何十年と続く居酒屋や若い人が集まる雑貨店が軒を並べ、路地では猫が日向ぼっこ。桜山界隈の魅力はなんといっても、歩いて楽しい風情にあると思う。

盛岡城跡公園(岩手公園)と隣接しているため、昼は観光客や修学旅行生の姿もみかけられるが、夜になると居酒屋の看板にあかりがつき、仕事帰りの人たちが暖簾をくぐっていく。それを見守るかのように「櫻山神社」が建つ。観光のまちでありながら、人の暮らしも感じられるのが、桜山の魅力かもしれない。

櫻山神社は、「桜山さん」と親しみを込めて呼ばれていることからも、地域に根ざし愛される神社である。それでも、権禰宜の佐藤辰吾さんは、もっと身近で、折に触れて訪ねてもらえる神社でありたいと考えている。

そのきっかけになればと考え、初詣に合わせて、干支にちなんだオブジェをつくり、1月1日を迎えると同時に拝殿に飾る。

2017年12月、年末が押し迫った時期、佐藤さんは、2018年戌年にちなんだオブジエを製作していた。1体は、【前編】で紹介したとおり、神社で飼っていた「みよちゃん」。もう1体は、ウケを狙ったもの。

 

(【前編】はこちら)

 

毎年、何が登場するかを楽しみにしている人もいるため、【前編】では、ヒントとなる「みかん」のみを掲載したが、わかった人はいらっしゃっただろうか。

そして、1月1日、満を持して登場したのが……。

 

「花京院たちへのいい土産になるがな」
櫻山神社にイギーが出現!

 

佐藤さんを紹介してくれたサブカルおじさまに、「ウケ狙い犬をつくり始めたよ」と情報をいただいたとき、どんなものだろうかとあれこれと想像した。スヌーピーかしら。いやいや酉年に「男おいどん」のトリさんをモチーフにしたものをつくるような方だから違うだろう。では、なんだ? 「アンパンマン」のめいけんチーズ、「フランダース」の犬のパトラッシュ、「アルプスの少女ハイジ」のヨーゼフなどが頭に浮かぶが、いまいちピンとこない。

そして、作業場で対面したのが、白黒のボストン・テリアの頭部。

これは、もしかしたら、イギーか!

 

「正月のお供えにはみかんがつきものでしょう。だから、イギー。漫画はオレンジですが」と話す佐藤さん。

イギーは、荒木飛呂彦の漫画『ジョジョの奇妙な冒険』第3部「スターダストクルセイダーズ」に登場するスタンド使いの犬である。ストーリーの中で、イギーが爆弾オレンジを咥えて走っている車に乗ってくるシーンがある。これをモチーフに選んだ。

ヨーゼフでもパトラッシュでもなく、イギーなのは、佐藤さんの中で次のような発想と連想があったからだ。

「正月 → お供え → みかん → オレンジ → イギー」

 

そして、1月1日の鉦とともに登場したイギーは、お供えのみかんを咥えていた。

 

【前編】で紹介した「みよちゃん」も登場。

 

変化球でくる佐藤さんの干支オブジェと七五三のポスター。

この発想は、どこからくるのだろうか。

 

気がついてクスッとしてくれる
そういうものがいい

 

ある年から櫻山神社の七五三の手描きポスターが気になっていた。何が気になるかというと、普通じゃないところだ。一般的な七五三のポスターというと、着物姿の子どもの写真やイラストが入ったかわいらしいものである。櫻山神社のポスターは、決してかわいいものではない。だが、目を引き、ついつい見てしまう。それが毎年、七五三の時期になると掲示されるのだ。

このポスターを描いていたのが、佐藤辰吾さんである。

「描き始めたきっかけですか? 櫻山神社に奉職する前にいた神社では、市販のポスターで七五三の告知をしていました。しかし、その絵はインパクトがなくて、街に貼ってもあまり効果がないような気がして、自分で描いてみようと思ったのです」

描いてみたら、反響があった。声をかけられたり、テレビに取り上げられたりした。テーマによっては、賛否両論があったという。

「孫が『絵が怖いといっているから外してほしい』という電話がかかってきたこともありましたね」と苦笑する。しかし、多くは好意的だった。

七五三のポスターは、その年に流行ったものを題材にしているという。白洲次郎が流行った年は、白洲次郎をテーマにし、「ダンディーもやっぱり七五三詣」とキャッチを入れた。『ジョジョの奇妙な冒険』風もあり、「七五ゴゴゴ…三詣」と漫画擬音が取り入れられている。

(左)白洲次郎風 (右)ジョジョ風
七五三のポスターを貼る佐藤さん。

 

