東北をフカボリ!「道の駅」日刊ウェブマガジン「まいにち・みちこ」

まいにち・みちこ【東北 道の駅 日刊マガジン】

(すがわらまり)
盛岡市在住。聴くこと、撮ること、書くことを通して、「伝わる」ためのお手伝いを仕事にしています。

「価値観の外側は、ヒトに磨いてもらうもの」〜八藝舘 及川淳哉さん〜

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
人生は当たり前の毎日が重なる一冊の本。読んだあなたのその本に挟んでいく栞になるように、日々が少し彩るようにと思いながら書いていきます。満月と新月の頃に更新。
まいにちみちこ編集室
https://my-michi.com/column/56479328/15359

今日は南大通を曲がり、盛岡八幡宮へ向かう通りをまっすぐに。遠くに赤い鳥居がみえ、両脇には古くからの気配を残した、店々が並ぶ。昔はここが盛岡のメイン通りだったという話を思い出し、一人で「うんうん、わかる」と頷きながら歩く。

どこか品があり、商いの賑わいを感じ、タイムスリップしたような気持ちにさせてくれる通り。ここのちょうど中程にあるのが、「八藝舘(はちげいかん)」だ。

 

八藝舘はシェアオフィスとギャラリースペースを備えた場所で、今年オープンしたばかり。先日、初めて、ギャラリースペースで開催されたイベント「NANDARA市」も大盛況だったようだ。そんな賑わいの拠点として産声をあげたばかりの八藝舘。今回はオーナーである及川淳哉さんとお話させていただいた。

保険代理店を営みながら、八幡界隈のまちづくりに携わっている及川さんの気持ちの根っこにはどんなものがあるのか、わたしも興味津々だ。

郵便局の向かい側に及川さんのオフィスがあると聞いていたが、なかなか見つからない。しばらく周辺を歩き、また郵便局前に戻る。「ん?もしかして、ここ?」それが及川さんのオフィスを見たとき頭に一番に浮かんだ。わたしが知っている保険代理店よりずっとカジュアルでかっこよく、さらに入り口に駐めてあるMINIも景色に加わり。お洋服屋さんかカフェにしか見えなかった。

ガラスを押し、中へ。

アメリカの気配があちこちにして、おもわずぐるりと全体をみて「わあー」と声が漏れる。中央のソファを案内され、腰掛ける。及川さんは「寒かったでしょう、コーヒーをいれますね」といってご近所「ポラン」の豆を使った軽い飲み口のコーヒーを、大きめのマグにたっぷりと注ぐ。

事務所を見渡したとき、欧米の男性が赤ちゃんを抱っこして笑っている写真があり気になっていた。写真がたくさんあるわけではない壁の、一番良く見える場所に飾られた、その一枚。「この方は?」と及川さんに尋ねると、アメリカでこの男性と過ごした時間について教えてくれた。

大学生だった及川さんは、カウボーイに憧れてアメリカへ短期留学した。ホームステイ先だったのは大学の英語講師の自宅。観光ばかりの毎日は期待していたものとは違っていた。

及川さん ここじゃないんだ、ここじゃカウボーイには会えないとおもって。講師にそう伝えたら、住み込みの農場手伝いを紹介してくれました。農場の横にトレーラーハウスがあって。そこでカウボーイのアメリカ人と一緒になったんです。

菅原 それがマイクだったんですね。

及川さん そう、マイクとの出会いは自分にとって本当に、大きくて。マイクと会っていなかったら、今の自分はないんだよね。初めて会えた滞在のあとも『お金稼いで、また来るから!』ってマイクに話して、アメリカの古着を買い込んで岩手に戻ったの。俺が着ていた古着を欲しがる友達がいっぱいいたから、売って。そのお金でまたアメリカに行って。2年くらいかな、日本といったりきたりしていました。この赤いチェックのシャツも、そのときに買った古着ですよ。

菅原 及川さん、物持ちがとってもいい……!2年して就職したのは日本ですか?アメリカ?

及川さん 日本です。そこで20代のときに保険業界に入ったんです。

菅原 たくさんのお客様がいらっしゃるとおもうんですが、保険をご紹介するときに気をつけていることはありますか。

及川さん お客さんが求めているものを売る、というのはアメリカで買った洋服を売るときも、保険を売るときも同じだとおもっています。ニードがあるものを売る。シンプルな話なんですよね。金融はイキモノだから、常に知識はアップデートして、最新の情報をお客さんにお伝えしていく。目先の契約にとらわれて、お客様に保険を売ることが目的になってしまっている営業マンを見かけますが、お客さんを狩猟するようなきもちではだめ。農耕型でゆっくり大切にお客さんを育てていくようなイメージでいますね。チョイスとプッシュは違うから。

菅原 「チョイスとプッシュは違う」……なるほど……。

及川さん うん、『自分がチョイスするのは自由、だけどそれをプッシュするのは違うよ』、っていうのもマイクから教わったことですね。そういう意味でも、マイクから受けている影響というのは計り知れない。

