まいにち・みちこ【東北 道の駅 日刊マガジン】

第10回「結婚式で歌うことについて」

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シンガーソングライター坂本サトルが出会った音、風景、そして人…
まいにちみちこ編集室
https://my-michi.com/column/34975682/14780

これまで年相応の数の結婚式に出席してきたが、そのほとんどの式で余興としてライブをやってきた。
正確に言えば1992年のデビュー以降に出席した結婚式で歌わなかったのは1回きり。それ以外の全ての式で必ず「余興:坂本サトルミニライブ」があったのだ。

式に呼ばれること(=余興で歌う事)が決まると、まずは式場の担当者と連絡先を教えてもらう。
事前に下見に行けないことがほとんどなので、会場にどんな音響機材があるのか、それがどの程度使えるのかを事前に聞いたり写真を送ってもらったりして、足りない機材はこちらで用意して当日会場に向かう。

当日、一般客が訪れる1時間半~2時間ほど前に会場入りし機材の確認、セッティング、サウンドチェックとリハーサル、これをほぼ1人でやる。
会場はテーブルセッティングや料理の準備で混沌としているが、その様子を横目に淡々と準備し、招待客が見える前に会場を離れるのだ。

そうやって会場にある機材を使って準備をしていていつも思うことがある。
なぜ結婚式場の音響機材はめちゃくちゃな使われ方をしているのか?ということだ。
パターンがいくつかある。

 

●その1:機材が古すぎる
…このパターンは古くて小さめのホテルなどで遭遇することが多いのだが、とにかく機材が古い。古いだけならまだしも、スピーカーケーブルやマイクケーブルを辿っていくとバックヤードの隅っこの方にジャングル地帯のような謎の「ケーブル関係入り乱れ空間」があって、何がどことどう繋がっているのかが判明するまで途方もない時間がかかったりする。ある会場では恐らく30年程誰も触っていないであろう細くてフニャフニャのスピーカーケーブルが、かろうじて1本だけミキサーに繋がっていた。プラグ部分をよく見ると錆びた配線がむき出しになっていて、何かがちょっとでもここに触れたらショートするか断線して音が出なくなる、という状態だった。これで何十年かやってきたのだとしたらそれはもう奇跡に近く、ここで式を挙げたカップルはとんでもない強運に恵まれた結婚生活を送っているのではないか。

 

●その2:担当者が使い方を知らない
…これが一番多いパターン。機材がそこそこちゃんとしていてもそれを使える人がいない。ちょっとオーディオに詳しかったり、たまたま担当になってしまった人が操作しているのだろう。それはもうめちゃくちゃな使われ方だ。良くあるのがEQ(イコライザー。マイク等の音質を調整する)の使い方。マイクやCD等、音質に一番影響を与える重要なつまみであることが理解されていないことが多い。
各チャンネルに付いているEQというのは12時方向がフラットで足りなければ右に回してプラスしていき、その帯域がうるさければ左に回してカットする。
具体的に写真で説明すると、通常のEQはこの位置が基本。ライブなどでは非常に細かい調整が行われるが、結婚式場などではEQはほぼこれでいい。高域、中域、中低域、低域ともにフラット。(それぞれHI、HI MID、LOW MID、LOWと表記)

 

ところが先日打ち合わせに行った会場で見たのが、下の写真のようなおぞましいEQ。(再現)

全帯域を全カット。マイクはもちろん、CD、カラオケ、DVDなど、全てのチャンネルがこうなっていた。これではほぼ音が出ない。
音が出ないから無理矢理ボリュームをグイグイ上げてなんとか使っていたのだろう。
この立派な会場で、1000円で買ってきたラジオの小さなスピーカーから聞こえてくるようなショボショボの音質の声や音楽が大音量で流れていたのかと思うと、これまでにここで式を挙げてきた人が気の毒でしょうがない。
EQのつまみをフラットに戻してチェック用にCDをかけると、そばにいてくれた担当の方が「おっ!」と驚いた声をあげた。
マイクのEQもフラットに戻してちょっと喋ってみると、担当の方は今度は「へーっ…」とため息を漏らした。「今までと全然音が違う!」と驚く担当。「あったりめーだろ!」と心の中で突っ込む私。とほほ。

 

●その3:触(さわ)れないようにしてある。
新しい会場に多いのがこの型式。セッティングの時に一応専門家が来ているらしく、豪華な機材をきっちりセッティングしたあと、不慣れな式場スタッフでも操作できるように簡単に指導し、その後、必要なところ以外を触れないようにガードしてしまうのだ。
やっかいなのはこの「一応専門家」がきちんとしていない場合だ。機材はそこそこ立派だがなんだか音がよろしくない。なんでこんな音なんだ…と機材を見ていくと「グラフィックイコライザー」という全体の音質を調整する機材のセッティングがちょっとだけおかしい。それを触ろうとして唖然。操作部分ががっちりと透明のプラスティックのようなものでガードされていて触ることが出来ない。頼めばそのガードを外してくれる会場もあるが「そこは触ってはいけないと業者さんから言われてますので」の一点張りで触らせてくれない会場もあるのだ。

 

