日刊ウェブマガジン「まいにち・みちこ」│東北「道の駅」公式マガジン「おでかけ・みちこ」

まいにち・みちこ【東北 道の駅 日刊マガジン】

第12回「遠距離レコーディングについて」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
シンガーソングライター坂本サトルが出会った音、風景、そして人…
まいにちみちこ編集室
https://my-michi.com/column/34975682/15716

プライベートな事情により2010年から当時自宅のあった神奈川県川崎市と青森県青森市との2拠点生活が始まった。
そして2014年2月に青森市内にスタジオを作ったのを機に、自宅、事務所、スタジオを川崎市から完全に青森市に移した。
そのスタジオは現在も作品作りの拠点であり、2014年以降に僕が制作に携わった68曲ほぼ全ての楽曲の一部、または全作業がここで行われた。(うちCD化されているのは60曲)

このCD棚(自作)の上段は自分名義(バンド名義含む)の作品。下段は作詞、曲、プロデュース等で参加した作品。

「青森市内に制作拠点を移してもやっていける」と判断したのは「遠距離レコーディング」の割合が徐々に増え始めていたからだ。
今ではそう珍しくはないこのレコーディング方法だが、僕の場合はその割合がこの業界の中でもかなり高い方だと思われる。

 

初めて遠距離レコーディングを経験したのは2007年に発売された友人でサンポーニャ奏者の瀬木貴将のアルバムを2人で作っていた時のこと。ウルグアイが世界に誇るピアニストHUGO FATTORUSO(ウーゴ・ファトルーソ)が弾くアコーディオンのデータがアルゼンチンの首都、ブエノスアイレスから送られてきたのだ。
ストレージサービスもほぼなかった時期に、あれこれ工夫してなんとか曲のデータと譜面をブエノスアイレスに送り、その数日後にウーゴが弾くアコーディオンのデータが16小節×2曲分送られてきた。(当時からBIGLOBEは100MBまでのメールを受けられるようになっていて随分重宝した。)
写真でしか見たことがなかった南米の美しい街から届いた音。
あの時の「原理は分かるが信じられない」という感覚は今も時々感じることがある。

その後、ネット環境は猛烈な速さで進化し、レコーディング機材も同じぐらいの速さで小型化、軽量化、高性能化していった。20年前と同じクオリティの機材がモノによっては100分の1程度の金額で買えるようになり、僕も含め自分でレコーディングが出来るようになったミュージシャンがどんどん増えていった。

そんな中、僕の制作方法が「遠距離レコーディング」にシフトしていった決定打は仙台発の5人組ガールズグループ「ドロシーリトルハッピー(以下ドロシー)」のプロデュースを担当した事だった。
ドロシーの「デモサヨナラ」という曲でKay-Ta Matsunoくんがギターを弾いてくれた。この曲の協同アレンジを担当してくれた安部潤さんが指名したギタリストで、素晴らしいプレイだった。彼は当時からロスアンゼルスを拠点に活動していて、たまたま帰国していたタイミングで安部さんのスタジオに来てもらってレコーディングしたのだ。
その数ヶ月後、同じくドロシーの「Life goes on」のレコーディング時、またギターをKay-Taくんに弾いて欲しくて連絡をすると彼はその時ロシアツアーに出ているという。「でもやれますよ。曲と譜面を送って下さい」という言葉に甘えてデータを送るとウラジオストクから見事なプレイのデータが届いた。勝手にロシアの通信環境は劣悪だと思っていた事を反省。
「こうやって世界中どこにいても一緒に作品を作れるのだ」と確信した出来事だった。
「これなら青森でもやれる。東京近郊にスタジオ作るより経費もかからないし部屋も広い。青森市にスタジオを作るのだ!」

レコーディングエンジニアの佐藤宏明くんに青森まで来てもらっての監修の元、地元の大工さん達の匠の技にも助けられ2014年2月、我がスタジオ「studio mode key blue」は遂に完成したのだった。

全体が吸音ではなく「散音」を重要視している。部屋のどこにいても同じ音で聴こえる、というのが自慢。とにかくいい音です。

 

僕の携わるほぼ全ての作品はこのスタジオを拠点に遠距離レコーディングと出張レコーディングによって作られる。
具体的に作品を紹介してみる。

『何のため 誰のため / 坂本サトル』(ラインメール青森FCオフィシャルソング)
・ギターは古川昌義さん。LAからデータで。
・キーボードは真藤敬利くん。川崎市の自宅からデータで。
・ドラムデータは安部潤さん。都内のスタジオからデータで。
・コーラスは青森市内某所にサポータの皆さんに集まってもらったところに出張レコーディング。
・残りの楽器、追加の楽器、ボーカルは私。このスタジオでレコーディング。
・ミックスダウンは都内のスタジオにて佐藤宏明くん。現地で立ち会い。
・マスタリングは都内にて。バニーグランドマンマスタリングの山崎翼さん。現地で立ち会い。

