冬至にはカボチャを食べるものらしい。
らしい、とわざわざ念を押すのは、山形県長井市の我が実家では、しょっちゅうカボチャの煮ものが出ていたからである。

私には一つ年上の兄がいる。顔は母方の親戚に共通の小さな目に低い鼻と似ているらしいが、性格や個性は共通点があるようで、ある面では全く違った。
神経質で完璧主義が講じる余り、出来ないことは全く手を付けない兄に対して、何でも雑食性で興味を引かれては失敗する妹の私。
何か始める前には入念に下調べをする兄に、行き当たりばったりでまずやってみる妹の私。 
食べ物の好みもそうだ。名物の鯉の甘煮も、柔かい卵やワタを食べるのが兄で、小骨を口の中に刺しながら身をほじって食べるのが妹。
冬至カボチャを食べるときもそうだ。
兄は中心部の柔らかい部分と小豆が好き、そして私は刻んでも残る皮の味が好き。二人でよく一つのお鉢の中で分けあって食べていた。
祖父や母は「お行儀の悪い食べ方だ」と顔をしかめたが、子供たちに甘い父は「好きなように食べればいい」と赦したし、祖母は黙ってにこにこしていたように記憶している。
母はカボチャの季節の夏以外も作っていたが、いい加減煮ものにも飽きるので、薄く切った状態の天婦羅やフライもよく食べた。
フライは天婦羅ほど見かけないが、ホクホクカリカリで美味しい。
だが何といっても、家族からブーイングが出ても「あずきカボチャ」が一番好きだった。
他所の地域ではおそらく「冬至カボチャ」と言われるカボチャと小豆の煮もの。
北陸地方や奈良、山口県などの西日本には「いとこ煮」と呼ばれる、やはり豆とかぼちゃの煮物があるが、似て非なるものである。
「いとこ煮」は醤油味の根菜や昆布も入り、茹でた小豆も粒を残して入るおかずだと聞くが、こちらの小豆カボチャは、文字通り小豆とカボチャだけ。
餡になる手前まで甘く煮込まれ半ば潰れた小豆の味に、お日様を思わせる温かい匂いと日向色の角切りのカボチャ。そしてしっかりとした皮の歯ごたえ。小豆の利尿作用とか、カボチャの良質のビタミンと豊富なカロチンとか、健康にいい理由は幾つもあるが、単純に食べておいしい。
そして温かくても冷たいままでもいけるし、一品として食卓も並び、お鉢に盛ってお茶うけとしても出す。
山形のじっちゃばっちゃのお三時や、大工様にお出しするお茶の盆には、漬物、菓子、小豆カボチャ、そしてヤガイのサラミが今でも並ぶのではなかろうか。

繰り返すが、一鉢の小豆カボチャの食べ方も、兄と私では違っていた。
柔かいもの好きの兄はあんこ状の小豆のとろとろした部分から食べ、角切りのカボチャを残す。
反対に私はカボチャ、しかも皮の部分からほじくり出して食べ、小豆はあってもなくても良いレベル。
なので暗黙の了解で、兄妹の間に置かれた一つの鉢の両側からお互いの好きな部分のみ食べ、くるりと左右回転してまた小豆担、カボチャ担に分かれて食べる。

いとこ達とは一番歳が近くても10歳も離れていたから、親戚で集まっても「小豆カボチャ」と「いとこ煮」ほどに、何もかもが違う。
その点二つ年上の兄とはしょっちゅう一緒にいた。
兄が小学校に上がるまで、年上の兄の友人の男の子達についていこうと、ライダーごっこにもウルトラマンごっこにも頑張って混ぜてもらった。
小学校に上がり、学年が進むにつれ次第に避けるようになり、お互いの世界が分かれて行った。
そして中学生にもなると口もきかなくなったし、学校で見かけても無視するようになった。
兄も、友人からあそこにお前の妹いるじゃん、とからかわれるのが嫌だったらしい。
私も家以外の場所で兄を見るのはなんとなく気まずかったし、からかわれた。
兄が専門学校を終え、私も大学を終えてお互い働き始めてからだ。
ぎこちなくとも再び会話が成立するようになったのは。

まだほんの幼い頃、私はいつも兄の背中に隠れていた。
冬の吹雪の時など、毛糸の帽子の上からアノラックのフードを被り、赤い長靴を履いて兄の背中にくっつき、手袋をはめた手を兄の胴に回してひっついて歩いた。
兄はうざがって「足が邪魔。一人で歩がんねなだが」(足が邪魔だ。一人で歩けないのかよ)
と文句を言ったが、手を振りほどいたり突き飛ばしはしなかった。
自分の脚元に絡みそうになる妹の足をよけながら、それでも一緒に歩いてくれた。私を背後にくっつかせてくれた。

一鉢の小豆カボチャを分け合って食べていた頃は二度と戻らない。
いいおっさんになった兄には、今でもそういう、不愛想で誤解されがちだが優しいところがある。
面と向かっては、絶対に言ってやらないが。

【レシピ】甘さにホッと 冬至カボチャ(小豆カボチャ) 


【材料】
市販の小豆…1袋
かぼちゃ四分の一個~好きなだけ
砂糖150グラム~200グラム


(1)小豆をざっと洗って、大きめの鍋に入れ、被るくらいの水を入れ、中火で煮る。

煮立ってアクの泡が出てきたら静かにざるにあけ湯を捨て茹でこぼして洗い、鍋に戻し、再び被るくらいの水を加えて煮立つまでは中火で、煮立ったら弱火で何度か差し水をしながら、豆が柔らかくなるまで煮る。

それでも出てくるアクはすくうか、あく取りシートを使うと良い。
目安は一粒指で潰してみて、簡単につぶれるようになるまで。
潰れてあんこになってしまうのであまりかき混ぜない。鍋を揺すって混ぜる。
(2)カボチャはスプーンで種とワタを取り除き、皮ごと3センチ角位に切る。厚みはそのままでいい。

(3)小豆が柔かく煮えたら刻んだカボチャを加え、砂糖100グラム位を加えて15分くらい煮る。

(4)カボチャが柔らかくなったら塩3つまみくらいと、砂糖を50グラム位入れ(味を見ながらすきな甘さになるまで)、弱火で水分がなくなってぽってりしてくるまで煮る。

煮詰まってきたら木杓子でなべ底からこするように混ぜて、焦げ付かないようにする。
ぽってりと艶よく煮詰まったら出来上がり。

出来たてより少し寝かせて味を馴染ませてから食べた方がよりおいしいです。

もう一品、冬至カボチャといとこ同士のようなベトナムのスイーツ、『チェー』をご紹介します。小豆とカボチャだけでなく、栗やさつまいも、パイナップルなど色んな組み合わせで作れます。

【ベトナム南部風デザート・チェー】

(1)かぼちゃ四分の一個は皮ごと一口大に切り鍋に入れ、カボチャの半分くらいの深さまで水を入れ、塩3つまみほど振り、蓋をして中火で煮る。
(2)かぼちゃが半煮えの状態になったらココナツミルク2カップと砂糖大匙2くらいを入れ、カボチャが柔かくなるまで弱火で煮る。
(3)ゆであずき小1缶を加え、あらく混ぜる。完全に溶かし込まないように。
(4)温かいままでも、冷めてから食べてもOK。

冷めたものにかき氷やバニラアイスを載せるとカロリー度外視の禁断の美味しさ。
ココナツミルクの風味が効いています。試してみてください。