東北をフカボリ!「道の駅」日刊ウェブマガジン「まいにち・みちこ」

まいにち・みちこ

(すがわらまり)
盛岡市在住。聴くこと、撮ること、書くことを通して、「伝わる」ためのお手伝いを仕事にしています。

変態は、最高のほめ言葉~人生を変えるペン

人生は当たり前の毎日が重なる一冊の本。読んだあなたのその本に挟んでいく栞になるように、日々が少し彩るようにと思いながら書いていきます。満月と新月の頃に更新。

雨上がり、空気のきれいなお昼過ぎ。岩手城址公園を散歩して、櫻山神社でおみくじを引いたら大吉だった。

そのまま盛岡駅方面へ。
足取りをすこし緩め、上を見上げれば、青い青い空。

大吉のおみくじをポケットに入れ、ついでに手もポケットに入れて、歩みを進める。

悩み、というほど大げさではない。だけど、なかなか治らない利き手のささくれみたいに、時々気になる晴れないモヤモヤがあったり。
自分の前に選択肢のドアが2つ3つ開いているような状況で、前にも後ろにも動けず立ちんぼする日々が続いていたり。

そういう気持ちのとき、わたしはこの店に足を運ぶ。いや、思い返せば意識せずとも自然に足が向かっているんだ。


櫻山神社から岩手城址公園入り口前へ。そして菜園方面に向かう。
よそみをたくさんしながら、ゆっくりと歩いていくと、道の左手に赤い『p』の看板。
看板を目にした自分の口元が、自然とほころぶのがわかる。

お店の正面。
外国映画にさりげなく映っていそうな、かわいかっこいい青いポスト。
そのポストの左には、上品なのにビュンビュン走りそうなスマートな自転車が停めてある。

ガラス越しに店主と目があう。0.3秒くらいで返ってくる「にっこり」。
このにっこりのパワーは本当にすごいんだ。

「来てくれてありがとう、げんきにしてた?」

1秒にも満たないような「にっこり」。の間に、店主からのそんな歓迎の意がほわっと伝わってくる。
今日、きてよかったな。まだお店に入ってもいないのに、もうそんな気分だ。
「pen.」と書かれたドアを押す。

お店の中は、清潔で、静かで、やさしい香りがする。この香りが大好きだ。
「いつもいい匂いがするんだよね」。
お店に入ってすぐに、わたしがそう呟きながら、きょろきょろくんくんしていると、
「なにも香りはつかってないよ。あ、たぶんおれのフェロモンだな」。と笑う店主。
くやしいほどに爽やか。そしてこんないい香りのフェロモン?が出せるなんて羨ましすぎる。
店主のお名前は菊池さん。女性にしては背の高いわたしが並んでも見上げるくらい、実は背が高い。実は、と書いたのは高身長な人から受ける威圧感というのがまるでないから。自然体で洗練された雰囲気はどこか都会的で、テレビでインタビューされていた菊池さんを視て「シティーボーイがいる!と思って見にきた」と言って、わざわざ来店されるお客さまもいるほどだ。
嫌みのない、しかし、確実におしゃれなお洋服を身にまとい、ふわっと微笑む隙のなさ。

ここpen.は、文字通りペンを扱う店。万年筆やペンはもちろん、菊池さんのピンときたもの、例えば、「月齢と月日だけがシンプルにカラフルにわかるカレンダー」とか、「イライラしたら文字通り水に流せる付箋」とか。「これは?」と、たずねると「へぇぇ」とつぶやいてしまうような、それぞれの物語を持つ商品が、決して広くはない店内にちょうどいい分量で並んでいる。
まるでちいさな男の子のお気に入りをつめこんだ、宝物箱みたいだ。

わたしは昨年、ここで4本のペンを買った。
断っておくと、決して余るほどのお金を持っているわけではない。それに、特別文具が好きなわけではない(菊池さん、ごめん)。
でも、ショーケースの中に並ぶキラキラしたペンを見ているうちに、そして、一本一本のストーリーを聴くうちに、どうしても「未来の自分にこのペンを持っていてほしい」と思ったのだ。
今の自分には正直、不釣合いにも思えるし、オーバースペックかもしれない。
でも必ず、このペンに似合うわたしになるから。
そんな願掛けに近い気持ちで、3本をわたしのペンケースに招き入れた。
1本は大切な親友の誕生日に、その子へ贈った。

