いなだ珈琲舎が盛岡劇場の向かいに店を構えたのは、2014年12月のこと。盛岡では珍しく、朝7時半から営業する喫茶店としてスタートしました。オープン当時、「盛岡でモーニングは需要がない」と言われたこともあったそうですが、朝食にパンと珈琲を選ぶ人は多いもの。誰もやっていないなら逆にチャンスと提供を続け、今ではすっかり定着したそうです。

 

 

店主である稲田さんが珈琲の世界に足を踏み入れたのは、25歳の頃。いつかは自分の店を出したいという夢を抱きながら、足掛け15年の修業を重ねてきました。

その頃はいわゆる“昔ながらの喫茶店”が廃れ始めていて、珈琲の店をやりたいという稲田さんに、誰もが「今どき流行らない」と反対したそうです。長い修業期間の中で上手くいかないケースを見ることも多く、果たして独立してやっていけるのだろうかという不安は大きかったといいます。

そしてそれは、店を出した今でも消えることはありません。

自分がやってきたことに自信はある。けれどこの先も上手くいく保証はない。

それでも稲田さんは「自分の人生だから好きなことに時間を使いたい。好きじゃないことをやる人生はもったいないと思うんです」と語ります。

 

 

その店の味を作る上で最も重要なのは、焙煎です。浅煎り、中煎り、中深煎り、深煎りなどさまざまな仕上げ方に加え、短時間高温焙煎か長時間低温焙煎かによっても全く違う味になります。その店の考え方や好み、来店する人たちの嗜好に合わせて焙煎の具合を調整し、味を作り上げていくのです。

 

 

稲田さんは焙煎をする際、必ずストップウォッチを持ってその様子を逐一記録していきます。生豆の水分量やその日の天気などを考慮して火力をコントロールし、調整した度合いを1分ごとにチェックするのです。

「焙煎はその店の味を作る一番大切な作業です。生豆の状態はその都度変わりますし、いつもと同じやり方でやればいいというものではありません」

焙煎の中で最も神経を使うのは、煎り止めのタイミング。稲田さんはまるで豆と会話するように煎り具合を確認して、最後は長年の経験と勘が告げる「今だ」という瞬間に、一気に豆を取り出します。

 

 

そうしてできあがった珈琲は、店に出す前に必ず試飲して出来栄えをチェックします。どうしたらもっとお客さんに喜んでもらえるかを常に考え、次の焙煎につなげているのです。

また珈琲の味をより引き立たせるミルクは、乳脂肪率を1%ずつ調整して試作を繰り返したオリジナル。常連客の中には「ブラック党だけど、ここではミルクを入れて飲む」というファンもいるそうで、稲田さんも「ぜひ一度は使ってみてほしいです」と語る自信作です。

 

 

いなだ珈琲舎ではモーニングなどのセットメニューを始め、チーズケーキやフルーツケーキなどのデザートも揃えています。珈琲と合わせていただくことで、よりそれぞれの味わいが引き立つようにと考えて作られたものばかり。大切に作り上げた珈琲だからこそ、その一杯を取り巻くメニューにも一切、妥協はありません。

ここは、全てのものに稲田さんの“こだわり”が詰まった素敵なお店。

お話しを聞きながらそう感じていましたが、稲田さんのひと言で、それはちょっと違うなと感じました。

「珈琲が好きで、本当にお客さんに喜んでほしいと思ったら自然とやってしまうことばかりですよ」

 

 

ここは、そういって笑顔を浮かべる稲田さんの“愛”がいっぱいに詰まった場所。だからこそこの珈琲を飲んだ瞬間、こんなにも幸せな気分になれるんですね。

 

ふわりと心がほぐれるような、一杯の珈琲。おすすめです。

 

 

 

 

 

自家焙煎 いなだ珈琲舎

020-0874

岩手県盛岡市南大通1丁目12-17  メゾン サウスアベニュー101

TEL:019-656-7766

営業時間:7時30分~19時

定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)