湧き水ではなく、岩手山からの水。

わたしもそっと水の汲み口に触れてみる。冷たくて、手をかざし続けていられないほど。

手桶いっぱいに水をいれ、一口。

水について詳しいわけでもなんでもないが、冷たい、柔らかい、でも芯がしっかりある。おいしい。本当においしいの一言。

何も飲まず食わずで来た自分にも少し感謝した。空っぽの胃袋に清らかな水。最高だ。

境内に敷かれた石畳を見ながら「よーくみるとわかるか?」そう言う篠村さん。じーっと見たけれど何もわからない、すこし小洒落た石畳だ。

「これなぁ、側溝の蓋なんだ。」そう言って、いたずらっこみたいに笑った。

言われてみると確かに、よく見かけるあの側溝の形だ!

こんなに愛を感じる石畳、他にあるだろうか。

(もしこの記事を読んで、参拝に行く方がいたら是非じーっとみてほしい。)

篠村さんに「ところで、今日は水っこ汲みにきたのか?」と聞かれたので、友人の「追い風」の話をした。

すると、「うーん、やっぱり、そういうことなんだろな」。と少し神妙な面持ちに。

そして、「昔はよくみる形の御賽銭箱だったんだ、箱型の。でもな、少し前に、「ここでお参りをしてご利益があった。だからお礼に」、ってかなり大きい金額のお賽銭があったことがあって。

それから、お賽銭箱を少し厳重に管理することにしたんだよ」。

今は月の形の、可愛らしいものになっている。

「お写真を撮りにいらしたんですか?」

篠村さんを見送った後もなお、カメラをぶら下げたままのわたしにそう声をかけてくださったのは、自転車乗りの菊地さん。ご本人によれば、普段は「頭を使う、人の健康を預かるミスが許されない仕事」、をしているそうだ。

週末、雨が降らない限りは県内のあちこちを自転車でめぐる。少し昔はバックパッカーとして旅をしていたご経験も。

「カニ族って知ってるかな?カニみたいに大きな荷物を背負って、あちこちへ行ったんだよ。」

そう言ってくしゃっと笑う。

日常の慌ただしさから少しだけ離れ、水の音、川の音、木々のさわめき、小石を踏みしめる音。

そういう音に囲まれることでリセットされる。ああ、また明日から頑張れる。

ふわっと気ままに生きているわたしでもそう感じるのだから、菊地さんのようなお仕事ならばなおさらだろう。

菊地さんは続けて、こう話してくれた。

「湧き水も神社も、自転車でかなりの場所に行ったけれど、岩手山神社が一番好き。

疲れていても時間がなくても、ここには寄りたいな、寄らなくちゃな、って思う」。

ここには多くのものがある。

竜の神様もいる。岩手山もすぐそばにある。ここを日々守り、整える人がいる。篠村さんの神社を見つめる横顔には、家族を、我が家を見るような親密な暖かさがあった。

年間8000人以上が参拝するという、岩手山神社。

愛、という言葉は、私の手には余りすぎるので滅多に使わない。

だけど、あえてその言葉を使いたくなった。

ここは人の手によって守られ、多くの人に愛されている場所。

そしてこの場所も、景色で、風で、空気で水で、私たちを愛してくれる。

相思相愛、両思い。

神社と人が、というとなんだかおかしい気もするが、そんな言葉がしっくりときた。

「岩手山神社が一番好きだ」と話してくれた菊地さんの肩には、お話しの途中、テントウムシが何度も何度も、遊びに来ていた。

上へ上へと登っていく姿から、漢字では「天道虫」。

海外でも幸運を運ぶ虫と言われる。

幸運、なんという、ふわっとした響きだろう。

テントウムシがきてから、幸運というものが私たちに降り注ぐまでどのくらいの時間がかかるのか、それはわからないが。

岩手山神社の力水で喉を潤し、鳥居への道をゆっくりと歩く菊地さんの後ろ姿。

やわらかな木々から漏れる光と、淡い緑色の中に包まれるように進むその姿は、ふわっとした「幸運」をまとっているようにも見えた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。菅原茉莉です。

ここからは当日の書ききれなかったエピソードや、写真を載せていきたいと思います。

編集後記、的なものです。お時間のある方はどうぞお付き合いくださいね。

 

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