東北をフカボリ!「道の駅」日刊ウェブマガジン「まいにち・みちこ」

まいにち・みちこ

(すがわらまり)
盛岡市在住。聴くこと、撮ること、書くことを通して、「伝わる」ためのお手伝いを仕事にしています。

大好き、じゃなくてもいい。夢ファームで共に歩む「農業ってありかも」までの道のり。

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就農って何なのか、夢ファームで何ができるのか、一戸(いちのへ)ってどんなところなのか。 マイみちストが肌で感じた「農家への道」をそれぞれの目線で紹介します。
まいにちみちこ編集室
https://my-michi.com/column/56479328/10677

給食で五目御飯が出る日は、小学校をお休みしたかった。家の中に出汁を取っている香りがいっぱいになるとキッチンにいる母親に文句を言い、2階へ避難した。

小さい頃の私は、そのくらい嫌いだった、シイタケ。

料理の中に紛れた小さく刻んだものも目ざとく見つけ出し、皿の端に積み上げた。黒っぽい見た目も、強い匂いも、食感も。シイタケの長所であろう部分は全てが苦手だった。

そのときの名残から大人になった今も、よっぽど食べなければいけない状況でなければ、ほとんど口にしない。スーパーで食材として買った記憶もなかった。

温度計

 

そんな私がいるのは温度22度、シイタケ栽培をするビニールハウス。一桁の気温の外とは別世界。空気がぽわんと暖かで、キノコの香りでいっぱいだ。

今日は、一戸町にある「株式会社一戸(いちのへ)夢ファーム」におじゃましている。

夢ファームにはたくさんのビニールハウスがあり、いろいろな種類の作物を作っているが、その中でも、ひときわ頑丈そうな、白いハウスの中にいる。

12月にしては珍しくきれいに晴れた日でハウスの中は、やわらかい光でいっぱいだ。ハウスの中は頭の高さよりも高い位置から足首くらいの位置にまで5段に分かれている台の上に等間隔で、水を張ったプラスチックトレイに、レンガより少し大きい台形の茶色い塊が並んでいた。

菌床並ぶ

 

この台形の塊は菌床(きんしょう)といい、ここからシイタケが出てくる。

「まだとるには小さいけれど、これがシイタケの赤ちゃんだよ」教えてくれたのは夢ファーム研修生の柿崎さん。そう言われて菌床からでているのをみると、私の知っている黒っぽいしいたけとは違う。おもったより白っぽくて、まるっこい。

「傘がひらいているのはあんまりよくないんだよ。傘が開く前が見栄えがいいの」。

傘のおはなしに「なるほど」と思いながらも、大嫌いなシイタケを、かわいいなと思っている自分にびっくりしていた。

シイタケ

 

菌床をひっくり返す「反転浸漬(はんてんしんせき)処理」
菌床を小ぶりなトンカチのようなものでトントンと叩く「打撲(だぼく)処理」
あとはハウスの温度を7~8℃程度低下させる「温度低下処理」

この3つで菌床からシイタケを出すことを「発生管理」というのだそうだ。

叩かれたりひっくり返されたりしたら「絶対でてやるもんか!」と、反抗してもおかしくなさそうなのに。衝撃に対して素直に健気に反応するシイタケに、少し感心した。

シイタケの発生管理技術の効果やハウス作業の効率性を考えてそれぞれの時期に発生のためのショックを与える「発生管理」技術を選択しているのだそう。伺った前日に一度「反転浸漬処理」を行ったので今日の作業はもう一度裏面からおもて面に返す作業だった。

一つの菌床の重さはおそらく、2〜3キロはあるだろうか。見た目はなんとなく軽そうに見えるのに、水を吸っているので持ち上げるとずっしりと重い。

くるん

 

