四月下旬の週末、郷里の山形県長井市に帰省した。
2泊3日の駆け足の帰省だったが、ゴールデンウイーク前の山形の春を満喫できた。

山形の春のはじまりは、南に接する福島県と半月くらいずれている気がする。
吾妻連峰の山々を越えてくるのに多少時間がかかるのだろうか。
山形新幹線に乗って東京から北関東の平野を見ながら帰省すると、桜の咲き具合や土手や田んぼのあぜ道の緑色の加減で、春の盛りから早春まで、季節をさかのぼっているのが体感できる。
そして吾妻の山々を越えて米沢盆地に入ると、まだ雪が残る山裾から、土手沿いに鮮やかな水仙の黄色が目に飛び込む。
溶けだした雪の下、枯草の間、茶色と灰色の冬の色合いの隙間から必死に主張する春の色。
北国の春は何もかもが一斉に萌えだす印象が強い。
「もう少し待って」と言いたくなるほどに、その足並みは性急だ。

実家に着いて一息つくと、隣家の奥さんが回覧板を持ってきた。
そして「娘さん帰ってござったなが。何にもないげんどウコギの生垣だったらなんぼでも勝手に摘んでって食べでおごやい。うちでは誰も食わねもんだがらよー」
と言ってくれた。

母に言わせると毎年のことで、ご近所中で勝手に垣根の中に入り、車の行き交う県道に面していない内側から、ウコギの芽出しを摘んでいくのだそうだ。
ウコギは山形県の中でも内陸部、さらに上杉家の領地だった置賜地方で一般的な生け垣の材料木で、上杉米沢藩9代目の鷹山公に栽培を奨励された。
米沢ではもっぱら士族の屋敷の生垣に用いられたが、米沢市内でもその面影を残す屋敷は年々減っているという。
旧上杉家の領地だった置賜人の食生活にも、すぐには気付かないほどに広く浸透しており、春に芽吹いたばかりの柔かい若葉を摘み、ほろ苦さを賞味するのだ。
「んじゃお言葉に甘えさせてもらいもして」
と、玄関から出て行った母は、大きめのざる一杯のウコギの若芽を持って帰ってきた。

いくらなんでも甘え過ぎ、摘みすぎなんじゃないの、お母さん。

「いやー、まっと摘んでっけろっていわれるもんだからよー。次から次へと生えてくっから。これだけあっても茹でっとぺそっとなんなだ」
とすましたものだ。

その夜はウコギの天婦羅、焼き味噌との切り和えを豆腐の上にこんもりと盛った田楽などが食卓に並んだ。
ほろ苦さが美味いと感じるなんて、私も年をとったもんだ。

今回は、郷土の味・ウコギ飯を東京で作ってみた。
帰京する朝「まだ来いなー」と袋一杯のウコギを持たせてくれた、隣家のおばちゃん、ありがとうございました。

写真は二度目の登場、母の久美子さん83歳でした。

【レシピ】うこぎ飯


【材料】
お米3合
うこぎ1つかみ~好きなだけ
白だしティースプーン1~3杯
ゴマ塩(好みで)


(1)米3合を研いで、余裕があったらざるにあけ、30分ほど吸水させる。(うるち米2,5合にもち米0.5合を混ぜると、もっちりしておこわ風になりますが、好みで)
(2)炊飯ジャーで炊く。
(3)ウコギを良く洗い、枝付きの固い部分や摘んだ時についてきた木の皮、ごみなどをよく取り除く。根気よく。

(4)沸騰した湯でさっとゆでる。ゆっくり10秒くらい。

(5)水に十分晒して苦みをとり、固く絞ってみじん切りにし、白だしと混ぜる。

(6)炊いて蒸らしあがった米にバラバラと散らしながら入れ、切るように混ぜる。
好みでいりごまをふる。

芽出しの時期は本当に柔かく苦味も少なく、あっという間にお腹の中に納まってしまいます。
香りや味にくせがある、という山菜のイメージがくつがえります。
手に入ったら是非試してみてください。