10年に渡る地域振興プロジェクトの集大成として映画『ライズ-ダルライザーTHE MOVIE-』の主役、館アキヒロ/ダルライザーを演じ、キャラクターデザインやプロデュースもこなした和知健明さんのインタビュー。その1では映画とダルライザーというコンテンツに対する思いに加え、和知さんの考えるヒーロー像についても語っていただいた。今回その2では、困難を極めた撮影の秘話や出会った仲間たちに対する思い、地域の人々についてもさらに詳しくお話を聞いた。

Q: プロデューサーで主演でもある和知さんにとっての、子供の頃好きだったヒーローは誰か、また大人になりヒーローを考えるきっかけになったのはどんな事か教えてください

和知氏「子供の頃は仮面ライダーや戦隊、マグマ大使なんかもビデオで観てましたね。ですが、将来生まれ故郷のヒーローを作るなんて考えておらず、帰郷した当初も親の跡を継ぐために働いていました。考えが変わったきっかけは自分の病気です。
ちょうど子供が生まれるという時期に膵臓の病気がわかり、医者に一生付き合っていかなくてはならないと言われたんです。その時考えました。子供も生まれるのに街はシャッター街。このままでいいのかと…。
ちょうどその頃白河商工会議所青年部で新しいキャラクターを作ろうという会議があり、自分が描いたのがダルライザーです。街とヒーローを色々考えるようになったのはそこからですね。
もし自分が病気で死んだ後も妻が『お父さんはこんなことを言っていたよ』と子供に伝え、それで元気であきらめない子供になって、強く生きてほしい。その思いで生まれたのが『努力と工夫で立ち上がれ』という決めセリフです。驚いたことに、活動をしているうちに治らないと言われた膵臓の病気は完治しました」

貴重な経験をなさった和知さん。まさに『何度でも立ち上がれ』である。

Q: ヒーローと言う響きに、人はある種の劇的なものを感じると思うのですが、和知さんご自身、病気の他にも『ヒーロー』を感じた経験はありますか?

和知氏「僕がダルライザーとして初めてお披露目したイベントで握手にきてくれた幼い三人兄弟に出会った事ですね。五歳くらいのお兄ちゃんがベビーカーを押しながら寄って来て『すみません、握手してください』と言われました。僕が手を出したら振り返って三歳くらいの弟を引いて来て握手させて、それからまた『こっちの子もいいですか』とベビーカーを僕の前に押して来ました」

Q: 五歳くらいのお兄ちゃんがですか

和知氏「そうです。で、赤ちゃんと握手すると『ありがとうございました』と帰ろうとしましたが『あ、すみません、僕ともいいですか』と。お兄ちゃんは最後に自分も握手をしてお礼を言って、弟達を連れて帰ったんですが、五歳くらいの子が自分ではなく弟達の握手を優先した事に、彼こそヒーローだと感動しました。その素直な優しい心を持ったまま大きくなって欲しいと思いましたね。ヒーローとはどうあるべきかというのは考えていますが、あの子のような行為そのものが『ヒーロー』だと思っています」

Q: ダルライザーには必殺技がありませんね。

和知氏「はい。いわゆる必殺技ではなくケイシという近接戦の格闘術を使います。元々ダルライザーを作ろうと思った時に観ていた映画が『バットマンビギンズ』でした。その中で使われていたケイシに魅了され、ショーなどでも見よう見まねで演じていたのです」

ダルライザーとして本格的に活動するにあたり、和知氏はケイシのホームページからスペイン在住の創始者・フスト氏にコンクタトをとって招聘、本格的に学び、日本人初のケイシインストラクターの資格を取得した。※スペイン語での表記はKEYSI。

映画の中でもダルライザーとフスト氏はケイシを駆使して大勢の敵と戦う。

Q: ラストに向けてのダイスの集団シーン、特に最後の夜の宴会シーンが素晴らしいと思いながら拝見しましたが、先程のお話しだとこのシーンは最初の頃に撮影されたのですか?

