1 初めてのトイレ泊~根浜海岸

この回は、わが家から朝一の列車で釜石に直行。昼頃釜石を出発して、箱崎半島、船越半島、重茂半島を経て、更に岩泉小本から北上して野田玉川に向かい、そこから一気に福島県の新地に飛んで最後の二日間で松川浦のゴールを目指すという計画だ。初日は昼に釜石ラーメンで腹ごしらえをしてからスタートし鳥谷坂の峠を越えて一気に根浜まで行く行程だ。

根浜には2019年に再建オープンし釜石DMCが管理にあたっている「根浜シーサイド」といういいオートキャンプ場がある。時期的にまだオープンしていないのでテントを張れるかわからないがとりあえず行ってみた。事情を話してテントを張らせていただけるかお願いしてみると実に意欲的で爽やかなスタッフが快く応対してくれて、トイレと水道も一カ所ずつ鍵を開けておいてくれるとのことでそこでキャンプすることにした。

根浜シーサイド

4月初めではあったがちょうど寒波がきていて結構寒く風も強かった。なんとか風を避けて小さな小屋の裏手にテントを設営することができた。時折かなり冷たい強風が吹いて寒かったが明日のためになんとか我慢して寝ることにした。ところが、深夜二時頃になって更に突風のような強い風でテントが飛ばされそうになりとても寝ていられるような状況でなくなった。これ以上は無理と判断してテントを撤収し、一つだけ鍵を開けておいてもらったトイレの中に避難した。幸いなことに床はコンクリートで狭いものの、まだできて2年ほどの新しいトイレとのことでそれほど臭くもなく風も入ってこない。外で猛烈な風の中で凍えているよりも遙かに居心地がよく(?)なんとか3時間ほどは眠ることができた。

小屋の中でコンクリートの床の上で寝たり、宮古地区で震災メモリアルパーク「中の浜」のバイオトイレの中で一時的に寒さをしのいだことはあったものの、さすがにトイレの中で実際に一晩過ごしたことは初めての経験だった(笑)。しかし、臭くなければ結構いけるという確認ができて面白い経験だった。

2 トレイルエンジェル岩間さん

翌日は根浜をスタートして箱崎半島を一周し鵜住居まで歩く予定だったので早朝に起きて出発の準備をしていると、誰もいないキャンプ場に一台の車が入ってきて男性がひとり近づいてくるのが見える。誰だろうと思っていると、なんと釜石のプロカメラマンでその日から三日後にMCT撮影の仕事で八戸をスタートしてスルーで南下する予定の岩間さんだった。前日は急いで釜石をスタートしてきたので会えなかったからと、わざわざ早朝に釜石から温かいコーヒーをポットに入れて激励に来てくれたのだった。

一晩トイレのなかで凍えていた身にとってまさに最高のトレイルエンジェルとなった。おまけに根浜をスタートしてしばらくの区間では歩く様子を写真に収めてくれた。実にありがたいことで、延々とひとりで歩いていると、こういうなにげない人の心が本当に心に沁みるのだった。 
 

箱崎半島では、今年はいつもの年より山菜の出が早く、それを狙う熊もたくさん出てきていて、山菜採りの人が何人も熊を目撃しているのでくれぐれも気をつけるようにとの地元情報があった。実際に歩いてみるとルート上のあちこちに熊の足跡がありかなり緊張した。台風による道路崩落箇所が驚くほどたくさんあり、林道も車通行止めのエリアが広範に残っていて、熊にとっては極めて自由に動き回れる環境になっているせいもあるようだった。

結局エリア全体を通じて集落以外で人と会うことはなく、やっとたどり着いた仮宿漁港でも熊の話で持ちきりだったこともあって、ひたすら熊の気配を気にしながらかなりのハイスピードでゴールの鵜住居(うのすまい)駅に到着したのだった。

仮宿漁港
鵜住居駅

鵜住居から先は既に歩いているので、三陸鉄道で浪板海岸まで移動し、そこがこの日の宿となった。浪板海岸の民宿では、温かいお風呂と美味しい食事、そして翌日の朝には女将さん自ら握ったおにぎりまで持たせてくれた。前日は寒風のなかのトイレ泊でほとんど寝られなかった上に、寒さのため食べ物を作る気にもなれず乾き物しか口に入れていなかったので、ことさらありがたく、またここでも温かいみちのくの人情に触れた思いがしたのであった。