子供のころ、「かど」という焼き魚が好きだった。

我が家は織物職人の工房で三世帯同居で、幼い頃からおともだちの家より頻繁に、お年寄りメニューが食卓に上った。その結果兄と私は、ハンバーグやスパゲティーより焼き魚やお刺身が好きな子供として育った。
なかでも大きなニシンを一匹のまま姿焼きにした「かど焼き」は好物で、小骨を喉に刺して泣きながらも、一生懸命身をほぐしては食べていた。
オスの腹には白子。メスの腹には卵。
かど焼きの身より、卵や白子の方が好きだったが、卵を抱えた魚は長男である兄の前に出され、妹の私の前には白子の入ったオスだった。
その時かどが腹の中に抱えていた真っ白いプチプチの卵が、お正月に出される黄金色の数の子と同じものだとは気づかなかった。

山形県の内陸部では「ひたし豆」「うるかし(ひたす、の方言)豆」「数の子豆」といって、青大豆と数の子を醤油・みりんで作った汁に浸した料理を、お正月料理の一品として食べる。
真冬に青物が手に入りにくい頃は乾燥青豆や青大豆を乾物屋から買ってきて、一晩水で戻してゆっくり茹でていたらしいが、母はじんだん(ずんだ)用にと冷凍しておいた枝豆を解凍し、作っていた。
元は福島県の会津地方の郷土料理だという。

福島と山形とは昔から密接につながっていた。
境の飯豊連峰、吾妻連峰の山を越え、色んな文物が行き交った。
戦国武士、キリスト教、食べ物や文化もたくさん。
そして幕末・維新の頃、会津からは大勢の人たちが米沢に逃れて来たらしい。
父方祖母の家も、幕末に会津から逃げ延びてきた一族だと父から聞いたことがある。
祖母が世を去り、我が家に繋がる親戚たちも大層少なくなりつつあるが、子供のころ遊びに行ったときのように、縁側でゼンマイを干す古老の隣に座って、『数の子豆って好きだった? 会津ではどんなふうに作っていたか聞かせて』と尋ねてみたかった。

2018年は戊辰戦争150周年だった。
2019年の春には『平成』も終わる。

皆さんは新しい年をどのように迎えられますか?
数の子は「子孫繁栄」、豆は「まめまめしく」にかかっているとは言いますが、まめで健康で、必要なだけの金運にも事欠かず、平穏にお過ごしいただけたらそれが何よりの幸せかもしれません。

良いお年を。

【レシピ】数の子豆(うるかし豆)


【材料】
数の子…スーパーや食料品店で売っているもの。100グラムくらい
冷凍枝豆…冷凍食品を数の子と同量~好きなだけ
薄口しょうゆ、みりん、酒


(1)塩漬けの数の子だったらしばらく水につけて、好みの加減に塩抜きをする。味付けの数の子だったらそのまま小さく切る。
(2)冷凍枝豆を室温で解凍し、豆をさやから出す。

(3)むいた枝豆を30秒ほどレンチンする。

(3)薄口しょうゆ、みりん、酒少々でつゆを作り、温かい豆を漬け込む。
(4)すっかり冷めたら刻んだ数の子を入れて混ぜ、冷蔵庫で冷やす。

甘いものが多いお節料理の中でも塩気が効いていて人気。白いご飯にも合いますから手軽に作ってみてください。