わたしの手元にある3本の中で、「それ、どこの?いいペンだね」。と一番声をかけられるのが、朱色の100%岩手県浄法寺産漆塗ボールペン「japen®」(ジャペン)だ。

1年以上前、菊池さんがjapen®に着手しはじめたころ。お店でおしゃべりしていたら、ふいに「こんなものを作ろうと思って」。と言って化粧箱のデザイン案をニコニコしながら見せてくれた。
「箱を開けた人が、どんな気持ちでjapen®を手にするか」を、なにより大切にして、最高にワクワクした顔で、化粧箱から細部にいたるまで試行錯誤していた。
「自分がほしくなるようなもの、本当にいいと思うものを作りたい」。という、シンプルな気持ちを原動力にして飄々と制作を進めていく。やりたいことに飛び込めずにモヤモヤしたまま会社員をしていた当時のわたしには、本当に目がくらむような眩しさだった。

japen®には、好きな文字やマークを、蒔絵師さんの手によって入れてもらえるオプションがある。
わたしも、何を入れようかなとだいぶ長い期間考えていた。あれこれ悩んだ末に決めたのは、手書きの星を一つ。
空の中心にある星という意味で「心星」(しんぼし)と呼ばれることもある北極星。
昔の人が道に迷ったとき、現在地がわからなくなったとき、それを目印に歩みを進めたように、わたしもブレない心星を手にしたい。
次の誕生日に「それを手にした」、と思えていたら、蒔絵の星をもう一つ書き足そうと思っている。

店内でとりとめない話をしながら、ふと「ペンで人生変わるかな」。わたしはそうつぶやいた。
菊池さんは、うーん、と小さく唸ったあと、少し笑って「ペンは毎日使うからね」。とだけ、続けた。

わたしはカウンターの前にしゃがみ、一本一本個性があるショーケースのペンをみつめた。そして菊池さんに話すのか、自分自身になのか、行き先がわからないまま声にした。
「変わった、って思うんだよね。自分にはまだ早いかな、とか、お金貯まったらにしようかな、とか。欲しいけど…でも…、って先送りすることがペンに限らず今まで多かったの。だけど、『このペンに似合う人になる』って決めて買ったjapen®は、落ち込んでも、手元の星を見るたびに
ちょっと背筋が伸びて。その、しょぼん…シャンッ、しょぼん…シャンッの繰り返しで。気づいたらペンを買った時と今の自分の環境が全然違って。だから、ペンで人生変わることもある、とわたしは思うよ」。

pen.は2017年9月、開店から4年目を迎えた。「3年、続くと思わなかったな」。と笑って話す菊池さんのお店には、日々ゆったりと、たくさんのお客様が訪れる。
お話している様子をみていると、地位ある人も、こどもも、通りすがりの人も、常連さんも、みんな同じように歓迎され、会話を楽しみ、嬉しそうに店を出ていく。
「あたりまえ、と思うことをしてるだけ」、と菊池さんは言うけれど。
ほどよい距離の接客で、よろず屋みたいにいろんな相談にのりながら、お釣りはいつもピカピカの新札を用意してるのってどこでも「あたりまえ」なのかなあ。少なくともわたしは、そんなに「あたりまえ」ではないんじゃないかと思う。

お店のカウンターにある試し書き用紙。
お客さんのだれかが書いたであろう、こんな一文があった。

「変態は ほめ言葉」。

わたしも、pen.について書こうと決めたとき「変態」というこの言葉、外せないな。と思った。
(これを書いた方とは気が合いそう)。

pen.は友人を連れていくと「ずっと入ってみたかったけど、入る勇気がでなかった」。と言われることがある。がっちり接客されることが苦手、とか、買い物は一人でゆっくりしたいの、とかいろいろ理由はあるのだろうけれど、要は、あのドアを開ける人は一種のハードルを越えた人な
のだ。
そんなpen.で出会う他のお客さんは結構な確率で「いろんな分野でちょっと変態的」という人が多い。
そしてありがたいことに人見知りなわたしですら、全く共通点がなくても数分で意気投合し、その後もずっと仲良くできている人もいたりする。

わたしにとっての「人生を変えるペン」も置いているし、毎日を豊かに彩ってくれる友人との出会いも、ときどきある場所。
そして誤解を恐れずに言うならば、変態的に上質な店内で、変態的に心地よい接客の中、たくさんのちょっぴり変態な人と出会える店。

 

それがpen.だ。

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