年末年始は山形に帰省した。と言っても大みそかの夕方まで仕事をし、その足で東京駅に直行して18時台の山形新幹線つばさに乗るという荒業だ。
たまたま一枚だけ直前にとれたチケット。遅れたらすべて無駄になってしまう。
それでも帰らなければと思ったのは、実家の両親共に80歳を過ぎ、電話で話していても『歳をとったな』と実感からだ。
嫁ぎ先にも要介護の義母がいるが、他の家族にお任せして二泊三日で帰る事にした。
親が歳をとっていると、一度一度の帰省が大事になってくる。それを実感するようになったのは、母が転んでひざと腰を傷めた後である。

雪が降りしきる中、赤湯駅に降り、乗り継ぎのために30分待つ。
我が地元のフラワー長井線は第三セクターで運行本数も少ないが、主な客層である、沿線の高校に通う子供たちのためにラッセル車を動かし、少ない職員総出で頑張っている。
大粒のボタン雪が吹雪にかわるころ、明かりをつけた見慣れたディーゼル車がやってきた。もちろん一両編成だ。
長井駅に着くころには街に人通りはなく、静かな大みそかの夜の駅前通りだった。凍結しつるつる滑る道路を慎重に歩き、ジーパンの裾を雪まみれにして実家に着くと、温かいお蕎麦が待っていた。
刻んだネギをたくさん載せた肉蕎麦。自分でやるからと言っても
「いいがら座ってろ。お母さんなの(お母さんなんか)毎日やってることだがら、さすけねなだ(なんでもないんだ)」
母はそう言って、楽しそうにお蕎麦を温めてくれ、そして日をまたぎ元日になるまでお喋りをした。年越し蕎麦はもちろん美味しかった。
正月二日の最終の新幹線で東京に戻るという駆け足の帰省だったが、許されるならもっとゆっくり居てあげたいと思う。少なくともその間、母は家事から解放されるのだし。
山形県置賜地方のお正月料理は独特かもしれない。少しずつご紹介していく予定だ。

今回は米沢特産の雪菜を使ったふすべ漬けの作り方を習った。
「雪菜」は雪の中で育つ、白い茎を食べる漬物用の野菜で、上杉鷹山公が推奨したと伝えられている。山形県における産地も米沢周辺が主だ。
宮城県の仙台でも栽培されているらしいが、雪が少ないので日に当てて栽培され、その姿も緑色で柔かい葉の分量が多い。
ふすべ漬けというのは熱湯をくぐらせ蒸らすことで辛みを出す塩漬けで、母と一緒に作ったそれは、二泊三日の帰省の最後の夕飯に供されたが、日が足りないせいか漬かりが浅く辛みが足りなかった。
だがスーパーの地もの野菜コーナーで買い東京に持ち帰った雪菜を、教わった通りに漬けてみたら、大学一年生の息子が美味い美味いとモリモリ食べる。
小さい頃から帰省するたびに、実家の山形料理を食べているとはいえ、意外だった。
ピリッとしたサラダ感覚で、雪菜の漬物は若者にアピールするのかもしれない。

今回は寒河江産の「若にんにく」のおひたしも付けてみた。

ニンニクを水耕栽培したもので、柔かい葉も根も食べられる。
素揚げがお勧めと袋に書かれていたが、あっさりと茹でてポン酢で食べてみた。
ふんわりと香る淡いニンニクの香りと歯触りが美味しい。
これも息子が瞬く間に平らげた。
江戸から伝わる野菜と新顔、両方の美味しさを受け継いでくれるのは、在京山形人として大変うれしい事なのだ。

【レシピ】雪菜のふすべ漬け


【材料】
雪菜…1株
塩…小さじ半分~1杯弱。雪菜の大きさによって加減してください。


(1)雪菜を冷水でよく洗い、2~3センチ長さに切る

(2)大きめの鍋にたっぷりの湯を沸かし、雪菜をさっと浸ける。5秒くらい数えてすくいあげ、ざるにとる。

(3)再び先ほどの沸いた湯に入れ、今度は3秒ほどですぐにざるに上げ湯切りをし、蓋をして蒸らす。途中一度ざるを揺すって中身の雪菜の上下を返す。
(4)冷水で充分に冷やし、分量の塩を混ぜジップロックなどに入れて密封する。暖かい地域では冷蔵庫に入れ、ペットボトルやドリンクの缶を寝かせて上に載せ、重しにする。

(5)水が出てきたら重し代わりのドリンクをとり、ジップロックの上下をひっくり返し、3日~4日間置く。辛みが出てきたら出来上がり。塩辛いようなら水に浸け、軽く塩抜きをして食べる。

しゃっきりした歯ごたえが身上なので湯通しする際に時間を置きすぎないようにして、最後にしっかり冷やします。
柚子の皮をそぎ切りにして一緒に漬けても美味しいです。