喫茶の文化が根強く残る街、盛岡。ここには昔から変わらない姿で佇む喫茶店が多くあります。
それと同時に、長い歴史に幕を下ろすことを決断した店も少なくはありません。
今回ご紹介する羅針盤がオープンしたのは、2018年6月のこと。
かつてはここに、45年間も愛され続けた「六分儀」という喫茶店がありました。

 

 

羅針盤のオーナーを務めるのは、都内で珈琲とチョコレートの店「蕪木(かぶき)」を営む、蕪木祐介さん。
学生時代を盛岡で過ごし、六分儀へも足繁く通っていたそうです。
珈琲を飲みながら一人静かに自分の心や思考を整えていたという蕪木さんにとって、六分儀はとても大切な場所。閉店することを聞き、どうにかあの場所を残したいと願った彼は、壁や棚、テーブルなどをそのまま残し、六分儀を受け継ぐ形で新たな喫茶店をオープンしました。

 

メニューは宮沢賢治を彷彿とさせる活版印刷。
珈琲の液に浸すことで、独特の風合いを演出している。

 

 

この羅針盤で店長を務めるのは、六分儀にも訪れたことがあるという関さやかさん。以前は市内の飲食店で働いていて、蕪木さんとも面識があったそう。店長にと打診された時は驚いたものの、「人をもてなすことが好き」という関さんにとって、それは願ってもないことでした。
「これはもう、やるしかない。そう思ってお引き受けしました」

 

航海の道具である六分儀にちなみ、敬意を持って名付けた羅針盤。
「訪れた人が次に進む方向を指す」という意味も込められている

 

こうしてまた、新たな時を刻み始めた喫茶店。関さんはこの場所が醸し出す空気感を汚さないよう、そしてお客様が良い時間を過ごせるようにと、日々心がけているそう。六分儀を知る人はもちろん、初めて訪れる人でも懐かしく落ち着いた雰囲気を愉しむことができます。

 

ネルドリップで一杯ずつ丁寧に淹れる珈琲。

 

羅針盤で提供している珈琲は、蕪木さんが厳選した豆を焙煎した逸品揃い。
3種類あるブレンドにつけられた名前もまた、印象深いものがあります。

オリザ
軽やかさと独特の華やかさを持つ中深煎りのブレンド。
オリザとは稲の学名で、黄金色に輝く田園風景の美しさを意識して作ったものだそう。

珀(はく)
透明感のあるコクと甘味、そして深い奥行きのある味わい。
まるで琥珀のような透明感と輝きを持つことから、この名前がつけられました。

羚羊(かもしか)
芳醇な薫香、そして重厚なコクと苦みを楽しめる一杯。
森にカモシカが佇む姿から作られたブレンドで、木や土の香りと、その奥にはエキゾチックな風合いが感じられます。

 

リピート率が高いという羚羊は口に含んだ瞬間、重厚な香りが押し寄せる。

 

一口に喫茶店と言ってもいろんなお店がありますが、ここはぜひ一人で訪れてほしい場所です。
いつも何気なく眺めてしまうスマートフォンは鞄にしまって、珈琲とこの空間を、ただ味わう。
それって実は、何よりも贅沢な過ごし方ではないかと思うのです。
珈琲を味わい、ぼんやりし、いつの間にか自分の心と向き合う時間を漂っている。
それがこんなにも幸せなことなのかと気が付かせてくれるお店です。

 

 

羅針盤
020-0871
岩手県盛岡市中ノ橋通1丁目4-15
TEL:019-681-8561
営業時間:11:00~19:00(ラストオーダー18:30)
定休日:月曜日(祝日は営業)
http://kabukiyusuke.com/
※座席の都合により、3名以上のご案内が難しい場合があります。