『1!2!3! / パクスプエラ』
・ギターは山口克彦くん、都内の自宅からデータで。
・ベースは坂本昌人(実弟)。青森県南部町にある実家に出張レコーディング。
・キーボードとドラムデータは安部潤さん。都内のスタジオからデータで。
・ボーカルは仙台市内某スタジオに出張レコーディング。
・残りの楽器、追加の楽器、コーラスは私。このスタジオでレコーディング。
・ミックスダウンは都内のスタジオにて佐藤宏明くん。現地で立ち会い。
・マスタリングは都内にて。バニーグランドマンマスタリングの山崎翼さん。現地で立ち会い。

『運命論者(2015 ver.)/ モモ』
・ギターは西村健くん。都内の自宅スタジオからデータで。
・ベースは坂本昌人(実弟)。青森県南部町にある実家に出張レコーディング。
・ピアノは佐藤達哉さん。宮城県松島町内のご自宅に出張レコーディング。
・パーカッションは長堀晶くん。このスタジオでレコーディング。
・残りの楽器、追加の楽器、コーラスは私。このスタジオでレコーディング。
・ボーカルはモモちゃんにこのスタジオに来てもらってレコーディング。
・ミックスダウンとマスタリングは都内のスタジオにて永井はじめさん。データでのやり取りで確認。

…という具合。
あちこちから届いたり録ってきた音を整理し、編集し、最後の重要な作業であるミックスダウン担当者に青森にいながらにしてデータで届ける。このやり方で4年間で60曲を作り上げたのだ。

 

それでは最後に遠距離レコーディング、出張レコーディングのデメリットもあげておく。

・プレーヤー全員で「せーの!」で録る場合に比べ、ちょっとした作業にいちいち時間がかかる。送る→聴く→修正して欲しい部分を伝える→録り直す→聴く→修正して欲しい部分を伝える…以下ループ。気心の知れているプレーヤーや曲のイメージがちゃんと伝えられていれば問題ないのだが、解釈が違っていたりした時は大変。その場に一緒にいれば一言二言ですむことなのに…

・何と言ってもプレーヤーの顔を見て進められないのが痛いところ。結局どうしても自分が立ち会って収録したいものについては出張レコーディング、ということになる。予算によりますが。

・出張レコーディングの場合、機材の運搬、セッティングに時間がかかる。出張レコーディング用の機材も購入しなければならず経費的に負担が。

 

…とは言え、現在、僕が置かれている生活環境ではこれがベストの選択だと思っている。
2020年運用スタートを目指して開発が進む次世代モバイル通信「5G」では、データの遅延が1/1000以下になり、離れていてもほぼリアルタイムにデータのやり取りが出来るという。プレーヤーが離れた場所にいても「せーの!」でレコーディングできるようになりそうだ。(現在も特別な機材を揃えれば可能は可能)

個人的には、もはや本当に便利になっているのかどうかわからないぐらいだけれども、世界は加速しながらずんずん未来に向かっている。
確かに遠距離レコーディングは画期的だし、出張レコーディングがこんなに簡単に出来るようになるなんて20年前には想像も出来なかった。
しかし大事なことは言うまでもなく良い作品を作ることだ。テクノロジーに惑わされて本質を見失ってはいけない。道具が便利になっただけで使う者の能力は何百年も前からたいして変わっていないのだ。

以上、自戒も込めて。

 

●余談その1
Kay-Taくんは日本に住んでいた頃、JIGGER’S SONの「何もしてあげない」を聴いて衝撃を受けたという。初めて電話で話した時、いかに「何もしてあげない」が凄い曲なのかを10分ほどウワーッと話してくれた。

●余談その2
ロスアンゼルスの事を「ロス」と言う人が多いが、これは日本人のみの言い方。
「LA(エルエー)」が正しい。現地の発音で言うと「エレイ」。詳しくはスタンダードプロトタイプ『LA』を聴いてみて欲しい。

 

スタンダードプロトタイプ
http://www.standardprototype.com

 この記事を書いた「マイみちスト」
(さかもとさとる)
1967年青森県生まれ。1992年、JIGGER’S SONのボーカル、ギターとしてメジャーデビュー。1999年「天使達の歌」でソロ活動開始。自身の活動の他、楽曲提供、プロデュース、映画等の音楽制作、ラジオパーソナリティとしても活動中。
この「マイみちスト」の作品

SOUND of SURPRISE

この記事が気に入ったらシェアお願いします

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
皆さまよりお寄せいただいた感想はこちら (2)
  1. もやしやま さん

    技術革新によって生活様式がどんどん変わっていく時代。
    個人的にはそのおかげでサトルさんが青森に居てくれてることが嬉しいです。
    データはその人のプレイを劣化せずに保存できるということでしょうか?
    テープレコーダー世代には不思議な感覚です。

  2. ハピママ さん

    私は在宅でPCを利用して
    東京にある会社のパートを
    しています。
    サトルさんのお話で共感出来るところがありました。
    顔が見えず、わからないことを伝えるのもチャットだけが頼りで、
    そばにいればすぐ解決出来るし、
    PCの使い方も上達するのだろうと思います。でも、なんならパジャマでも働ける環境の便利さは辞められませんね。笑
    技術って凄いですよね。

感想をお待ちしております

*

CAPTCHA


プレミアム記事
この連載を読む
あなたにおすすめの記事
東北のイベント