まいにち・みちこ【東北 道の駅 日刊マガジン】

BOOKNERDにあるのは、nerd達のメタモルフォーゼだ。

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人生は当たり前の毎日が重なる一冊の本。読んだあなたのその本に挟んでいく栞になるように、日々が少し彩るようにと思いながら書いていきます。満月と新月の頃に更新。
まいにちみちこ編集室
https://my-michi.com/column/56479328/19214

「いい本しか置かない本屋さんが紺屋町にあるらしいよ」

あちらこちらで昨年から耳にしていて、ずっと気になっていたお店。

今回は、そんな噂のBOOKNERDへ。

 

 

店主の早坂さん曰く、「夕方になると珈琲豆の焙煎のかおりでいっぱいになる」という紺屋町。

BOOKNERDと書かれた、ガラス戸を開ける。

カラカラと軽い音を立て、一歩。

まだ左足は外にあるのに、なんだか懐かしくなるような香りがして、心臓のあたりをグッともっていかれる。

初めて真っ白な店内に入る、その小さな緊張がするっと解ける。

左側には絵の展示、奥に古書。真ん中のテーブルには雑貨。新刊、早坂さん自らニューヨークへ買い付けに行ったものなど、右側はずらりと本が並ぶ。

 

一番奥に座った早坂さんから、「いらっしゃいませ」と声がかかる。

静かに中へ進むと、次に気になったのは音。

お店の中に満ちるこの音がどこからでているのかと、きょろきょろすると一番奥に大きな機材を発見。

昔もレコードの音楽を好んで聴いていた、という早坂さん。

最近になってお店のBGMをレコードにかえたのだそう。

「レコードの音は、カメラでいうならフィルムカメラのような感じですね。不便だけれど響く何かがある気がして」

そう言いながら、レコードの針を外側から1センチほどのところにそっと置く。

小さな薄水色のライトに照らされ、盤が回り出す。

じじっ 

黒い水玉みたいな音に続いて、女性の声がやわらかに鳴る。

心地いいなあ。胸がぎゅーってなるなあ。

フィルムカメラには、湿度や光がきちんと写る。それと似ているのなら、レコードの音が届けるものもそういうものなのかな、とおもいながら、ぐるぐると回り続ける盤面をじーっとみる。

不思議だ。不思議で、すごくいい気分だ。

お客様が入ってきた。

わたしは店の一番奥で英字の写真集に手を伸ばし、パラパラとめくる。

 

なんとなく、どんな本を選ぶのだろうと横目でみていたのだが、違和感を感じる、なんだろう。

普通の本屋さんとは何かが決定的に違う景色。

しばらく見ていてようやくわかった。

ああ、BOOKNERDのお客様は、背筋をすっと伸ばして本棚に向き合うのだ。

誰か、大切な人がそこにいるかのように、まっすぐに。

そして、一冊を手に取り、表紙をじっくりと眺める、裏表紙も同じように。

そして、そっとページをめくり始める。

もう、なにかの儀式にすら見えるほど、丁寧に。

わたしが伺ったのは紺屋町で行われているスタンプラリーの真っ最中。

booknerdにも消しゴムハンコのかわいいスタンプが入り口に置いてあった。

「スタンプを押させてください」

お客様は40代?50代くらいの、買い物袋を提げた女性だった。私が立っていた本棚の目の前にある本を、「失礼します」とこちらに声をかけ、手に取る。

正直、スタンプがメインでいらっしゃったのだろうな、と思った。それにしては随分高い場所にある本を選んだなあ、と。

早坂さんが前のお客様と話し終えるのをみて「この展示、いかれたんですか?」さきほど本を手に取っていた女性の声がお店に響く。

本棚を向いたまま、二人の会話に耳を傾ける。

お話を聞いていると、ご自身も文芸が大好きで、息子さんも英文学を学んでいるのだそうだ。

さっきまで普通の買い物帰りの女性にみえた方が、トークショーに登壇したゲストスピーカーのように、饒舌に、軽やかに、咲くような笑顔で早坂さんと話す。

「ああ、わかってくれる人にやっと会えた」

そういう嬉しさが、こちらにまで声から伝わってくる。

まったく別人だ。大変身。

お母さんの顔でも、職場の顔でもなく、「仲間」にしか見せない顔。

言葉があとからあとから続く。

次に来店したのは妊婦のお客様。

東京に住んでいて、今は出産準備のために里帰りしているのだそうだ。

「取材中なのだ」という話を早坂さんがお客様にすると、くるっとわたしの方を振り返り、「こんなところが、盛岡にあるって思わないわよね、東京の神保町みたい」と話す。そして、「ここからここまで。こんな広くないスペースに、これだけの質の本が詰まっているってすごくない?」と、入り口側から奥まで、大きく手を広げた。

「今月ね、赤ちゃんが生まれるんだけど、名前のヒントになる本を早坂さんに探してもらおうと思って来たの」お母さんとお腹の中の赤ちゃんを前に、顔がほころぶ早坂さん。

そのあとも、カウンターに来る人来る人が、皆とっておきの話をする。

昔海外に住んでいたころの話。

マニアックな映画の話。

音楽の話。

そして本の話。

早坂さんは、都度、その人とおなじ色の引き出しを開けて、宝物を見せ合う。

そこには私がいままで知らなかった単語が当たり前に飛び交い、日本語なはずなのだけれど、その温度がわからなくて少しさみしい。

お客さんが帰ったあと、ちょっとだけ尋ねてみる。

楽しそうに話していたあの世界は、どんな世界なんですか?

早坂さんは、わたしでもわかりやすくイメージできるような言葉を選んで、その世界の入り口の美しさを教えてくれた。

本を読むとき、人は一人だ。

一人で温めていたそれを、だれかとわかりたい。

でも家族だから、恋人だから、友達だからって丸ごと分かり合えるわけではなくて。

早坂さんとお話をしているお客さんは「ああ、ここにいた」「やっとみつけられた」、そんな顔で話す方ばかり「本の虫」という意味のBOOKNERDには、その名の通り、いろいろなnerd達が集うのだ。

入り口と奥で香りが変わる店内は、進むほどに甘さを帯びていき、花の奥へ奥へと進んでいく小さな虫になったような気持ちになる。

そう、わたしはまだまだ小さなnerdだ。何にも詳しくない。知らないことばかり。

でも、ここには新しい扉へ手を引いてくれる早坂さんがいて、魅力的な先輩nerdもたくさんいる。

ここで、人と出会い、音と出会い、アートと出会って。その深い甘さを味わって。

わたしもいつかnerdからメタモルフォーゼ(変身)しちゃうんだからな、と企んでいるところだ。

この原稿が公開されるころ、早坂さんは海の向こう、サンフランシスコにいる。

買い付けしてくる本も、もちろん楽しみなのだけれど、

それよりも、まだ見ぬサンフランシスコという場所の空気や気配が知りたくて、今から帰国が待ち遠しい。

牡牛座の新月の下。よい旅の時間になりますように。

 この記事を書いた「マイみちスト」
(すがわらまり)
盛岡市在住。聴くこと、撮ること、書くことを通して、「伝わる」ためのお手伝いを仕事にしています。

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