これを、ゆっくりと手前に一度立て、その後くるんと裏返す。プラスチックの容器の中に入った水が洋服に跳ねないように、丁寧に。魚屋さんがしているような防水の真っ黒なエプロンをお借りしていたので多少は気にならないが、下の段に進めば進むほど、上の段から水滴が落ちてくる。慣れない作業のせいか、だんだんと茶色の菌床が重さを増していくように感じる。

濡れた菌床

 

水に浸かっている間は生育が止まる。裏返した時に水の中から小さなシイタケがぴょこんと顔を出すと、なんとなく「ありがとう」と言われているような気がした。
作業をしながら菌床の状態もチェックする。ヌルヌルしていたり、色が悪くなっていたら菌床の中が菌に負けている可能性もあるのだそうだ。

10時には「こびる」の休憩。別棟のハウスに移動して、一緒に暖かいお茶をいただいた。ビニールハウスの中に、家の縁側のようなアットホームな一区画。こびるの間に、高橋先生から「シイタケは雷でも発生するんだよ」というお話を聞き、ますますなんだか健気に思えてくる。近くにある大判焼きの美味しいカフェの話も聞いて、お昼の算段をしながら次の作業へ向かった。

「一番上の段、水かかるから無理しないでね」そう言って私を手伝ってくれたのは背の高い柿崎さんだ。

夢ファームの研修生になる半年前は(宮城県で)サラリーマンだったのだそう。落ち着いた声のトーンや、誠実そうなお話の口調、柔らかいけどきりっとした雰囲気で、会社の中でお仕事をしていたんだろうな、とお話を聞く前から想像できるような方だった。

柿崎さんは、数年後の定年を目前にして農業の世界に飛び込んだ。奥様のご実家が一戸町で農家をしており、農業をやることは選択肢としてずっと考えていたのだそうだ。
「定年まで会社にいるという選択もできたけどね。いつか、って言っているとできなくなってしまうから。えいっ!とね」、そう笑いながら教えてくれた。

わたしが柿崎さんの立場だったらどうするだろう、と思いを巡らす。定年まで勤めることにも、農業という新しいことに挑戦することにも、どちらもデメリットもメリットも同じくらいあるように思える。柿崎さんのような方なら、きっと会社から強く引き止められただろうし、「えいっ」と飛び込むのにもすごく強い意思が必要だったはずだ。今の夢ファームでの研修生活は実際どう感じているのだろう、と気になり、会社にお勤めだった頃と、今の生活でどこが一番違うか尋ねてみた。

「一番違うのは、全部、自分で選択しているということだね」。柿崎さんは迷う様子なく、はっきりと話す。

研修を終えると農家には上司という存在はいない。言うなれば自分自身が一つの会社の経営者だ。24時間をどんなふうに使うのか、何を植え、どんなサイクルで育てていくのか。すべてのことを考え、決定するのは自分。そうか、自分で全部を選択……なるほど、とうんうん頷きながらお話の続きを聞くと、「会社員時代は夜中まで残業していたね、今と比べると仕事もそんなに楽しくなかったなあ」。と少し懐かしそう。そして、「今は日の出と一緒に仕事を始めて、お日様が沈んだら仕事は終わり。メリハリがあるよね」。と笑って話してくれた。

この研修を終えたあとにはどんなビジョンを持っているのか、柿崎さんや他の研修生の方にも伺ってみると「リンドウを育てる」「トマトを育てる」それぞれに熱意のこもった未来のお話を聞かせてくれた。

そのお話の中で「ああ、いいなあ。わたしまでワクワクするなあ」、と思ったのは、研修後はこんな作物を育てたい。というビジョンのお話のあとに、全員が「そしてそれが軌道に乗ったら…次は……」と、さらにお話を続けてくれたことだ。

どの研修生にもビジョンのさらに先に、次の未来のチャレンジがみえている。
積もった雪に反射した光だけでなく、そんな風に話してくれるお一人お一人が眩しく感じた一日だった。

シイタケ手

 

