山形県長井市の我が家は父方祖父母と同居していた。
 おばあちゃんは60代で他界したので、記憶に焼き付いているのは私たち孫に『お米に宿る七人の神様』を教え、白いご飯は白いままと諭してくれたおじいちゃん、じじちゃである。
 じじちゃは84歳で天寿を全うしたが、ある時から次第に食が細くなっていった。もともとそんなに健啖な人ではなかったが、酒量も減りご飯も茶わんに半分がやっとになった。
 大好物だった、母が作る肉みそや鰹節みそを添えても『口が不味くて』と残すようになった。

「年とったなだもの、食も細くなっこで(細くなるわな)」

 とじじちゃ自身は笑って言っていたし、私と兄の二人の孫もそう思っていた。
 代わりに好きになっていったのが、アイスクリームやみぞれなどの『冷たくて甘ごいもの』だった。
 産地で埋まり暮らしているのに、あまり積極的に果物を食べる人ではなかったが、かき氷やシャーベットにするとよく食べてくれた。
 私はじじちゃの体調を心配しつつ、夏の山形で豊富に出回る地元産の甘くて大きな桃を潰したシャーベットを作った。
 果汁に砂糖を加えて金属製の弁当箱で凍らせて、何度もかきまぜて口当たりを柔らかく仕上げようと苦戦した。
 今のようにアイスクリーマーの無い時代、シャーベットやアイス作りは手間も時間もかかったし、きめ細かくもできなかったが、じじちゃは大層楽しみにしてくれた。
 私が果物の皮を剥いたり潰したり、フォークでシャリシャリと固まりかけたシャーベットを崩して混ぜていると、台所に寄って穏やかな声で話しかける。

「お菓子作ってだなが? 美味く作って、またじじちゃさもけろな(またお菓子作っているのかい? 美味く作ってじじちゃにもちょうだいな)」

 そして出来たシャーベットをガラスの器に盛って、はいと運ぶと、

「冷たくて美味いごど」

 と言いながら喜んで食べてくれた。
 シャーベットを作る時間がない時は氷をかいて、たっぷりとコンデンスミルクやカルピスをかける。
たったそれだけのかき氷なのにお気に入りで、喜んで食べてくれた。
淡い淡い、一瞬だけど心に残る甘さだ。
じじちゃと私たちの時間のような。

 

【レシピ】桃のミルクシャーベット


 

【材料】
桃…中くらいの大きさのもの2個くらい~好きなだけ
チューブのコンデンスミルク…1本~。量の調整が簡単なので今回はチューブにしましたが缶入りでも結構です。
これで中サイズのジップロック一枚にちょうどの量です。ほぼ3人分。


(1) 桃は熟れ過ぎだったり少々傷のあるものでも構いません。皮をむいて種を避けて粗切りにします。種の周囲にもまだ実がついているので捨てないで。

(2) ジップロックなどの丈夫な密封袋に切った桃の実と種を入れ、手で細かく潰します。種の周りの実も潰して混ぜたら、種は袋から取り出して捨てます。

(3) ペットボトルでローラーのようにひいたりしながら、出来るだけピューレ状に潰します。袋の口は閉めておきますが無理して破裂させないように。

(4) 充分に潰れたら袋の口を開けてコンデンスミルクを絞りいれます。凍らせると甘味を感じにくいので一本全部。入れたら長い柄のスプーンでよく混ぜます。
(5) 袋の口を閉じて再び揉み混ぜ、冷凍庫に入れて冷やし固めます。途中柔かく固まりかけた頃合いで取り出し、揉み混ぜます。これを二度ほど繰り返します。

(6) 充分に冷やし固めた所で袋からスプーンですくってお皿に盛ります。

切ったフルーツなど飾るとより見た目も美しくフレッシュですし、甘党さんは更にコンデンスミルクをかけても。

かなり省エネレシピですが、洗い物も少なく桃の香りが立った美味しいシャーベットができます。桃をたくさんいただいた時などどうぞ。

フルーツ王国山形県は、サクランボやラフランスに隠れがちですが、実は桃もたくさんとれます。夏のデザートは桃、すもも、スイカです。
冷やし過ぎない状態で皮をむき、かぶりついても美味しい桃を今回はシャーベットに。
柔かく固めるには泡立てた卵白や生クリームを入れる方法もありますが、よりお手軽にチューブのコンデンスミルクを使ってみました。

特に酷暑のこの夏、冷たい甘味で乗り切りましょう !