和知氏「はい。ですが実は撮りなおしています。12月に撮影されたこのシーンはダイスのクランクインで、演技トレーニングをしたとは言え、初めての撮影。緊張で本領を発揮できていなかったですが撮影が進む中、プロの役者さんと絡むシーンを経験していくうちに皆上手くなっていったのです。4月にほぼ出来上がり粗く繋げたものを見た時、その差は歴然としていたので、撮りなおしました。結果、リラックスして撮影ができたおかげか、普通の市民が居酒屋で話しているような自然さが出ていて、とてもよかったです。
あの居酒屋のシーンは脚本段階の最初からありました。どうしても悪役の飲み会を入れたかったのです。便宜上「悪」と呼んでいますが、ダルライザー対ダイスは実際は正義対正義のぶつかり合いで、彼らの日常も描かないと親近感がわかないからと譲りませんでした。僕が切望したシーンです」

Q:  医者であるダイスのNo.4がダルライザーの妻の診察に訪れ、家の内偵をしていくという展開も、本当にコミュニティーの中に溶け込んでいるけど、実は…という怖さがありました。

和知氏「No.4は普段は医者という設定ですが、ダイスになるとマスクをつけて活動しているので正体が分からず、両者は繋がりません。すぐそばにある恐怖、という点も織り込んでいます」

ダイスに思考を乗っ取られた市民の群れがダルライザーの家に迫る、大詰めのシーンについて

Q:  終盤は、ダイスの思想に共鳴した市民が次々に大きなうねりを形成していく怖さが非常に感じられました。その地で暮らしている人たちがダルライザーの家を襲うというのも緊迫感が伝わってきますね。

和知氏「あのシーンはご近所の方に『襲撃されている』と通報されたんですよ(笑)。出動した警察に映画の撮影ですと説明して無事撮り終えました」

ラストに向けての激しい流れの中で、出産・友情・街への想い・絆。
それぞれの正義が交錯し、幾つもの戦いが同時に繰り広げられていくシーンは圧巻。
沢山のキャラクターが活躍する山場は誰かに感情移入して見る事が出来るだろう。
身近な存在が活躍するのがダルライザーならではの展開だ。

Q:  色々な思いが重なり合い、怒涛のラストまで突っ走って行った先の、最後のダルライザーの叫び、そしてその声を聴いた市民が自分達の未来を選ぶというシーンが心を打ちます。

和知氏「ありがとうございます。ラスト30分は特に皆の思いが詰まっています」

Q: 前のインタビューでも伺いましたが、145分という上映時間は、ラストシーンを迎えるために必要な長さだと思いました。

和知氏「僕もそう考えています。実は東京公開にあたり、スタッフと検討しながらラスト30分はそのままに、前半をがっつり15分ほど削る132分バージョンを作ってみたのですが、ラスト30分のシークエンスが登場人物達を応援できないんですよね。
前半に妻や市民、友人とのシーンがたくさんあるから、後半の皆の戦いを応援できる。前半をカットしたら後半の彼らのシーンもそれだけ削らないと心情的にバランスが取れない。
地域を巻きこみ、一般の市民みんなの可能性を感じてもらい、様々な人にスポットを当てるには、あれは確かに最低限必要な長さだと実感しています」

Q: では最後に改めて、『ダルライザー』の今後をどのように考えているのか、お聞かせください。

和知氏「夢は色々ありますが、街まるごと物語の世界にしたいと思っています。サイコロ型の正立方体のビル『株式会社ダイス』を建てたい。GoogleМAPで見ると白河にどデカいサイコロが置いてある。そんなエンターティメントの発信基地です。
それというのも、ダルライザーの物語中では悪側として描かれていますが、ダイスは本来、社会変革集団。街を変えたいと思っている人たちなので、実際に街を変革する会社としてダイスを位置付ける、という展開が出来たら面白いなと考えています。
そこに新たな敵が登場する等、今後も広がるストーリーに向けて色々展望はありますが、それには多くの街の人の参加が必用です。
この映画を見て自分にも何かできると思って加わる方が増え、どんどん白河という街を育てる方が増え、変わっていけばいいなと思っていますし、まずはその基盤として今回の映画をたくさんの人に観ていただきたいです」

Q: 人口6万人の白河市はまだまだ発展していきますね。

和知氏「白河市は本当に場所に恵まれていて、新幹線も在来線も止まりますし高速道路もあり交通の便も良い。小さな街だからこそ、変えやすいし、発展の余地があると考えています」

 本当に素敵な展望が実現することを願っております。本日はお時間を割いていただきありがとうございました。


人の未来は誰にも分らない。

「思ったらまず行動する」「出来ないと判断する前に挑戦する」そして「何度でも諦めず、努力と工夫で立ち上がる」

白河名物だるまとサイコロをモチーフにしたキャラクターの活動に賛同し、発展のために行動に移していった市民一人一人が、まぎれもないヒーローなのだ。

 

ダルライザーの公式サイト
http://www.dharuriser.com/

映画「ライズ・ダルライザーnew edition」は2019年3月9日より全国公開を予定している。
詳しくは上映館情報をご参照ください。
http://www.dharuriser.com/movie#modalInfo