研修を終え、小ぶりだけど両手で抱えるほどの量のシイタケをおみやげに頂いた。

菌床の上でたくましく育つコロンとしたシイタケ。それを30年以上生きてきてはじめて、自分の手で調理した。わたしの母や、古くからの友人にこの話をしたらかなり驚くだろう。それくらい近しい人の間では「菅原の嫌いな食べ物 シイタケ」は定着していたはず。

軸を取り、半量はスライスして、卵、ネギと一緒に中華風のスープに。トントントンと傘の部分を切ると他の野菜とは違うもっちりした弾力を感じる。もう半量はフライパンに逆さに並べた。シイタケ好きの友人に聞いたら「塩だけを振って焼いたのが最高!」と教えてくれたので、その通りにしたもの。あとはバターを5gほどのせたものと2種にしてみた。水を少量入れて蓋をして中火で数分、ふわりと初めての香りが鼻に届く。蓋をあけ、醤油を少しだけかけた。

火を通す前は薄い茶色だったシイタケの表面は、見慣れたこげ茶色になっていた。塩だけで調理した方を4cmくらいの大きさだったので一口でいただく。
わたしの苦手だったあの匂いとはまったく違う、柔らかく食欲を誘う香りがする。食感も歯ごたえが楽しく、噛むたびにじゅわっと味わい深い。
卵スープはシイタケの出汁がでたからか、普段作るものよりも厚みのある味だった。なんだか料理が上手になったような錯覚をしてしまう

結局、わたしと子どもたちの3人で両手にいっぱいのシイタケを全部食べてしまった。この日1日で。

苦手だと思っていた、匂い、食感、見た目。それも食べ終わってみると全部長所だったのだな、と思えた。

シイタケでお腹いっぱいになる、という人生初めての感覚の余韻を味わいながら、夢ファームでの1日を振り返る。

シイタケは絶対食べられないと思っていたけれど、食べてみたら想像していたよりもずっと美味しかった。

たださすがに、「シイタケ大好き!」、にはそう簡単にはならないのが本音だ。それでも「大嫌い!」から「また食べてみたい」まで気持ちは変わっている。今度スーパーで見かけたら買って違う調理方法を試してみよう、とは思えている。

農業人口を増やすというテーマで書かれたさまざまな資料をみていると、自治体は「農業大好き!」な人を増やそうとしているんじゃないかな、と感じることがあるのだが、「農業いやだなあ」から「農業大好き!」への人を増やすというのは一気に昇るには少し長すぎる階段なのではないだろうか。

 

ふと柿崎さんが、菌床をひっくり返しながら「農業を大好きになる必要はないんです」と言っていたのを思い出す。

 

そう、すぐ大好きにならなくったっていい。

食わず嫌いだった食べ物のことを正しく知り、自分の手で収穫し、作り手のお話を聞き、たった1日で「大嫌い」から「また食べてみたい」まで気持ちが動くこともあるのだから。

大好き!の前に、まずは、農業って選択肢としてありかもな、くらいに思ってもらえる人口を増やすことをめざす。目標地点を手前に置くことで、農業に主体的に関わる人の裾野が広がる可能性があるんじゃないか、と思う。

シイタケハウス

 

「農業大好き」までの長い階段のうち「農業、ありかもしれない」のところまで、優しく手を引いてくれるような仕組みが一戸夢ファームには整っている。

次回はその仕組みとチャレンジについてもう少しお伝えしていきたい。

 

\新・農業人フェアに出展します!/

平成30年2月10日(土) 10:30〜16:30
開催場所:東京都豊島区東池袋3-1-1 池袋サンシャインシティ
  ワールドインポートマートビル4F 展示ホールA-1〜3
http://shin-nougyoujin.hatalike.jp/schedule/tokyo_20180210.html
アクセス:東池袋駅より徒歩3分、池袋駅より徒歩8分
主  催:リクルートジョブズ

 

「はじまりは夢ファーム」〜新規就農者のための農業研修機関
http://ichinohe-yume.com/

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