やっかいなのは「うちは今までこれでやって来たんだから、勝手にいじるなよ」という空気をバンバンに出してくる担当者だ。
さらに僕が歌の仕事をしている事が伝わっていなかった場合は最悪で、「お前なんかより俺の方がこの機材のこと知ってるんだぞ」という態度でなかなかこちらの要望を聞いてくれない。
この人に怒ってもしょうがない。今日は2人の新しい門出をお祝いしに来たのだ。僕がこの担当者の気分を害することで式自体に悪影響が出たら元も子もない。
ご機嫌を取りながらなんとかこちらの要望を聞いてもらったり、見ていないところでササッとつまみをいじったりして、なんとか本番を迎える。
そんな事が何度かあって、それから式に呼んでもらう時には「僕のことをしっかりと会場に伝えてもらうこと。音響関係は全面的に協力してもらうこと」を念押ししてから歌の依頼を引き受けることにした。
とにかく、何の問題もなかった会場は残念ながらこれまでに数えるほどしかなく、ほとんどの式場で会場スタッフの方や機材との奮闘があった。これでいいのか結婚式場よ。

 

どの地域にもちゃんとしたPA(音響)会社があって、そこにちょっと見てもらうだけで解決するケースがほとんどだと思う。
全国の結婚式場関係者の皆さん、音響機材を自己流で使うのは機材にも悪いし、何よりもそこで式を挙げるみなさんに失礼です。
近所の電気屋さんや趣味でやってる人ではなく、きちんとした業者に見てもらいましょう。
そして全国のPA会社の皆さん、そんな依頼が来たらぜひ格安でやってあげて下さい。
いや、交通費と美味しいお酒と食事を出してくるなら、僕が全国どこでも行きます。むしろ行きたい。ぜひご連絡を。

この世から悪音(「あくおん」と読みます。今考えました)を少しでもなくすため、これからも僕は式場の機材と闘っていくのです。

 この記事を書いた「マイみちスト」
(さかもとさとる)
1967年青森県生まれ。1992年、JIGGER’S SONのボーカル、ギターとしてメジャーデビュー。1999年「天使達の歌」でソロ活動開始。自身の活動の他、楽曲提供、プロデュース、映画等の音楽制作、ラジオパーソナリティとしても活動中。
この「マイみちスト」の作品

SOUND of SURPRISE

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皆さまよりお寄せいただいた感想はこちら (8)
  1. コメは二合 さん

    しっかりとした準備をされるところに、常に良いライヴを届けようとする、サトルさんの姿勢が出ていますね。
    そんなサトルさんのライヴが《余興》とは、贅沢すぎますね!
    出席者の方々が羨ましい~。

  2. 境香織 さん

    痛いほどわかります。結婚式司会者として会場に同じことを思います。どこまで会場にいっていいものか…悩みます。毎度そこで仕事をしていくわけで、私は使われの身。しかし、本番をなんとか毎度しのいできているだけで、この先しのげなかったときはどうなのか…
    どこまで言うべきか悩みます。
    華やかな会場、華やかなドレス、音なんて二の次なのかもしれませんが、音が出なかった時は1番悲惨です。
    それをどう話して気づいてもらうべきか、司会者として悩む毎日。そして他司会者も同じ悩みを抱えていますね。

  3. パザパ さん

    参考になりました!サトルさんの奮闘、素晴らしいです。

  4. 自画自賛 さん

    坂本さま
    この度は式場宛のメッセージありがとうございます!お隣岩手県にて結婚式場の支配人をしております。私が個人的にファンという事が影響しているのか、何の抵抗も無くスッと入る内容でした。
    そして心当たりがあり過ぎて、反省しております。
    是非スケジュールのご都合が付けば、お近くにいらした際に当館のPA機器もご確認戴ければと思います!

    • 坂本サトル さん

      ありがとうございます。ぜひこちらからご連絡下さい。お待ちしてます!http://www.sakamotosatoru.com/contact.html

  5. 中林20系 さん

    アラハタ辺りから20代中盤頃まで、インディーズのサポートと並行していわゆる営業の仕事をしてました。ビアガーデン等だけにあらず、政治家のパーティなどでの演奏も多かったのですが、同様な問題が会場で常に…苦笑爆笑しながら拝読いたしました!
    おっしゃるように年かさの責任者がいて、こっちは若造ですから…いや、そこのツマミをもうちょっとこうするだけで…ならぬならぬの世界でした(笑)。

  6. ナナコ さん

    素人の私たちが耳にしてはいけないことを聞いてしまったような気がしています(汗)
    うちの子どもたちのピアノ発表会が毎年某ホテルで行なわれますが、会場では年に数回ピアノを使った有料コンサートやリサイタルが開かれているにも関わらず、都度ピアノの調律が行われておらず、唯一ピアノ教室の先生が発表会前に調律師を雇って行なっている現状で、ホテル側がきちんと管理を行わないことにいつも不満をもらしているのを思い出しました。

  7. なべさん さん

    同じことが学校現場でも言えますね。体育館の音響設備は特にで、卒業式当日にマイクの音がおかしくなるとか、音が流れないとか……。ちょっと詳しい自分が悪戦苦闘してセッティングなんでこともよくあります。直前まで音が出ていたのに突然出なくなる……。自分が産まれる前の機材とかは手が出せませんからねぇ。その辺を考えて整備してほしいなぁと思う今日この頃です。

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