菅原 それからずっと保険業界に携わってらっしゃるんですね。

及川さん そうだね、管理職にもなったんですけど。日本の保険業界で言われていることは本当なのか?金融の本場に行ってみて「本当のこと」を知りたかった。本物の知識を身に付けたかった。それで保険会社を退職し、アメリカの大学に行って金融について学びました。

菅原 本物の知識を求めてアメリカへ…ってなかなかできないことだなと思います。

及川さん 常識を疑う癖が昔からあるんですよ。古い付き合いの友人からも『なんでお前はいつもそういう風に考えるんだ?』って言われるくらい笑。

自分は保険は投資だと考えていて。お客さんにも商品のうわっつらの話だけするんじゃなくて、お金にたいする考え方や、今の経済のこと、そういう土台のところから話をしたい。

菅原 なるほど、たしかに農耕型という言葉がぴったりです。そして金融の根っこの部分からお客様にお伝えしているからこそ、「本当のこと」を学びたかった、というのもうなずけます。

お話は少し変わりますが、伺っていると及川さんのまわりには20代の方も多くいらっしゃって、下の世代との交流を大事にしてるなあ、フラットにおつきあいされているんだなと感じます。

及川さん いや、本当はこうして『パンパン!』って手を叩いて拝まなきゃいけないくらいなんですよ。これから、中心になっていくのは間違いなく20代30代の、自分よりも年下の世代だから。その世代が『こうなったらいいな』って思うようなものしか世の中では流行らない。

自分にない価値観や、他の職種のに就いている人と共生できないと会社を続けていくことはできないとおもっています。ぼくらおじさんおばさんが考える「欲しいもの」を追いかけていても、世の中のニーズとは離れていきますから。

価値観を磨いてくれるのは自分じゃなくて他人なんですよね。自己研鑽はいくらでもできる、本やセミナーで内側からは磨けるんです。でも外側の感性は他人に磨いてもらうものだから。

菅原 内側が知性で、外側が感性、ということですかね。そして外側の磨かれる部分には、若い人にしか磨けない箇所がある、と。なるほど。ピカピカとした宝石が頭に浮かびました。20代30代に向けて伝えたいことってありますか?

及川さん「そうですね…。『立場が人を作るから、こわがらなくていい』ということでしょうか。その立場につくことでしか見えないものがあって、それがまた経験値になるんだ、ということですね。自分には無理、まだ早い、そう思うことがあってもやってみてほしいと思います。

年下といえば八藝舘を作るときにお世話になった設計士の吉田くんも、だいぶ年下だけど仲がいいんです。そして意見を出し合って、マネタイズはあとにすること、広い意味での価値を大切にすることなど、意見をすりあわせました。

菅原 広い意味の価値?というと?

及川さん 目先の利益を求めすぎないということです。街を歩く人が、ちらっと展示をみてくれることも価値のひとつ。まずは作品がたくさんの人の目に触れる機会を作ること。

おこがましいんですけど、アーティストって街や地域で育てていくものじゃないかとおもっています。

菅原 お客さんとのコミュニケーションやつながり、出会いがそこから生まれて、一段ステージが上がるってありますね。

及川さん 自分が八藝舘を作るときも『えいっ』と始めたので笑 最初から完成形なんて無理で、壁にぶつかったらそのときに考えればいいんだから。

菅原 作品を作り始めの頃って、出来あがったものがかっこ悪くみえるし、自信もない。お客さんももちろんつかなくて。でもそこを乗り越えさせてくれる環境が整っていれば、自分が納得いくもの、お客さんが喜ぶものが生み出せるかもしれない。

及川さん そう、そこを越えられる場所になっていくことが八藝舘の役割です。

そして、シェアオフィスを利用することで八幡のまちづくりにも関わることができる。そこから『ギブアンドテイク』で成り立つ関係ができていく。これも貴重なことだと思うんです。

菅原 ギブばっかりも、テイクばかりも、バランスが悪いですよね。

及川さん「うん、自分の商売のことばかり考えていてもダメなんですよ。街に貢献したいって思ったときに、それが可能になるのも八藝舘を利用してもらうことのメリットです。八藝舘の運営は入居する人たちに任せていけたらと考えているので、柔軟にアイディアが生まれ、実践する場所になればいい、と。

ゆくゆくは、独立考えるなら八藝舘だよね、といってもらえるようにしていきたいですね。

日差しのよく入る、明るいオフィスの中、まっすぐに、よく通る声でこちらに向かいお話くださる姿が印象的だった及川さん。

八藝舘の入居者も間もなく満室なのだそう。一部屋ずつ空調と鍵が完備されていたり、打ち合わせスペースがあったりと充実した設備。安心して仕事に、作品に没頭できそうな場所。

これから八藝舘で生まれ、八幡町で育っていくモノもヒトも本当に楽しみだ。

皆さまよりお寄せいただいた感想はこちら (2)
  1. Atsuya Oikawa さん

    感動しました。本当に本当にありがとうございました。

  2. 菅原茉莉 さん

    及川さん、こちらこそありがとうございました。またぜひ、お話たくさん聴かせてください!
    八藝舘にも遊びに行きますね^^

感想をお待ちしております

*

CAPTCHA


この記事が気に入ったらシェアお願いします

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連する記事
この連載を読む
あなたにおすすめの記事