佐藤さんは、初期のころの作品を保存していない。そもそもポスターの役割は「告知」であることから、役目を果たせば破棄されてもしかたがない。画像として残されているものを見ると、その年の流行りを取り入れているが、必ず男性・女性・子どもという〝家族〟で構成されている。

七五三のポスターから始まった製作は、干支にちなんだオブジェへと、さらに節分の「ジョジョ鬼」へと広がった。

 

佐藤さんは、美術を専門に学んでいない。実家は太平洋を望む山田町。実家の目の前が神社で、佐藤さんも神楽を舞っていたこともあり、神社は馴染みのあるものだった。その当時は教職志望で、神職になるとは想像していなかったという。

「子どものころから漫画が好きでした。諸星大二郎、コンタロウ、江口寿史、車田正美などを好んで読んでいました。みんなもやったと思いますが、ノートに絵を写したりもしましたよ」

同時期には、松本零士や永井豪も活躍していた。

高校を卒業した佐藤さんは、國學院大学へ進学。アルバイトをしながら大学へ通った。アルバイト先は工事現場が多かったという。そのころに身につけた技術がオブジェ製作に役立っている。

 

作業は1日の奉仕が終わってからになる。夢中になって、真夜中まで作業することもある。

 

「漫画は立体のものを二次元にしますよね。それをまた立体に戻すのが難しくてね」と話しながらも手はよどみなく動いていく。

イギーの頭部を製作中。カッターナイフで削っていく。
後日、イギーの胴体をつくる。奉仕が終わってから時間を見つけての作業。

 

発砲スチロールで型をつくり、紙粘土で細かい部分を成形していく。イギーもみよちゃんも質感を出したいからと、ボアの生地を貼った。

みよちゃんは近くで見ると、しっかりと髭が生えている。なんて細かいのだろう。ここまでくると、愛を感じずにはいられない。いや、クリエーターといっても過言でない。

みよちゃんのヒゲや涙やけも再現。

 

佐藤さんは、「つくるのは苦ではない」という。「拝殿に飾るオブジェをつくったあと、時間があると神門に飾るものや、あれもこれもつくってみたくなる」と笑う。

12月中旬に完成したオブジェの写真を撮るために訪ねると、「神門に飾る犬のテーマも閃いたんですよ。絶対に内緒にしてくださいね。これですよ」と、腕を横に振りあるポーズを取った。

「若い人は知らないじゃないですか」

「私たちの世代の人たちが気づいて、クスッとしてくれればいいんです」

なるほど。だから「男おいどん」であり、「バビル2世」なのだ。「そういえば、そういう漫画があった」と思い出して笑えれば、正月から楽しい気分になる。万人に受けなくてもいい、誰かが気ついてくれればいいから、オブジェやポスターにはおもしろさが感じられ、次は何が出てくるのかと興味が出てくるのかもしれない。

神門に飾られた栃の嵐。山上たつひこ『がきデカ』に登場。

 

節分の「鬼」は、『ジョジョの奇妙な冒険』をテーマにしている。佐藤さんの長男が好きな漫画であり、若者にも人気があるからだ。

「高校生や大学生が神社の前で写真を撮っていくんです。一緒にポーズをしてくれと頼まれたこともあります」

こういうところから若い人が神社に興味を持ってくれればと願っている。

正月明け、犬連れ男性が訪ねてきて、「飾ってあるワンちゃん! あれはみよちゃんだよね!」と聞いてきたという。オブジェには、「みよちゃん」とも「イギー」とも一切書かれていない。

もうすぐ節分である。すでに「ジョジョ鬼」のテーマも決まった。なにが出現するのか、楽しみである。

ジョジョをモチーフにした「ワムウ鬼」。2013年の節分に出現。

【櫻山神社】

 「櫻山神社」の創建は寛延2年(1749)、盛岡8代藩主・南部利視公により建立された。当時は城内淡路丸(本丸東側)にあった。明治維新後、盛岡城が明治政府に接収されたため、妙泉寺山(盛岡市加賀野)、聖寿禅寺跡(盛岡市下)へ遷座。明治23年(1890)に現在の地に奉還鎮座。本殿の隣には、盛岡城築城時に出現し、南部藩主が吉兆のシンボルとして崇拝した大石「烏帽子岩(宝大石)」がある。

■住所/岩手県盛岡市内丸1-42

 

盛岡藩のしめ飾りを飾った櫻山神社。
鳩おみくじを結ぶ場所が電柱と電線になっている。鳩が電線に並んでいるようでかわいらしい。
盛岡市動物公園にアルパカの赤ちゃんが生まれたときにつくった「チャグパカ」。チャグチャグ馬コに合わせて神門前に飾った。そのあと、「メカパカ」もつくることに。